SH4032 シンガポール:ギャンブル(賭博)規制の全面的見直し(1) 酒井嘉彦(2022/06/20)

そのほか

シンガポール:ギャンブル(賭博)規制の全面的見直し(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

1 はじめに

 シンガポールでは、あらゆる形態のギャンブル(賭博)を一律禁止することは現実的ではなく、望ましいことでもないという立場を前提に、厳格な保護措置を講じた上で、一定のギャンブル行為を容認するという現実的なアプローチを採用することにより、ギャンブルに起因する社会的被害(犯罪や依存症の問題等)を最小限に抑えることを目指している。今般、ギャンブル規制を全面的に見直すための新たな法案が提案されているところ、そこでは新たな技術を用いたギャンブル行為や新たな形式でのギャンブル要素のあるビジネスモデルをカバーすることが試みられている。そのシンガポールにおけるビジネスモデルにおいて、運により左右されるギャンブル要素を伴う商品・サービスが含まれている事業者(例えば、景品・くじの要素が含まれる商品・サービスを提供する事業者や、ギャンブルの要素が含まれるゲームを提供する事業者など)にとってかかる法改正の動きは重要であるため、その改正動向の概要を紹介する。

 

2 これまでのギャンブル関連規制

 これまでシンガポールでは、ギャンブル行為は、The Betting Act(賭博の禁止に関する一般的な法律)、The Common Gaming Houses Act(賭博場に関する法律)、The Private Lotteries Act(私営のくじに関する法律)、The Casino Control Act(カジノ規制に関する法律)及びThe Remote Gambling Act(リモートギャンブル規制に関する法律)といった関連法により規制されてきた。

 

3 法規制の全面的見直しの背景

 2021年7月、シンガポール内務省(Ministry of Home Affairs(MHA))は、シンガポールにおけるギャンブル規制を全面的に見直す旨を公表した。そこでは、技術の進歩(インターネットやモバイル・コンピューティングなど)がギャンブルへのアクセスを容易にしており、また、ギャンブルとギャンブル要素のあるゲームとの間の境界が不明瞭になってきていることといった近時のトレンドを例に挙げ、従来はギャンブルと認識されていなかった商品・サービスにギャンブル要素を導入するビジネスモデルが存在することを踏まえ、そのような近時のトレンドに対応するために法規制を整備する必要がある旨が述べられた。

 そして、2022年2月14日に、新法案であるGambling Control Bill(以下「新法案」という。)が公表された[1]。なお、新法案はシンガポールにおけるギャンブル規制を全面的にカバーするものであり、新法案の成立とともに、上記記載の既存の関連法は廃止されることになる。

 

4 主要な改正内容

 新法案における改正内容は多岐にわたるものの、上記の近時のトレンドを反映した主要な改正内容としては以下のものが挙げられる。なお、以下では、伝統的なギャンブル行為にも関連する規制・改正内容(例えば、代理で行うギャンブルの禁止規定の導入や、未成年者等に対する保護措置の強化など)については紙幅の関係上割愛している。

 

⑴ ギャンブル行為(Gambling)の定義の見直し

 従来、上記記載の様々な法律においてギャンブル行為(Gambling)の定義は統一されていなかった。そこで、新法では、従来型のギャンブル行為の定義を統一することに加え、近時のトレンドを踏まえた新たなギャンブル行為をもカバーできるような定義が新たに提案されている。具体的には「ギャンブル(gambling)」の定義は、「betting」、「engaging in gaming activity」及び「participating in a lottery」の類型に分けられた上で、それぞれの意味内容や各用語に何が含まれ又は含まれていないかを定義規定において線引きすることが試みられている。また、MHAが規制することを意図していない他の法律の規制対象となるもの(例えば、シンガポール金融当局による規制対象となる金融商品への投資活動など)は、新法案の「ギャンブル行為」の定義からは除外されている。

 

⑵ オフラインでのソーシャル・ギャンブルの適用除外の明文化

 家族や友人との間でのオフラインでのソーシャル・ギャンブルは、社会的に容認されており、社会秩序へ与える懸念が低いことから、新法案において、ギャンブル規制の適用除外を受けることが明文化されることとなった。他方で、オンラインでのソーシャル・ギャンブルは、お互いに知り合いであることを立証することが困難であることを理由として、今回規制の適用除外に含めることは見送られた。

(2)につづく


[1] 新法案は、以下のリンクにて確認できる。 https://sso.agc.gov.sg/Bills-Supp/6-2022/Published/20220214?DocDate=20220214


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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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