タイ:個人情報保護法
――①全面施行にあたってのチェックポイントと②下位規則の制定状況を踏まえた今後の注意点(2)――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
✓ STEP3:法令上要求される事項への対応がなされているか
上記に加え、個人情報保護法上、主として以下の対応が要請されている。この要請に対応できる体制が整えられているかを確認するべきである。
① | 安全管理措置 | 管理・保管している個人情報への不正なアクセスの防止、不用意な滅失等の事故の防止等に配慮した、適切な安全管理措置を講じることが求められている。 |
② | DPOの選任 | 一定数以上の大量の個人情報を取り扱ったり、センシティブデータの収集を主たる活動としていたりする場合には、個人情報管理の責任者としてData Protection Officer(DPO)を選任することが求められている。 |
③ | 情報漏洩時の対応 | 情報漏洩が発生した場合、発見時から可能な限り72時間以内での当局へ通知することや被害を受けた情報主体へ必要に応じて通知すること等の対応を行うことが求められている。 |
✓ STEP4:構築した体制が適切に運用できるように社内で知識の共有がなされているか
上記のステップを経て法令遵守に向けた体制が整えられたら、この体制を従業員・関係者が適切に運用できるようにするべきである。社内の認識を向上させる方策として、個人情報を取り扱う可能性のある従業員・関係者向けに社内研修を行うことが一案として考えられる。
2 下位規則の制定状況
個人情報保護法は、詳細や重要な点について下位規則に委ねるような建付になっているものの、本稿執筆時点(2022年6月1日時点)で、施行されている下位規則はない。さはさりながら、下位規則案が徐々に公表され始めているため、策定の進捗状況や、今後動向を注目するべき事項について簡単に紹介したい。
① | 安全管理措置 | 下位規則案が2022年5月に公表されている。現状の下位規則案は抽象的な規定が多いため、更なる検討を経て具体的な要求事項(例えば、他の法域にて要求されている、保持している個人情報の暗号化措置等)が明記されることが期待される。 |
② | 記録の保存の例外 | 下位規則案が2022年5月に公表されている。現状の下位規則案上、中小の事業者の記録保存義務が免除されている。なお、駐在員事務所等は明確には免除の対象として挙げられていないため、これらの事業者の取扱いが明確化されることが期待される。 |
③ | 域外移転の手続 | 十分性認定を受けた国への個人情報の移転は、情報主体の同意なく行うことが許容されているところ、個人情報保護委員会より十分性認定を受けた国のリストを公表することが予定されている。 |
④ | DPOの選任義務の要件 | 1年で5万件以上の個人情報又は5,000件以上のセンシティブデータを処理する場合を基準とすることが提案されている。 |
⑤ | 情報漏洩時の対応 | 当局へ通知する場合の具体的手続は下位規則にて制定されることとされている(現状、何らの規定もないため、情報漏洩時に当局へ通知する方法や通知するべき内容が明確化されていない。)。 |
上述のとおり、重要な下位規則についても未制定の状況にあるため、制定に進捗がみられる場合には、随時情報発信をしていく予定である。
以 上
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(みのわ・しゅんすけ)
2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。
バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。
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