2020年4月16日号
インドネシア:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
はじめに
緊急事態宣言の発令以降、大都市圏の多くの企業が急速なテレワークへの切替えや事業体制の見直しに追われる一方、3月決算企業では決算・監査対応を中心に多くの課題が生じるなど、事業への影響は日々拡大しています。多くの海外地域においては引き続き厳格な外出制限や営業禁止等のロックダウン措置が継続している一方、一部地域においては行動制限の軽減・解除に向けた議論が始まるなど出口戦略の模索も始まりつつあります。
本記事では速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月15日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者:459人、感染者数(累計):4,839人(4月14日現在) 3月以降感染者の増加が止まらないインドネシアでは、4月2日以降、滞在許可証を保有しない外国人の入国を一律に禁止する追加措置がとられた。特に感染者の増加傾向が高い首都ジャカルタでは、3月から自宅勤務の推奨や学校の休校、娯楽施設や商業施設の閉鎖等の措置がとられていたが、4月10日より「大規模社会制限」が発動され、生活に必須なサービスを除き、全ての職場が閉鎖された。さらに4月13日には、新型コロナウイルスの感染が全国的に拡大している状況を踏まえて、大統領通達によって国家災害に指定され、4月15日以降、西ジャワ州の複数の地域でジャカルタ同様の大規模社会制限が実施されている。 |
主な政府発表
- ・ 法務人権大臣令2020年第3号(2020年2月5日制定)に基づく中国人及び中国への渡航歴のある外国人へのビザ発給の一時停止
- ・ ジョコウィ大統領による、インドネシア初の国内感染事例に関する声明(3月2日)
- ・ジョコウィ大統領による、新型コロナウイルス拡大防止に向けての声明(3月15日)
- ・ ジャカルタ特別州知事による非常事態宣言(3月20日)
- ・ 調整大臣が地域隔離に関する政令の公布を発表(3月27日)
- ・ ジャカルタ特別州知事が中央政府に対してジャカルタ特別州の都市封鎖の実施に関する要請書を提出(3月30日)
- ・ 外務大臣による外国人の入国全面禁止の発表(3月31日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限に関する大統領令(3月31日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限に関する保健大臣令(4月3日)
- ・ ジャカルタ特別州知事宛の大規模社会制限の発動を承認する保健大臣通達(4月7日)
- ・ COVID-19に関連する大規模社会制限の実施に関するジャカルタ州知事令(4月9日)
- ・ 新型コロナウイルス感染を国家災害に指定することを定めた大統領通達(4月13日)
渡航情報
- ・ 4月2日以降、一時滞在許可証(KITAS)や長期滞在許可証(KITAP)を保有しない外国人に関しては、インドネシアへの入国とトランジットが禁止されている。
- ・ 滞在許可証を保有する外国人は引き続き入国は可能であるが、入国前14日間、感染が深刻化している国に滞在していないことと(現状日本は深刻化していない国として扱われている。)健康証明書の提出が求められる。当該健康証明書はインドネシアに到着する7日以内に取得されたもので、呼吸器感染症の症状がないことが記載されている必要がある。
その他
- ・ インドネシア金融庁は、3月9日付けで「自社株買いが許容される市況への重大な変動を与えるその他の事由」に関する回状(Circular Letter)を発行し、今回の新型コロナウイルスの拡散が市況への重大な変動を与える事由に該当するとの解釈を明らかにした。インドネシアの上場会社に関しては、一定の市況への重大な変動を与える事由が生じた場合に、本来必要な株主総会の決議無しに一定限度の自社株買いを許容する金融庁規則が2013年に施行されているところ、今回の回状により、現在の状況下で同規則の適用を受けられることが明確化され、より機動的な自社株買いが可能であることが確認された。市場での株価の下落が著しい現状において、上場会社の資本政策の選択肢が広がる措置と評価できる。
- ・ インドネシア金融庁は、3月18日付けで新たな回状を発行し、上場会社による年次株主総会の開催期限を2か月延長して8月31日までに変更し、また計算書類等の提出期限も2か月延長した。
- ・ 感染拡大防止の目的で、インドネシアへの投資を主管する投資調整庁の窓口が3月17日より3月末までサービスを一時停止することを発表した。この措置は4月以降も継続している。オンラインでの手続きは引き続き可能である。
- ・ インドネシア事業競争監視委員会(KPPU)は、企業結合届出の受付を含む業務を4月6日まで中断する措置をとることを決定した。この措置は3月16日に遡って適用され、この期間は提出期限である30営業日の日数にはカウントされないことになり、結果的に提出期限が延長されたことになる。
- ・ インドネシア金融庁は、3月16日付けで新型コロナウイルス発生の影響に対する景気対策としての国家経済刺激策に関する規則を制定し、銀行に対して特に中小零細企業の債務者に向けた救済措置を実施することを促している。
- ・ 現在インドネシアの複数の地方政府から大規模に社会活動を制限することについての申請が中央政府に上げられているようであり、このうち4月7日に発行された保健大臣通達に基づき、ジャカルタ特別州に対して大規模社会制限を発動することが承認された。これに基づき、ジャカルタ特別州は4月10日より、一部の必須のサービス(電気、ガス、水道、銀行、薬局、スーパーマーケット、物流、メディア、病院等)を除き、全ての職場及び学校は以降、閉鎖されることを決定した。同時にスポーツ、娯楽及び宗教関連の行事も全て禁止される。
- ・ ジャカルタ特別州に続いて、西ジャワ州のボゴール、ブカシ、デポック及びバンテン州のタンゲラン及び南タンゲランでも大規模社会制限の実施が承認され、西ジャワ州の該当地域では4月15日以降、バンテン州の該当地域では4月18日以降実施される。その他複数の地域から大規模社会制限の実施の申請が保健省に上がっているものの、承認が下りていない地域も複数ある。
(ふくい・のぶお)
2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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