SH4277 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第2回 従事者に関する運用上の留意点(2) 金山貴昭(2023/01/19)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 

第2回 従事者に関する運用上の留意点(2)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

Q 事案ごとに従事者を指定する場合の従事者の指定範囲

 内部規程では公益通報対応業務に従事することが想定される者を公益通報対応業務従事者に指定することを定めました。ただ、実際に通報があった場合には、その者以外についても必要に応じて都度従事者として指定する必要がありますが、誰を公益通報対応業務従事者に指定しなければならないのですか。
 

A 【ポイント】

事業者は、(i)内部公益通報受付窓口において受け付ける(ii)内部公益通報に関して(iii)公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して(iv)公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者としてしなければなりません。(i)~(iv)の要件の該当性は、実際の事案において明確に判断することが難しい場合もあるので、これらの要件に関する指針の解説の内容を踏まえつつ、指針違反とならないように慎重に判断することが必要になります。

 

【解説】

 公益通報者保護法(以下、「本法」)の令和2年改正の重要な改正点として、事業者に対する公益通報対応業務従事者(以下、「従事者」)の指定義務付けと、従事者への刑事罰付きの守秘義務が導入された点があげられます。本法11条1項は「事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定めなければならない」と定めるのみで、具体的に従事者に指定する必要がある者の範囲は、本法11条4項に基づき策定された「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号。以下、「法定指針」)において定められています。

 従事者に指定すべき者の範囲について、法定指針は、以下のように定めています。

  1.  「事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。」

 従事者に指定すべき者について正確に理解するためには、⑴「内部公益通報」、⑵「内部公益通報窓口において受け付ける」、⑶「公益通報対応業務」、⑷「公益通報者を特定させる事項」についての理解が必要であり、公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(以下、「指針の解説」)を参照する必要があります。

 

1 「内部公益通報」

 本法上の公益通報は、通報の主体、通報内容、通報先等のいくつかの要件が定められており、これらを満たしたもののみが、「公益通報」に該当することになります。

 これらのうち、通報内容については、本法及び公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令(以下、「八号政令」)に掲げられている対象法律(497本。令和4年12月1日時点)のうち、当該対象法律に規定されている犯罪行為や過料の理由となる行為等が公益通報の対象となる事実となります。

 たとえば、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)」はハラスメント対策を義務付けており、対象法律として八号政令に掲載されています。ただし、同法は、届出義務違反や報告命令違反に対して刑事罰を科していますが、ハラスメント行為自体は刑事罰の対象とはしていません。そのため、当該届出義務違反や報告命令違反は通報対象事実となりますが、ハラスメント行為自体は通報対象事実にはなりません。

 このように、本法では、公益通報となるのは八号政令に掲載されている対象法律のうち、刑事罰や過料の対象となる行為等に限られています。そのため、これら以外の事実に関する通報については、内部公益通報とはならず、当該通報への対応業務に従事する者を従事者に指定することは義務付けられていないこととなります。

 ただし、通報窓口に寄せられた通報について、本法上の公益通報に該当するかを逐一確認した上で、公益通報対応のあり方を変えることは、現実的には難しいと考えられます。すなわち、担当者が対象法律全てを把握し違反行為がその違反に該当するかを判断することは過大な負担であり、また、そもそも通報される事案の事実関係が通報の時点で必ずしも明確ではない場合も多く、全ての通報について、公益通報該当性を判断することは極めて困難です。そのため、実務的には、公益通報に該当するかの判断はせずに全ての通報を公益通報と同様に取り扱うことが現実的な対応になると考えられます。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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