SH3638 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第11回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その8 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/05/27)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第11回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その8

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第11回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その8

8 試験及び検収

⑴ 試験

 試験(Tests)は、Contractorの仕事について、仕様等に合致しているか否かを判定するための手続である。検収の前提として行われる完成時の試験(Tests on Completion)やその前段階におけるマイルストーン毎の試験も重要であるが、工事の進行中の試験も重要な手続である。というのも、前回述べたとおり、工事の進行中は目的物が日々変化するため、ある時点で発生した問題は、直ぐに確認、対処しないと、その後の工事等の積み重ねの中で隠れてしまう。そこで、工事の進行中に、仕様等に合致しているか、換言すれば問題がないかを確認する試験を行うことに、重要な意味がある。

 そのため試験を適切に行う必要があるが、その準備の責任は、Contractorに課されている。FIDICは、Contractorが試験のための器具、書類その他の情報、水、電気、燃料、消費材、能力あるスタッフ等の一切を準備しなければならないと定めている(7.4項)。また、試験を行う主体は、Contractorである(7.1項)。

 ただし、試験は重要な手続であるため、Employer側に、立会の権利が与えられており、Contractorは、Employer側が立会を行えるよう合理的期間を置いて、試験の予定日や場所をEmployer側に通知することとされている(7.4項)。さらに、完成時の試験においては、Employer側に、試験の手続の適切性を事前に確認する機会も与えられている。すなわち、Contractorは試験予定日の42日以上前に、Employer側に、試験のプログラムを提出しなければならない(9.1項)。また、試験のプログラムにつきEmployer側から契約への不適合が通知された場合には、Contractorは当該通知受領後14日以内に、試験のプログラムを修正しなければならない(9.1項)。

 Contractorは、試験の実施後、Employer側に対し、速やかに試験のレポートを送付しなければならない。合格であった場合には、Employer側はContractorによる合格証を認証するか、自ら合格証を発行する(7.4項)。

 同様に、Contractorは、完成時の試験に合格したと判定したときは、できる限り速やかに、Employer側に試験のレポートを送付しなければならない(9.1項)。Employer側は、試験に契約に適合しない点があると判断した場合には、上記レポートを受領してから14日以内に、その旨をContractorに通知しなければならない(9.1項)。

 完成後の試験不合格の場合、ContractorもEmployer側も、再試験を求めることができる(9.3項)。他方、Employer側が受け入れるのであれば、代金を減額するなどした上で、検収に進むという選択肢もある(9.4項)。

 

⑵ 検収

 検収は、契約の最終局面であり、これが完了すれば、工事等に瑕疵(defect)がない限り、Contractorの仕事は基本的に完了する。なお、瑕疵がある場合については、章を改めて追って解説するが、Contractorは、当該瑕疵を是正する義務を負うことになる(もっとも、義務であると同時に、自らの手で当該瑕疵を是正できるということであり、Contractorとしても、他の業者に高額の代金で当該瑕疵の是正工事が委ねられること、その結果として、当該代金がContractorに請求されることよりは、望ましいという側面もある)。

 Contractorは、検収のためには、基本的に、工事を完成させ、試験に合格するとともに、完成図書、マニュアル等の書類を全てEmployer側に提出するなど、契約上求められる全てのことを尽くさなければならない。この書類の提出というのも、必ずしも簡単なものではなく、特にSilver Bookが対象とするturn-key契約と言われる契約類型では、より負荷のかかる作業となることが多い。

 turn-key契約では、全般的にEmployerの役割が限定される一方、Contractorの役割が広範となり、たとえば、ContractorがEmployerの従業員に工事目的物(プラント等)の使用方法等について、トレーニングを実施することが検収条件となることも多い。

 工事が遅延した場合には、その損害金(Delay Damages)を完済することが、検収の条件とされることがある。ただし、当該損害金の有無および額に争いが生じることは多々あり、その場合には争いを前提としつつ検収が行われることになる。もっとも、争いを前提としつつ検収を行うには、Contractorにボンド(担保)を提供しなければならないといった負担が求められることもある。また、その争いの解決のために法的手続を経ることは、当事者双方にとって負担である。そこで、検収にあたり、損害金に関する争いを話し合いにより解決しようとする動機が、当事者双方に働き得る。これは、損害金の完済を検収条件とすることの、一つの効果と言える。

 以上のとおり、検収は重要な場面であり、様々な手続が必要とされる。もっとも、これらの手続を経ることによって、問題点の有無が明確となり、後に紛争が発生する事態が回避できるという効果はある。すなわち、意味のある負担と言える。

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