最新実務:スポーツビジネスと企業法務
NFTのマーケティングの法的留意点(1)
―エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に―
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎
フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ
1 はじめに
⑴ NFTの活用の広がり
昨今、さまざまな業界でNFT(Non-Fungible Token)を活用した新たなビジネスやサービスが生まれている。NFTとは、ブロックチェーン上で発行される非代替性のデジタルトークンをいい、デジタル資産の唯一性や真正性を担保して価値を高めうるものとして、幅広い活用が期待されている。
スポーツは、NFTの持つ希少性等の特徴と親和性の高いコンテンツビジネスの代表例として、NFTの活用が特に進んでいる業界の一つである。典型的なものとしては、伝統的なトレーディングカード等のコレクティブル(収集品)のデジタル版といえる、選手の画像・動画等をNFT化したデジタルコレクティブルがある。2020年にいち早くサービスが開始されたNBA Top Shot[1]をはじめ、今や世界中でスポーツのデジタルコレクティブルが販売されている。
⑵ NFTのマーケティング
近時、主にはマーケティングの一手段として、対象者に対してNFTを無償配布するエアドロップキャンペーンがしばしば実施される。スポーツのデジタルコレクティブルを対象とするケースは勿論だが、NFTについての世間の認知と関心の高まりに伴い、スポーツ関連に限らず、一般企業においても、自社製品・サービスのマーケティングに同様のキャンペーンを取り入れる機会は増えていくと予想される[2]。
NFTは新しい技術であり、その法的性質等は自明ではなく、消費者の誤解も生じやすい等、マーケティングに際して留意すべき点は少なくない。そこで、本稿では、NFTの特性も踏まえて、エアドロップキャンペーンを行う上で法的に留意すべきポイントを解説する。また、近時、NFTの販売方式として検討されることが多いガチャ・パッケージ販売についても、賭博への該当性の問題のほか、関連するマーケティング上の留意点を取り上げる。
2 NFTエアドロップキャンペーン
⑴ 景品表示法に基づく景品規制
マーケティングキャンペーンの一環としてNFTのエアドロップを行う場合、かかるNFTが不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」という。)上の「景品類」に該当すると、同法に基づく景品規制が適用される。
景品表示法上の「景品類」とは、①顧客を誘引するための手段として、②事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する(以下、「取引付随性」という。)③物品、金銭その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条3項)。そして、同法による規制は、(ⅰ)くじや抽選等の偶然性又はゲームの勝敗等の特定の行為の優劣等によって景品類を提供する「一般懸賞」に関するもの、(ⅱ)複数の事業者が参加して行う「共同懸賞」に関するもの、(ⅲ)一般消費者に対し懸賞によらずに提供される景品類(いわゆる「応募者全員サービス」等)である「総付景品」に関するものがあり[3]、それぞれ提供できる景品類の限度額等が定められている。
NFTのエアドロップを用いた典型的なキャンペーン方法としては、下表のものがあげられる。後記⑵ないし⑷では、かかる各方法に関連して景品表示法上で主に検討すべき事項毎に解説を加える。
【NFTのエアドロップを用いた典型的なキャンペーン方法】
キャンペーン方法 | 景品表示法上の主な検討事項 |
自社のサービスにウェブ上で無料の会員登録をした者にもれなくまたは抽選でNFTをプレゼントする[4] | 取引付随性[5] |
自社のSNSをフォローしてリツイート等企画に参加した者にもれなくまたは抽選でNFTをプレゼントする | |
イベントの来場者にもれなくまたは抽選でNFTをプレゼントする | |
イベントの来場者または新規会員登録者のうち先着順でNFTをプレゼントする | 懸賞・総付景品該当性 価額算定方法 |
NFTその他の商品の購入者にもれなくまたは抽選で(別の)NFTをプレゼントする | 価額算定方法 |
⑵ 取引付随性の有無
- ア ウェブ・SNS型キャンペーン
- 自社のサービスにウェブ上で無料の会員登録をした者や、自社のSNSをフォローしてリツイート等企画に参加した者に対して、もれなくまたは抽選でNFTをプレゼントするキャンペーン方法の場合(以下、「ウェブ・SNS型キャンペーン」という。)、取引付随性の有無が特に問題となる[6]。取引付随性がない場合は、景品表示法上の「景品類」に該当せず、同法に基づく景品規制は適用されないこととなる。
- 「取引付随性」は、取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合のほか、取引を条件としなくとも、経済上の利益の提供が、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性がある場合に認められると解されている[7]。
