SH3997 金融庁、「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」(案) の意見募集を開始 佐々木慶 /岡田奈穂(2022/05/17)

組織法務サステナビリティ

金融庁、「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」(案)の意見募集を開始

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 佐々木   慶

弁護士 岡 田 奈 穂

 

1 気候変動をめぐる議論と本案策定の経緯

 2022年4月25日、金融庁は、金融機関(主として銀行および保険会社)の気候変動への対応についての検査・監督の考え方・進め方を示すため、「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」(案)(以下「本案」という。)を公表した。本案に対する意見募集は2022年5月26日17時まで実施される。金融機関の気候変動対応については、金融庁がサステナブルファイナンス有識者会議を設置し、当該有識者会議が2021年6月18日に「サステナブルファイナンス有識者会議報告書(持続可能な社会を支える金融システムの構築)」において、金融機関が、サステナビリティに関する機会とリスクの視点をビジネス戦略やリスク管理に織り込み、実体経済の移行を支えることが重要等と報告したところである。本案はこれを踏まえて策定されたものであり、金融機関の顧客企業・産業の脱炭素化に向けた支援の側面と、金融機関自身のリスク管理に関する面の双方のポイントを中心にコンパクトにまとめられている。

 本案は画一的な適用やチェックリストとしての使用を想定したものではなく、よりよい実務に向けた対話の材料とし、考え方が熟した場合には、必要に応じプリンシプルの形に整理していくことが想定されている。重要実例についてのケース・スタディも多く含んでおり、金融機関が気候変動に伴う市場の変動に対応するに当たって、重要な示唆を与えるものである。

 

2 本案の概要

 ⑴ 気候変動をめぐる議論・背景

 世界的にカーボンニュートラルの実現に向けた取組みが加速し、これに伴い経済・産業・社会の変化が生じる中、金融資本市場でも、こうした構造変化を見据え、企業の気候変動対応(企業自身の脱炭素化の実現に向けた取組みや他企業等の脱炭素化に資する事業の構築を含む気候変動への対応をいう。以下同じ。)を後押しする取組みが進んでいる。

 顧客企業の気候変動対応の支援を通じて顧客企業の機会の獲得を後押しすることが金融機関の重要な役割であると当時に、顧客企業の気候関連リスクを低減させることは、金融機関自身にとっても機会の獲得と気候関連リスクの低減につながり得る。

 

【資料1の9頁 別表2】https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000235041

 

⑵ 金融機関の気候変動対応についての考え方・対話の着眼点

 ア 戦略の策定・ガバナンス等

 金融機関は、気候変動対応を経営上の課題として認識した上で、中長期的な視点から全社的に取り組むための戦略を策定し、これに併せた適切な体制を構築することが重要である。当該観点から、戦略の策定や態勢整備にあたり、以下を実施することが重要となる。

 

 

 イ 機会およびリスクの認識と評価

 気候変動に関連する様々な変化について十分な情報収集・分析を行った上で、それがどのような波及経路で金融機関に影響するかを把握することが必要である。金融機関は、たとえば以下のような手順を通じて機会およびリスクの定性的評価を行うとともに、将来的には、シナリオ分析を活用した定量的な評価を実施していくべきである。

 

【資料1の21頁 別表4】https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000235041

 

 ウ 機会およびリスクへの対応

 

 

 エ ステークホルダーとのコミュニケーション

 金融機関は、気候変動への対応にかかる戦略、顧客企業の気候変動対応の支援の方針やその取組状況、気候関連リスク管理の状況等について、気候変動に関連する国内外の開示の枠組みも参照しながら、ステークホルダーにとって有益かつ正確な情報を提供していくことが重要である。

 

 ⑶ 顧客企業の気候変動対応支援の具体的な進め方

 本案は、支援の進め方は顧客企業のニーズや各金融機関の自主的な経営判断に基づき実施されるべきものとしつつ、参考となり得る切り口や事例等を手引きとして示している。

 ア 顧客企業への影響の把握

 個々の顧客企業に関する機会とリスクについては、それぞれの企業の事業内容・ビジネスモデルに応じて異なると考えられることから、その把握に当たっては、たとえば、以下のような技術的視点や産業的視点、自然環境の変化の視点を持つことが有効である。

 

 

 イ 顧客企業への適切な支援策の検討

 金融機関においては、気候変動に関する知見を高め、気候変動がもたらす技術や産業、自然環境の変化等が顧客企業へ与える影響を把握し、顧客企業の状況やニーズを踏まえ、たとえば以下のような観点で支援を行うことが考えられる。

 

【資料2の右下】https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000235042

 

 ウ 保険会社に関する取組み

 企業が産業や脱炭素化を進めつつ、自然災害の激甚化への強靭性を高める観点からは、保険会社の役割も重要である。具体的には、生命保険会社による資金需要への積極的な対応に加え、損害保険会社が保険商品の提供を通じて気候変動に関連する変化が及ぼす経営環境への影響およびそれがもたらす経済損失の不確実性(リスク)を持続可能な形で引き受けること等が期待されている。

 

 ⑷ 今後の進め方

 本案は、金融庁における行政の今後の進め方を以下のように示している。

 

 

3 おわりに

 気候変動対応のために金融機関に求められる役割については、いまだ不確定な部分が多い。そうした中、本案は、金融庁が気候変動対応を進めるに当たって、金融機関に求める役割や対応について、一定の方向性を示したものである。各金融機関においては、パブリックコメントの結果も踏まえ、金融庁の考え方について理解を深め、「基本的な考え方」を一つの指針として積極的に活用していくことが期待される。

以 上

 


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(ささき・けい)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2012年米国ニューヨーク大学ロースクール(LLM)修了。2014年ニューヨーク州弁護士登録。バンキング、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、ファンド、信託取引、フィンテックなど金融取引を幅広く取り扱う。

 

(おかだ・なお)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2010年東京大学法学部卒業。2012年東京大学法科大学院卒業。2013年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2020年米国University of California, Los Angeles School of Law(LLM)修了。2021年ニューヨーク州弁護士登録。2020年-2021年米国ニューヨーク Mayer Brown法律事務所勤務。不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、エネルギー関連事業等多様なファイナンス案件を手がける。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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