マレーシア:KLRCA仲裁規則の改正
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 青 木 大
マレーシアの仲裁機関であるクアラルンプール地域仲裁センター(Kuala Lumpur Regional Centre for Arbitration, KLRCA)の仲裁規則の改正が行われ、2017年6月1日に施行された。同規則は2013年制定の旧仲裁規則に置き換わるもので、施行日以降に同機関において提起された仲裁手続に適用される。
KLRCAはここ数年、マレーシアの国家的な仲裁振興策と歩調を合わせ、利用拡大に向けた積極的な取り組みを推進している。2016年の仲裁新受件数は62件(うち国内仲裁55件、国際仲裁7件)と、SIAC(2016年343件)等に比べるとまだ振るわないと言わざるを得ないが、2012年に導入された建設関連紛争の裁定(Adjudication)制度に基づく裁定申立件数は443件に拡大しており、特にマレーシア国内の建設紛争に関してKLRCAの存在感が増している。
KLRCAの分析によれば、近時のKLRCAにおける仲裁手続の平均期間は10.84か月、費用については、国内仲裁については平均で132,533.56リンギット(1リンギット0.23USD換算で約30,483USD)、国際仲裁については約53,060USDとされている。これらはSIACが公表する期間・費用の平均値(13.8か月、80,337USD)を下回っている。
2017年仲裁規則の主要な改正点は以下のとおりである。
1. 第三者の手続参加(Joinder)、複数の請求の併合(Consolidation)にかかる規定の整備
仲裁手続に第三者が参加する場合の手続規定(規則第9条)、複数の請求の併合にかかる手続規定(規則第10条)の整備が図られた。これらは最近の主要な仲裁機関の仲裁規則の改正にならうものである。
2. 仲裁判断の審査制度の導入
仲裁人が作成した仲裁判断のドラフトにつき、仲裁判断交付前にKLRCAが事前審査を行う制度が新たに導入された(規則第12条)。これは、ICCやSIACでは既に導入されているものである。改正規則によれば、まず仲裁廷は手続終結を宣言してから原則3か月以内に仲裁判断のドラフトをKLRCAに提出しなければならず、その後KLRCAはできる限り迅速にその審査を行うものとされている。審査の対象は、形式における不備の点及び利子及び費用の計算の誤りに限定されており、仲裁人による実体面の判断に踏み込むものではない。不備や誤りが判明した場合には、仲裁廷は10日以内に仲裁判断をKLRCAに対して再提出しなければならない。
3. 費用の改定
国内仲裁に関する費用(事務管理費用及び仲裁人報酬)については概ね約20%の増加が図られた。他方、国際仲裁については特段改定がなされていない。なおKLRCAの費用は訴額に応じて増減する形をとり、国際仲裁につき最低金額は50,000USD以下の訴額の紛争について5,550USD程度の費用となる。SIACの場合、50,000SGD以下の訴額の紛争について、10,050SGD程度の費用とされている。
なお、KLRCAは本仲裁規則の他に、迅速手続を定めるFast Track Arbitration Rules、イスラム法に関連する紛争に対応したi-Arbitration Rulesも備えているが、これらも今後順次改定の予定とのことである。