- この点、懸賞企画がインターネット上で行われる場合には、消費者はサイトを自由に移動できることから、原則として、懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではなく、取引付随性がないと解されている[8]。
- したがって、インターネット上で行われるウェブ・SNS型キャンペーンは、原則として取引付随性がなく、「景品類」に該当せず、景品表示法に基づく景品規制の対象とはならないと考えられる。もっとも、会員登録に際して費用が発生する場合には、会員登録というサービスの購入を条件として他の経済上の利益を提供していると評価され、取引付随性が認められる可能性がある。また、商品またはサービスを購入することにより当選確率が上がる場合等には、顧客としては商品やサービスを購入して懸賞企画に参加するインセンティブが働くため、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性があるとして、取引付随性が認められうる。
- イ イベント来場型キャンペーン
- スポーツの試合や展示会等のイベントの来場者にもれなくまたは抽選でNFTをプレゼントするキャンペーン方法の場合、イベントの主たる目的がNFTの配布ではないとしても、イベントに参加するために消費者がチケットを購入する必要があれば、通常、取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合に該当し、取引付随性が認められるものと考えられる。
- 他方、イベントへの参加が無料の場合、NFTの提供が、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性があるといえるか、個別の事案に応じて検討する必要がある。たとえば、自社の商品・サービスの販売を目的とし、実際に来場者に対して販売を行っているイベントの会場において、NFTを配布する場合には、自己の店舗への入店者に対して経済上の利益を提供する場合[9]として(またはかかる場合に準じて)、取引付随性が認められうると思われる。
- なお、NFTはメタバースの発展と密接な関係にあることから、メタバース内でのイベントの参加者に対してNFTをプレゼントするキャンペーン方法も想定される。この場合、イベントへの参加が有料であれば、通常、取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合に該当し、取引付随性が認められるものと考えられる。他方、誰でも無料で参加できるイベントの場合、メタバースはインターネット上の仮想空間であることに着目すれば、上記アのとおり、懸賞企画がインターネット上で行われる場合として、原則、取引付随性が否定されることになるように思われる。
(2)につづく
[1] NBA/WNBA選手のプレー・ハイライト動画等のNFTを取り扱うDapper Labs社のサービス。
[2] たとえば、アサヒ飲料は、2021年12月に、LINEでアンケートの回答等をすることで、キャラクターのトレーディングカードのNFTを無料で受け取ることができるキャンペーンを実施し、30万枚以上の配布を記録した。田村葉「アサヒ飲料がNFTトレカ30万枚配布 LINEが見つけた2つの販促活用」日経クロストレンド(2022年3月4日)(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00841/)
[3] 「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)
[4] たとえば、デジタルコレクティブルのプラットフォーム事業者が、プラットフォームに新規に会員登録したユーザーに対して、当該プラットフォームで取り扱うデジタルコレクティブルをエアドロップするキャンペーン等が考えられる。
[5] ただし、これらのキャンペーン方法につき取引付随性が認められ、「景品類」に該当するケースであれば、価額算定方法も検討事項となる。
[6] ウェブ・SNS型キャンペーンは、通常、客観的にみて顧客誘引のための手段となっていると考えられ(上記要件①)、また、NFTは、通常、提供を受ける者の側からみて、経済的対価を支払って取得するものといえ、「経済上の利益」に該当すると考えられる(上記要件③)。
[7] 西川康一『景品表示法〔第6版〕』(商事法務、2021)205頁
[8] この場合、いわゆるオープン懸賞に該当すると解されている。「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」(平成13年4月26日公正取引委員会)第1項
[9] 「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年事務局長通達第7号)第4項(2)ウ
(かとう・しろう)
弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。
2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。
(ふぇるなんですなかじま・まりさ)
日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。