GPIF、2021年度の「運用機関が考える『重大なESG課題』」を取りまとめ
――国内株式については「情報開示」が各機関共通の課題に、
パッシブ運用機関では新たに「コーポレートガバナンス」も――
年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund. 以下「GPIF」という)は2022年3月11日、「GPIFの運用機関が考える『重大なESG課題』」を発表した。
GPIFは「スチュワードシップ活動原則」において「投資におけるESGの考慮」という一項を設け、運用機関に対し「運用受託機関は、セクターにおける重要性、投資先の実情等を踏まえて、ESG課題に取り組むこと」「ESG に関する様々なイニシアティブに積極的に参加すること」とともに「重大なESG課題について、投資家として考える目標を示し、積極的にエンゲージメントを行うこと」を求めている。GPIFではこれを踏まえ、運用機関が考える重大なESG課題を確認しており、近年は各年ごとに公表する「スチュワードシップ活動報告」において運用機関の活動状況に関する説明の一節に「重大なESG課題」を掲げてきた。
今般の発表では、国内株式および外国株式については2018年~2021年の4か年分の推移が分かるようにし(債券については2020年に確認開始したことから2か年分)、また、パッシブ運用機関・アクティブ運用機関の別に整理して一覧表形式で提供するものとなっている。なお、パッシブ運用とは「市場の動きを表すベンチマークどおりに運用することで市場平均並みの収益率を確保することを目指す方法など」をいい、アクティブ運用とは「市場予測などを行い、市場平均を上回る収益率を目指す方法など」をいう(GPIFウェブサイト「よくあるご質問」のQ4参照)。
今回の取りまとめから国内株式に関する経年変化をみると、パッシブ運用機関全社が掲げた「重大なESG課題」は、2018年:気候変動、不祥事、サプライチェーン、2019年:気候変動、不祥事、情報開示、2020年:気候変動、不祥事、情報開示、サプライチェーン、ダイバーシティ、2021年:気候変動、不祥事、情報開示、サプライチェーン、ダイバーシティ、コーポレートガバナンス――であった。全社共通となるESG課題が2020年から5つに増えて多様化し、2021年はこれにコーポレートガバナンスが加わるかたちで当該傾向に拍車をかけている様子が分かる。GPIFによると、コーポレートガバナンスについて具体的には「取締役会のあり方や実効性確保、サクセッションプランや報酬体系、議決権行使結果の説明など」としており、「コーポレートガバナンス・コードでも記載されている項目が多く見られ」たという。
一方、アクティブ運用機関全社が掲げたのは、2018年:取締役会構成・評価、2019年:取締役会構成・評価、少数株主保護(政策保有等)、2020年:取締役会構成・評価、少数株主保護(政策保有等)、2021年:取締役会構成・評価、少数株主保護(政策保有等)、情報開示。2019年から「少数株主保護(政策保有等)」が課題となって翌2020年も同一の2課題が挙げられたところ、2021年は3つ目の課題として「情報開示」が加わったことになる。
「情報開示」について、GPIFでは「パッシブ、アクティブ問わず全ての運用機関が共通して重大な課題と考えてい」ることを指摘。情報開示に関する具体的な課題にも触れたうえで「統合報告書の作成や充実、GHG排出量開示のほか、情報開示方針や投資家とのコミュニケーション、英語での情報開示など、開示内容だけでなく情報開示のあり方まで含めて、運用機関が重要視している」と評価した。
GPIFでは「各運用手法で5割超の運用機関が重大なESG課題として挙げた課題」について、運用機関から挙げられたものをE・S・Gごとに色分けしたうえで、また別の表形式に取りまとめている。これによると、たとえば、国内株式についてパッシブ運用機関の83%が掲げた課題として「取締役会構成・評価」「少数株主保護(政策保有等)」「資本効率」があり、これらに加え「人権と地域社会」「生物多様性」が並んで重視されていることが把握できる。外国株式、内外債券についても同様に分類・整理されており、適宜参考とされたい。