マレーシア新会社法の施行とポイント(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
2017年1月31日、マレーシア新会社法(The Companies Act 2016。「新会社法」)が施行され、旧会社法(The Companies Act 1965)が廃止された(なお、一部未施行の事項あり)。新会社法は、会社法規制の負担軽減やコーポレートガバナンス向上等の観点から、旧会社法の枠組みを大幅に改正しその現代化を図るものである。改正内容は多岐にわたり、源流を同じくし先行して大幅な改正を行ったシンガポール会社法と軌を一にする改正も見られる一方、独自の進化を遂げる改正も随所に見られる。以下では、日系企業がマレーシアでの会社設立や合弁会社組成にあたり選択することが最も多い株式有限責任会社を念頭に置いて、新会社法のうち特に日系企業の関心が高いと思われる事項にポイントを絞ってその一端を2回に分けて簡潔に紹介する。
1. 非公開会社の会社設立・運営に係る人的負担の軽減
旧会社法の下では、会社(持株会社が発行済株式全てについて株主となる会社を除く。)が6ヵ月超に亘り株主数2名未満の状態で事業を行うことが禁止され、また最低2名の居住取締役が必要とされていたが、新会社法の下で、非公開会社(private company。以下同じ)については、株主1名及び所定の居住取締役1名を有していれば、会社の設立及び運営が可能とされている。これは、会社設立及び運営に係る法規制負担を軽減するものである。
2. 定款の採否
旧会社法の下では、会社は定款を定める必要があったが、新会社法の下では、定款を有することも有しないこともいずれも可能である。具体的には、旧会社法下では旧会社法別表Table Aにおいて付属定款のモデルが定められ、会社が付属定款でTable Aの規定の適用を排除又は修正しない限り、Table Aの規定は排除又は修正されない限度で適用され付属定款の一部とされたのに対し、新会社法の下では、会社が定款を有しないこと自体が認められることになり、その場合、会社、取締役及び株主は、新会社法に規定された権利及び義務等に従うこととされた。なお、新会社法施行前に関連法令に従って定められた基本定款及び付属定款は、新会社法の下で引き続き定款として扱われる。
3. 非公開会社の定時株主総会の開催任意化
新会社法の下では、非公開会社に関して定時株主総会の開催が原則として義務的ではなくなり、代わりに非公開会社は各事業年度の計算書類等について各事業年度の末日から6ヵ月以内に株主回覧を行うことが必要となる。本改正は、非公開会社について定時株主総会の開催任意化を原則形態とするものであり、定時株主総会開催に係る手続負担の軽減を図るものである。