SH4262 中国:中国版CFIUS(外商投資安全審査弁法)の概要と運用の現状(2) 鹿はせる(2023/01/06)

M&A・組織再編(買収防衛含む)

中国:中国版CFIUS(外商投資安全審査弁法)の概要と運用の現状(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

(承前)

4 違反に対する措置

 安全審査が必要となるにもかかわらず届出を行わない場合、①当局は当事者に対して、指定する期限内に届出を行うことを命令できる、②①に基づく届出を行わない場合、当局は当事者に対して、株式、資産の処分等を通じて投資実行前の状態に回復することを命令できる、と規定されている(18条)。

 また、未届出のみならず、虚偽の情報提供や情報を隠匿した場合、付加条件の不履行も是正命令等の対象とされている。

 

5 同制度の運用の現状・留意点

 安全審査弁法は施行から約2年経過したが、独禁法に基づく企業結合届出等と比較すると、その運用の実態に関する公開情報は極めて限定的であり、当局も審査及びクリアランス状況を公式ウェブサイト上で公表していない。しかし、安全審査が行われた実例が増えてきていることは、M&A取引の際に同審査が必要となった上場企業のプレスリリース等から見て取れる[1]

 現状、安全審査のクリアランスが拒否された事例は、まだ1件も公表されていない。しかし、クリアランスの取得に想定外の時間がかかることから、取引の中止が公表された事例は存在する[2]。M&A取引当事者の企業としては、安全審査の届出を行うと、審査の過程が不透明であり、審査期間も固定されておらず、長期化するおそれがあるため、届出を躊躇う企業が多いのが現状である。中国における企業結合審査の経験を踏まえれば、実務上、事前照会に関して1か月以上、審査に関して6か月以上の期間がかかることが十分想定される。

 この点、上記のとおり、安全審査弁法上、安全審査が必要となるにもかかわらず届出を行わない場合、当局は当事者に対して、指定する期限内に届出を行うことを命令できると規定されており、(独禁法の企業結合届出と異なり)届出の懈怠に関する処罰が特段定められているわけではない。この点を捉えて、届出を事実上任意であると整理して、当事会社自ら進んで安全審査の届出を行わず、当局からのコンタクトがあった場合に(安全審査の要否等の協議を含め)対応することも少なくない。もっとも、この場合、当局からの突如のコンタクトがあったときには取引スケジュールの遅延が起こるのみならず、取引をクロージングできないリスクも高まることから、M&Aの取引契約に中国での安全審査が必要とされた場合を想定した条項を入れておくことが望ましいと思われる。

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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

 

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