◇SH3843◇インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(3) 酒井嘉彦(2021/12/01)

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インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(3)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

(承前)

⑵ 担保権の実行手続

 ① 民法上の質権

  1.    民法上の質権の実行方法は、民法に規定されており、質権設定者が債務を履行しない場合には、質権者は質権を「公の場」(現行法上、競売実施機関であると解されている。)で売却することができる旨が規定されている。また、質権者は裁判所に対して質権の実行を申し立てることができる旨も規定されており、かかる実行には、質物を売却して債務の返済に充当する方法と、質物を質権者が取得し、その価額と債務額とを相殺する方法とが認められている。質物を売却する場合には、やはり競売実施機関を通した売却手続が取られる。
  2.  

 ② 信託担保権

  1.    信託担保法上、信託譲渡証書は、裁判所の確定判決と同等の執行力を有し、債務者が債務不履行に陥った場合、担保権者は、裁判所で債務名義を取得することなく、その権限に基づき競売又は私的売却により信託担保権を実行することにより債権回収を行うことができる旨が規定されている。しかしながら、2019年12月、インドネシア憲法裁判所は、上記信託担保法の規定を違憲であると判断し、債務不履行が発生しているかどうかについて担保権者と債務者との間で争いがある場合には、債務不履行の発生について裁判所の判決を取得しない限り、担保権者が独断で信託担保権を実行することは認められないという判断を下した。かかる判断は、以下の競売と私的売却のいずれによる場合にも同様にあてはまる。
  2.  
  3.    競売による場合、実務上、競売執行機関は、(債務不履行が発生しているかどうかに関する担保権者と債務者との間での争いの有無にかかわらず)競売手続開始に関する裁判所の命令を必要とする運用になっているため、競売による担保権の実行は、担保権者にとってあまり魅力的な選択肢ではない場合も多い。
  4.  
  5.    上記に加え、信託担保法上、①担保権者及び債務者の間で合意があり、②より高い価格で担保対象物を売却できることが見込まれる等の一定の要件を満たし、③関係者への通知及び公告後1ヶ月の経過等の一定の手続を履践した場合には、私的売却も認められている。
  6.  
  7.    なお、担保対象物の売却による受取金が被担保債権額を超過する場合には、担保権者は当該超過分を債務者に返還する必要がある。もっとも、通常、担保権者は、被担保債権額(貸付債権の残高)の全額を回収できる限り、早期に担保対象物を売却することを望むため、担保対象物の売却により剰余金が発生し、当該剰余金について担保権者及び債務者の間で清算されることは実務上多くはない。

 

⑶ 破産手続上の取扱い

 破産手続において、担保権者の債権は、法令等に基づき優先される権利(例えば、税務債権及び労働者の未払給与債権等)を除き、一般債権者(無担保債権者)の債権に優先する。担保権者のために担保に供された財産は破産財団に含まれないため、担保権者は、破産手続の外でその権利を行使することができる(もっとも、処分禁止期間等の一定の制約には服する。)。

 

⑷ 担保権の消滅

 インドネシア法上、担保権は付随性を有し、被担保債権の発生原因となる契約(貸付契約)が、債務者の債務の完済などにより終了し、解約され又は無効となった場合、担保権も付随して消滅する。

 

(4)につづく

 


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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

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