◇SH3921◇中国:M&Aの買主候補が中国企業である場合の留意点――中国の対外投資規制概要と対処(1) 鹿 はせる(2022/02/28)

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中国:M&Aの買主候補が中国企業である場合の留意点
――中国の対外投資規制概要と対処(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

 近時、M&Aでは中国系企業が買主候補として登場することが増えているが、中国国内の対外投資規制との関連で、取引のクロージングの遅延や、実行できないリスクが問題となることがある。日本側の売主は、買主側から「中国法令上の要請」と言われると、それ以上は追及しないことも多いが、実際にどのような規制があり、どのような対応が求められるかを知っておくことは、買主候補である中国企業と交渉し、取引完了までの日程を確定する上で有益と思われ、簡単に概観した上で、典型問題の対処について検討する。

 

1. 中国企業の対外投資規制の概観

 海外企業の買収を含め、中国企業が対外投資を行うには、大まかに、①発展改革委員会に対する事前届出又は許可、②商務部門に対する事前届出又は許可、③外貨管理局に対する外貨登記が必要となる。そのうち、①と②が「対外投資して良いかかどうか」の許認可であり、根拠法令及び提出先が異なるだけで、申請内容はほぼ共通している[1]。③は、認められた対外投資について、投資に必要な外貨を使うための手続と理解して良い。

 

 前提として、規制が及ぼされる対外投資は、海外企業の買収に限られない。根拠法令上、対外投資は海外の不動産の取得、海外企業・資産の所有権・経営管理権を取得すること、海外での企業の設立、増資、契約・信託方式により海外企業及び資産を支配すること等、幅広い定義が設けられている[2]

 

 次に、①及び②の手続において、届出か許可のいずれかが必要かを分けるのは、申請された対外投資の「センシティブさ」による。センシティブさ(敏感度)は、中国投資関連のキーワードであるが、対外投資においては (a) 投資先のセンシティブさと (b) 投資産業のセンシティブさに分けられる。(a) については中国と国交がない国、戦争内乱が起きている国、(b) については武器製造関連産業、水資源開発利用作業、マスメディア産業が例示列挙されているが、いずれも当局が追加修正できる建付となっている[3]。センシティブであるとみとめられる国又は産業への投資は事前許可が必要であり、そうでない国又は産業への投資は事前届出で済む[4]。以下では①及び②の事前届出及び許可をまとめて、対外投資許認可という。

 

 対外投資を行う企業は、対外投資許認可を取得してから、管轄の外貨管理局において当該投資資金の資金源及び使途等に関する説明を行い、「国外直接投資外貨登記」を行う。企業は、①、②の許認可の取得証明及び外貨登記証をもって、初めて銀行で投資用の海外送金を行うことができる[5](中国は概して、お金を国外に出すことに対しては厳しく、外貨送金については逐一目的の適切性及び支出の真実性をチェックする制度が設けられている。)。

(2)につづく

 


[1] 根拠法令は①発展改革委員会管轄の企業境外投資管理弁法(2018)と②商務部管轄の境外投資管理弁法(2014)である。規制内容はほぼ共通しているが、後に成立した企業境外投資管理弁法がより引用されることが多く、本稿でも以降法令の引用は企業境外投資管理弁法に依拠する。但し、①、②いずれの許認可も取得が必要であり、順番の先後もない。なお、①、②は対外投資に関する一般的な規定であるが、その他に投資先の産業に応じた規制(例えば、自動車産業投資管理規定(2018))や、投資元の企業に応じた規定(例えば、中央企業境外投資監督管理弁法(2017))等があり、複雑な規制が置かれている。

[2] 企業境外投資管理弁法2条

[3] 企業境外投資管理弁法13条。なお事前許可が必要となるセンシティブな投資産業は国家発展改革委員会が目録を公布・更新しており、現行の目録では不動産、ホテル業、スポーツクラブ産業、娯楽産業等が掲載されている。安全保障上さしてセンシティブに見えないこれらの産業が制限されている理由は、中国当局から見て、これらの産業に対する国外投資は、国内資産の海外移転手段として使われやすいと思われているためである。

[4] 企業境外投資管理弁法13条及び14条

[5] 具体的には「境内機構境外直接投資外貨管理規定」(2009)参照。

 


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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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