SH4134 経産省研究会報告書「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方について」が公表される――導入に向けた論点整理とCFC税制の見直し方針を提示、最低税率課税制度適用対象外企業の取扱いは今後検討 (2022/09/14)

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経産省研究会報告書「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方について」が公表される
――導入に向けた論点整理とCFC税制の見直し方針を提示、最低税率課税制度適用対象外企業の取扱いは今後検討――

 

 経済産業省は9月1日、「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方に関する研究会」(座長・田近栄治一橋大学名誉教授)による報告書「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方について」を公表した。

 「2021年10月に国際的に合意された最低税率課税制度(ピラー2)について、米国、英国、EU等での検討が行われている状況も踏まえつつ、我が国における円滑な制度導入に向けた今後の論点を確認するとともに、海外展開する日本企業に過度な負担がないよう、既存のCFC税制(編注・外国子会社合算税制)との関係整理及び簡素化のあり方を検討」(本報告書「I.日本経済の状況」参照)するもので、同研究会においては今年6月17日に初会合を開催したのち6月27日・7月15日と会合をかさね、報告書の公表に至ったもの。「デジタル経済下における国際課税研究会」(座長・田近名誉教授)による検討および2021年8月19日付公表の中間報告書「デジタル経済下における国際課税のあり方について」を踏まえた審議と捉えられる。

 今般の研究会の委員は税制・税務などに詳しい学識経験者・専門家・企業実務家ら計13名、オブザーバーとして経済団体から日本経済団体連合会・日本貿易会が、関係省庁として財務省主税局参事官室・国税庁調査査察部調査課・金融庁総合政策局総合政策課・経済産業省経済産業政策局企業行動課が参加した。事務局は経産省貿易経済協力局が務めたものとみられ、一部公表資料や掲載ウェブサイトには問合せ先として同局投資促進課の表記がある。なお、最低税率課税制度とは「軽課税国を用いた租税回避を防止するため、各国が最低実効税率(15%)を設定し、不足分は親会社の所在国で課税する制度」であり「連結総収入が7.5億€(約1000億円)以上の大企業が対象。我が国では早ければ令和5年度税制改正で導入される可能性あり」とされる(報告書と併せて公表された「報告書(概要)」参照)。

 報告書の本編は「II.最低税率課税制度の議論状況と課題」「III.我が国のCFC税制の現状と見直しの必要性」「IV.CFC税制の論点と今後の対応」と構成された。II では「海外進出をする日本企業の過度な負担とならないようにすることと、日本企業と海外企業との間の公正な競争環境を確保し、これにより日本企業の円滑な海外事業活動を支えていくこと」を基本的視座とし(本報告書4頁参照)、最低税率課税制度の国内法化で想定される論点として(1)制度の簡素化、(2)制度の明確化、(3)時期に関すること、(4)諸外国の適格国内ミニマム課税(QDMTT)に関すること――の計4点を掲出。(3)によると「日本企業の競争相手先である外国企業の居住地国における導入時期を適切に考慮した上で、早期に国内法化を行う必要」を指摘しつつ(編注・本稿では報告書本文に付された脚注を略する)、最低税率課税制度の国内法の施行時期について「日本企業の海外市場における国際競争力の維持及び向上と最低税率課税の開始を両立させるため、日本企業の実務対応に係る準備や、 競争相手先である外国企業の居住地国における導入時期を適切に考慮して検討する必要がある」とした(本報告書7頁参照)。

 報告書「III.我が国のCFC税制の現状と見直しの必要性」によると、CFC税制については「最低税率課税制度とCFC税制それぞれの制度趣旨は異なる一方で、両制度は、外国子会社の課税後になお追加的な課税が必要な部分に対して、親会社の本国にて課税を行うという点では共通する部分がある」ことなどから(本報告書9頁参照)、両制度の関係整理とともにCFC税制の簡素化が図られる方向。見直しに向けた課題として、次の4点を掲げる。(1)両制度が併存することによる親会社の外国子会社管理および両制度のコンプライアンス対応のための負担軽減、(2)現行CFC税制の運用により生じている課題解決に向けた適正化、(3)両制度の併存により外国子会社から制度ごとに異なる情報を収集することになる負担への対応、(4)外国関係会社の所得を内国法人の所得として合算する時期。

 これらの課題に対し「IV.CFC税制の論点と今後の対応」では、CFC税制の見直しを求めるに当たっての対応方針を示す。これによると、上記(1)に対しては「CFC税制を簡素化」が、また同様に各課題に対して(2)CFC税制の適正化・簡素化、(3)最低税率課税制度で使用する計算結果および子会社から取得する情報についてCFC税制側で使用できるものがないかの検討、(4)短期間での作業が要求される場合があるCFC税制における所得合算の時期については当該合算時期につき見直しをすることが示されている(本報告書11頁参照)。報告書では、これらの対応方針に沿って「具体的な見直し項目」を掲げており、適宜参考とされたい。

 最低税率課税制度については一定の大企業が適用対象となる一方で「CFC税制にこのような閾値はないため、最低税率課税は当該閾値を満たさない企業には適用されない一方で、CFC税制は適用されるという差異が生じる」点について、報告書は、最低税率課税制度が適用されない企業についても簡素化されたCFC税制を適用することが妥当か否かを判断する必要が生じると指摘。(ア)最低税率課税制度の適用企業と適用外の企業とでは制度を分けるべきではないかという意見があったとするとともに、(イ)わが国の中小企業において軽課税国の子会社を利用した租税回避の実態がどの程度現実に存在するのかを踏まえ、そのような実態が乏しいのであれば最低税率課税制度が適用されない企業を含め、CFC税制の簡素化を図ることも検討されてもよいのではないかという意見、(ウ)最低税率課税制度が適用されない企業を含めて簡素化されたCFC税制を適用することを検討する必要があるのではないかといった意見を併記した。そのうえで「最低税率課税制度が適用されない企業の取り扱いについては、今後の検討事項とすべきである」としている(本報告書16頁参照)。

 

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