SH4322 別除権の被担保債権について、破産管財人による債務の承認に消滅時効中断の効力が、破産手続の異時廃止後に認められた事例(最三小決令和5年2月1日) 関端広輝/片山いずみ(2023/02/21)

取引法務不動産法担保・保証・債権回収

別除権の被担保債権について、破産管財人による債務の承認に消滅時効中断の効力が、破産手続の異時廃止後に認められた事例(最三小決令和5年2月1日)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 関 端 広 輝

弁護士 片 山 いずみ

 

1 本最高裁決定の概要

 ⑴ 事案の概要

 本件は、根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)が設定されていた破産者所有の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、破産管財人が破産財団から放棄し、破産手続廃止後に本件根抵当権の実行としての競売が開始されたところ、破産手続中に行われた破産管財人による本件根抵当権の被担保債権(以下「本件被担保債権」という。)にかかる債務の承認が、本件被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するか否かについて争われた事案である。

 本件不動産に関しては、破産手続中に破産管財人が任意売却を検討し、本件根抵当権者(別除権者)との間で受戻しについて交渉を行ったものの、任意売却の見込みが立たず、最終的に破産財団から放棄されたという経緯があった。当該交渉および本件不動産の放棄前後の通知において、破産管財人は本件根抵当権者に対し、本件被担保債権が存在する旨の認識を表示していた(以下「本件債務承認」という。)。

 

 <主な時系列> 

  本件不動産に本件根抵当権設定
債務者(後の破産者)が本件根抵当権者から借入れ
2014年5月 期限の利益喪失
2016年7月 破産手続開始決定(本件根抵当権の元本確定)、破産管財人選任
~2017年2月 破産管財人と本件根抵当権者(別除権者)との間で本件不動産の受戻しについて交渉
→破産管財人が任意売却を断念し、破産裁判所の許可を得た上で、本件不動産を破産財団から放棄 ※上記交渉、本件不動産の放棄の事前通知(破産規則56条後段)、および放棄後の通知において、破産管財人は本件根抵当権者に対し、本件被担保債権が存在する旨の認識を表示(=本件債務承認)
2017年5月 破産手続廃止決定
2022年1月 本件不動産につき本件根抵当権の実行としての競売申立て
→開始決定
 ⑵ 決定の概要

 本決定においては、まず、債務者以外の者がした債務の承認により時効の中断の効力が生ずるためには、その者が債務者の財産を処分する権限を有することを要するものではないが、管理する権限を有することを要するものと解されると述べている[1]

 その上で、以下のような理由から、破産管財人による本件債務承認は、本件被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当であると判断し、同旨の原審[2]の判断を支持した。

  1. ✓ 破産管財人はその職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものであること(同法44条参照)
  2. ✓ 破産管財人が別除権の目的である不動産の受戻し(破産法78条2項14号)について別除権者との間で交渉したり、当該不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に別除権者にその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであること
  3. ✓ 上記の交渉や通知に際し、破産管財人が別除権者に対して、当該別除権にかかる担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、職務の遂行上想定されるものであり、破産管財人の権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為といえること

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(せきばた ひろき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。1994年 上智大学法学部卒業1998年弁護士登録(東京弁護士会所属)。
1998年新東京法律事務所(その後、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業))入所。2015年 事務所統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。
主な著書・論文等として、『ケースでわかる 実践「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」』(中央経済社、2022)〔共著〕、『多様化する事業再生』(商事法務、2017)〔共著〕、『FinTech法務ガイド』(商事法務、2017)〔編集・共著〕、『注釈破産法(上下巻)』(きんざい、2015)〔共著〕、『クロスボーダー事業再生 – ケース・スタディと海外最新実務』(商事法務、2015)〔共著〕ほか。

 

(かたやま いずみ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2009年東京大学法学部卒業。2011年東京大学法科大学院修了。2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015年 ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所、事務所統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。
主な著書・論文等として、『実務で役立つ 世界各国の英文契約ガイドブック』(商事法務、2019)〔共著〕、『破産手続書式集〔新版〕』(慈学社出版、2018)〔共著〕ほか。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

<連絡先>
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