◇SH0756◇ブラジルM&Aの実務 (3) -規制及び税務 清水 誠(2016/08/08)

未分類

ブラジルM&Aの実務 (3)

規制及び税務

 

西村あさひ法律事務所

弁護士 清 水   誠

 

5  M&Aに関するその他の主な規制

(1)  外資規制

 原子力事業、医療サービス、郵便及び電信事業、国内線航空事業及び宇宙事業に対する外資の参加は禁止されている。また、土地、不動産の所有又は賃貸借並びにマスメディア、金融機関及び鉱業に対する出資に一定の制限が存在する。これらの一定の例外を除き、ブラジル企業に対する外資による出資はオープンである。なお、外資規制については、SH0562 ブラジルの外資規制の概要 清水 誠(2016/02/22)も参照されたい。

(2)  業規制

 外資規制に加え、規制業種の買収については、一定の規制が存在する。たとえば、金融機関の支配権を取得するためにはブラジル中央銀行の承認が必要となる(買主がブラジル企業であるか否かを問わない)。

(3)  外国投資の登録

 外国資本は、ブラジルへの資本持込み、利益の国外送金、本国への投資回収及び利益の再投資のそれぞれの時点において、オンライン登録システムを通じ、ブラジル中央銀行に登録しなければならず、当該登録をしない場合、国外からブラジルへの資金の送金及びブラジルから国外への送金ができない。

(4)  競争法上の手続

 ブラジル市場に影響を及ぼし、ブラジル競争法上の「集中行為」に該当し、かつ一定の収益基準に該当するあらゆる取引に対し、ブラジルの競争当局である経済擁護行政委員会(CADE)に対する届出義務が課される。「集中行為」とは、幅広い概念であり、対象会社に対するマイノリティー出資も該当し得る。

 収益基準は、(i)取引の当事者の一方が属する経済グループの、取引の直前事業年度におけるブラジルでの収益の合計が7億5000万レアル超(本稿執筆時点において1円=約36.7円である)であり、(ii)取引の他の当事者が属する経済グループの、取引の直前事業年度におけるブラジルでの収益の合計が7,500万レアル超であること、とされている。

 当事者は、CADEによる承認がなされるまで、取引を実行したり、その他いわゆる「ガン・ジャンピング」に該当する行為をしてはならない。CADEによる審査期間は、原則240日間であるが、CADEは90日間の範囲で当該期間を延長することができる。競争を制限する効果が潜在的に低い一定の取引については、迅速手続によることができる。

 

6  M&A取引に関する税務の基礎

(1)  売主

 ブラジル企業を対象とするM&A取引が行われた場合、対象会社の売主はキャピタルゲイン課税に服することになる。

 売主がブラジル居住者である個人である場合、キャピタルゲインに対する税率は15%とされている。他方、売主がブラジル企業である場合、キャピタルゲインには、通常34%の税率で課税がなされる。

 他方、売主が非居住者である場合、ブラジル租税法上、キャピタルゲインについて、原則として、15%の税率で源泉徴収課税がなされる(いわゆる源泉地国課税)。売主の住所/本店所在地が、当局が定めたリストに列挙されたタックスヘイブン(租税回避地)に所在する場合には、この税率は25%となる。但し、日伯租税条約の規定により、日本の売主がブラジルに所在する資産を売却した場合には、ブラジルにおいて源泉徴収税を課さないこととされている(日本において、わが国の租税法に基づく課税がなされ得ることは別論である)。日伯租税条約におけるこのような取扱いは、ブラジルが当事者である租税条約のうち日伯租税条約においてのみ認められているものである。

(2)  買主

 ブラジル企業の株式の取得に当たり、買主側で適切なアレンジを行うことで、一定の税務上のメリットを享受できる場合がある。

 ブラジル国外で調達した資金で買収を行う場合、為替取引税(IOF)が買収コストに上乗せされることになることに注意が必要である。なお、ブラジル国内では調達金利が高いため、外国の買主がブラジル国内で買収資金を調達することは一般的ではない。近時は外貨建ての取引も増えていることは前記のとおりである。

(3)  債務の承継

 資産などの買主は、売主のもとで発生した租税等一定の債務について二次的責任を負う場合があることに注意が必要である。このことが一因となり、ブラジルにおいて事業譲渡はあまり利用されていない。

(4)  その他

 ブラジル企業により支払われる配当はブラジルでは非課税(つまり、支払い側のブラジルにおいて源泉徴収課税はなされない)である。また、ブラジル企業による日本企業に対する利子の支払いや技術移転などに関するロイヤルティの支払いに対して課される源泉徴収税の税率は、日伯租税条約上、12.5%とされている(日本と他国との租税条約では、この源泉徴収税率は15%とされていることが多い。もっとも、ブラジル企業による日本企業に対する商標権のロイヤルティの支払いについては20%の税率による源泉徴収課税がなされる)。

 

7  その他の留意事項

 一般論として、ブラジルの経済文化は、日本と比較してより非形式的であるとされ、企業間の関係以上に個人間の関係が重要であるといわれており、案件を獲得し、合意に至るまで長期間を要することも少なくない。そのため、合意に至るまで何度も相手方を訪問し、面談を重ねるといった忍耐を要求される場合もある。

 また、ブラジルは日本と同様、いわゆる英米法系のコモン・ロー国ではなく、欧州大陸法系の制定法(Civil Law)国であるため、契約の文言に加え、ブラジル法が法的効果に与える影響についても十分な理解が必要である。したがって、ブラジル企業の買収を行う場合には、ブラジル法に精通した弁護士から適切な助言を受けることが重要である。

 

(おわり)

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

タイトルとURLをコピーしました