SH4078 東証、「『公正なM&Aの在り方に関する指針』を踏まえた開示状況集計(2021年7月~2022年6月)」を公表 菅 隆浩/牧 大祐(2022/07/26)

組織法務M&A・組織再編(買収防衛含む)

東証、「『公正なM&Aの在り方に関する指針』を踏まえた
開示状況集計(2021年7月~2022年6月)」を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 菅   隆 浩
弁護士 牧   大 祐

 

1 はじめに

 7月1日に、株式会社東京証券取引所は、「『公正なM&Aの在り方に関する指針』を踏まえた開示状況集計(2021年7月~2022年6月)」(以下「本集計結果(2022年)」という。)を公表した。本集計結果(2022年)は、2021年7月1日から2022年6月30日までに公表された「上場廃止を企図したMBO及び支配株主による従属会社の買収」に関する適時開示資料を対象として実施された「公正なM&Aの在り方に関する指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」(2019年6月28日)(以下「M&A指針」)を踏まえた開示状況についての集計結果を公表するものである。

 M&A指針は、類型的に構造的な利益相反の問題と情報の非対称性の問題が存在するMBOおよび支配株主による従属会社の買収を適用対象とし、これらが「公正な手続を通じて行われるべきである」とした上で、公正な手続を構成する実務上の具体的な対応(いわゆる、「公正性担保措置」)について説明したものである。

 以下、若干コメントを述べる。

 

2 情報開示実務の定着

 本集計結果(2022年)では、M&A指針の公表後における「情報開示の実務は広く定着してきたものと認められる結果」であることが確認された。

 実務上、組織再編や公開買付けを支援するフィナンシャル・アドバイザーや弁護士において、それらの取引についての検討を開始する場合には、まず先にM&A指針の適用があるかどうかを確認し、M&A指針の適用のある組織再編や公開買付けなのであれば、M&A指針に沿った情報開示が求められることを前提とした上で、スケジュールや各種準備を行う運用が定着しており、M&A指針を踏まえた実務上の対応は現在広く浸透しているものと思われる(たとえば、M&A指針の適用がある場合においては、特別委員会の設置時期については、その設置のタイミングが遅くならないようスケジュール策定にあたり最優先に取り組まれるべき事項とされることや、特別委員会の検討時間を開示することを想定の上、各会の開始時期と終了時期を記録化しておくことなどの対応が通常行われている。)。

 ここで、本集計結果(2022年)の脚注1では、「公開買付事案では全件で開示される内容(取締役会における特別委員会の判断の取扱い、特別委員会の権限等、委員又は算定機関の報酬体系)が組織再編事案の一部では開示されていないという傾向が見られた」という記載は興味深い。これは、公開買付けにおいては、関東財務局への公開買付届出書に関する事前相談を通じて、細かな記載事項のチェックを受けるものの、組織再編事案では(株式交付を用いた公開買付けを除いては)公開買付届出書の提出が不要であることにも影響があるものと推察される。公開買付けと組織再編の違いでもって、上記の項目に関する開示の水準に違いを設ける理由は見出しにくい面もあるため、フィナンシャル・アドバイザーや弁護士において、必要に応じて上記項目について、M&A指針に沿った十分な情報開示となっているかといった確認を行うことが望ましいといえる。

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(すが・たかひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャル・カウンセル。2009年 京都大学法科大学院卒業。2010年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2014年7月~2015年6月 外資系証券会社投資銀行本部出向勤務。2016年8月~2017年5月米国University of California, Berkeley, School of Law (LL.M.)へ留学。

 

(まき・だいすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2015年 中央大学法学部卒業。2016年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2019年7月~2020年6月 国内大手証券会社M&Aアドバイザリー部門出向勤務。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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