中国:改正中国独禁法の要点
どこが日本企業にとって重要か(3/4)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鹿 はせる
⑶ 独占的協定(取引制限)規制に関する改正の要点
- ① 垂直的取引制限に関するセーフハーバー規定(下位法令[1]の成立待ち)
- 独占的協定とは、「競争を排除し若しくは制限する合意、決定又はその他の協調行為」(第16条)であり、中国独禁法では競争関係にある事業者の間で、価格、生産数量又は販売数量等に関する独占的協定(いわゆる水平的取引制限)、取引関係にある事業者との間では、再販売価格及びその最低価格等に関する独占的協定(いわゆる垂直的取引制限)がそれぞれ禁止対象とされている。
- 改正中国独禁法においても、上記規制の枠組み自体は変わっていないが、取引当事者間の垂直的取引制限については、(i)「事業者が競争排除・制限効果がないと証明できる場合」は禁止されず(改正中国独禁法第18条第2項)、(ii)「関連市場における市場シェアが競争当局の定める基準を下回り、かつ競争当局が定めるその他の要件を満たす場合」も禁止されないとする規定(同法第18条第3項)がそれぞれ新設された。このうち、(i)は従来の実務を追認した確認的な規定であるが、(ii)は新たに垂直的取引制限に関するセーフハーバーを定めた規定として注目されている。
- この点、同規定を具体化した下位法令(独占的協定禁止規定)改正案によれば、セーフハーバーは以下の場合に満たされる(独占的協定禁止規定第15条)。
- (a) 事業者及び取引の相手方の関連市場における市場シェアが15%未満であること
- (b) 協定が競争を排除・制限する効果があることを示す証拠が存在しないこと
- この(a)(b)のセーフハーバーと改正中国独禁法第18条第2項に定められた(i)の規定を併せて読めば、下位法令成立後の垂直的取引制限規制は、取引当事者の市場シェアが15%未満である場合は、原則違反とならず(当局が違反とする場合は、競争の排除・制限効果を要立証)、15%以上の場合は、原則違反となる(事業者が違反なしを主張するためには、競争の排除・制限効果がないことを要立証)であろう。
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(ろく・はせる)
長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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