SH4285 最新実務:スポーツビジネスと企業法務 女性活躍とスポーツビジネス(2)――企業活動との関わりも念頭に 加藤志郎/フェルナンデス中島 マリサ(2023/01/25)

組織法務サステナビリティ

最新実務:スポーツビジネスと企業法務
女性活躍とスポーツビジネス(2)
―企業活動との関わりも念頭に―

長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎

フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ

 

(承前)

2 スポーツにおける女性活躍

⑵ スポーツ団体の組織における女性活躍
  1.   ア スポーツ団体ガバナンスコード
  2.    スポーツ庁は、2019年、スポーツ団体の適正なガバナンスの確保のための運営指針として、中央競技団体[7]向けと一般スポーツ団体[8]向けそれぞれのスポーツ団体ガバナンスコードを策定・公表した[9]。スポーツの持つ公共性や社会的影響力に鑑み、スポーツ団体が適正に事業を運営する上での原則・規範を定めており、企業におけるコーポレートガバナンス・コードを参考としたものである。
     特に、中央競技団体については、選手や指導者に限らずさまざまなステークホルダーが存在し、かつ、各スポーツを国内において統括する立場にあり、公的支援も受けていることから、公共性や社会的影響力が大きい。そのため、国民への説明責任の観点からも、レベルの高いガバナンスが求められており、中央競技団体は、ガバナンスコードの遵守状況について、具体的かつ合理的な自己説明を行い、これを公表するものとされている。
     
  3.   イ 女性理事の目標割合
  4.    中央競技団体向けのガバナンスコードは13の原則から成っており、そのうち原則2は、以下の通り定めている。
     
  5. 原則2 適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである。
  6. ⑴ 組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること
    ① 外部理事の目標割合(25%以上)及び女性理事の目標割合(40%以上)を設定するとともに、その達成に向けた具体的な方策を講じること
    ② 評議員会を置くNF[10]においては、外部評議員及び女性評議員の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的方策を講じること
    (③以下略)

     
  7.    理事による権限の行使及び監督が適切に行われるためには、さまざまな知識・経験を有する多様な人材によって組織が構成されることが重要と考えられる。そのため、上記の通り、中央競技団体においては、多様性の確保の一環として、女性理事・評議員の参画が求められており、特に、女性理事については、40%以上という目標割合が定められている。
     
  8.   ウ 国際的な枠組み
  9.    前記1⑴で述べた通り、政府の男女共同参画基本計画においては、指導的地位に占める女性の割合として30%程度が目標とされているが、中央競技団体向けのガバナンスコードでは、これを上回る40%が目標とされている。
     これは、日本が2017年に署名した「ブライトン・プラス・ヘルシンキ2014宣言」における、スポーツ団体における意思決定の地位における女性の割合を2020年までに40%に引き上げるべきとの提言に基づいている。同宣言は、1994年に開催された第1回世界女性スポーツ会議において採択された「ブライトン宣言」を更新するものとして、2014年の第6回IWG世界女性スポーツ会議において採択された、女性スポーツ発展のための国際的な提言である。なお、第1回世界女性スポーツ会議において、スポーツにおける男女平等・持続可能性等を推進する団体であるInternational Working Group on Women and Sport(IWG)が設立されている。
     また、2012年に国際オリンピック委員会(IOC)が開催した第5回IOC世界女性スポーツ会議においては、マネジメントやリーダーシップにおける女性のスキル向上のための取組強化等を謳った「ロサンゼルス宣言」が採択されている。2021年のIOC総会において採択された「オリンピック・アジェンダ2020+5」においても、スポーツにおける男女平等は重要な課題の一つとされ、IOCのガバナンスレベルに占める女性の割合を引き続き増やすこと等が定められている。2022年には、史上初めて、IOCの委員会のメンバーとして選任された人数が男女同数となった[11]
     
  10.   エ 現状と課題
  11.    調査によれば、分析対象の団体が異なるため単純な比較はできないものの、女性役員が存在しない中央競技団体の割合は、2010年度44.3%、2012年度31.0%、2014年度19.1%、2016年度17.7%、2018年度11.1%、2020年度11.5%と減少傾向にあり、中央競技団体の役員における女性の割合は、2010年度約8%、2012年度約7%、2014年度約10%、2016年度約11%、2018年度約13%、2020年度約15.5%と推移している[12]。その後、2022年に行われた別途の調査によれば、公益財団法人日本オリンピック委員会に正加盟している競技団体における女性理事の割合は、約22%とのことである[13]
     ガバナンスコードにおける女性理事の目標割合である40%には未だ届かない状況にあり、その理由はさまざまあげられるが、日本社会一般における女性活躍の推進の遅れと共通するところに加えて、対象のスポーツにおける女性の競技人口自体が少ないこと等も指摘される。もっとも、これまで男性中心に行われてきたスポーツであっても、競争が激化するエンターテインメント市場での生き残りやさらなる普及発展のために、よりインクルーシブで女性も参加しやすい環境を整えることは重要な課題となりうる。その観点からは、女性の視点や考え方を積極的に反映することが不可欠であり、女性役員の増加は極めて重要という関係性にもある。
     スポーツ庁も、女性役員の人材不足を解消するため、女性スポーツ推進事業として、女性役員の育成支援等を行っている[14]。スポーツ団体としても、組織における女性の増加・活躍を、競技の生き残りや普及発展のための重要な戦略、アピールポイントとして積極的に位置付け、一般企業・社会のモデルとなるような具体的施策に取り組むことも考えられるだろう。

(3)につづく

 


[7] 対象のスポーツに関する国内統括組織として、公益財団法人日本スポーツ協会、公益財団法人日本オリンピック委員会または公益財団法人日本障がい者スポーツ協会に加盟等している団体を指す。

[8] 「スポーツの振興のための事業を行うことを主たる目的とする団体」(スポーツ基本法第2条第2項)のうち、中央競技団体以外のものを指す。

[10] 中央競技団体を意味する。

[11] IOC “Historic milestone: Equal number of men and women appointed by President Bach for positions in IOC commissions” 2022年9月30日 <https://olympics.com/ioc/news/equal-number-of-men-and-women-appointed-for-positions-in-ioc-commissions>

[12] 2年ごとに調査・公表される笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査」調査報告書参照<https://www.ssf.or.jp/thinktank/governance/index.html>

[13] 東京新聞「JOC加盟団体の女性理事22%どまり 本紙が55団体調査、40%達成はわずか6団体」(2022年3月8日)<https://www.tokyo-np.co.jp/article/164269 >

 


(かとう・しろう)

弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。

2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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(ふぇるなんですなかじま・まりさ)

日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。

 

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