実学・企業法務(第132回)
法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅱ〕医薬品、化粧品
〔Ⅱ-1〕医薬品
3. 製薬(製造販売業)
医薬品は人の生命・健康に直結するので、法令で開発・生産・販売が厳しく規制され、日本で業として医薬品を市場へ製造・販売することは医薬品医療機器等法[1]で規制され、許可制度になっている。
近年は、製薬企業の収益力低下や、創薬の困難度の上昇が、克服すべき課題として認識されている。
医薬品は、病気に応じて多品種少量生産になることが多いが、使用者の健康・生命に係わるので、赤字商品でも容易に生産中止できない。
- (注) 同一成分でも、粉末、錠剤、カプセル、液体等があり品種が多い。
(1) 製薬業界の概要
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・ 日本の医薬品業界の概要は次の通りである[2]。
製薬会社数は328社(2016年度)あり、うち、内資系291社、外資系37社。
主に医療用医薬品を製造販売する製薬会社は115社(内資系95社、外資系20社)。
医薬品の販売高(年間)は約12兆円(内資系10兆円、外資系2兆円)。
2014年度雇用人数(336社) 16.8万人(管理2.2万人、製造4.3、開発2.9、営業7.3) -
・ 近年、製薬会社の事業展開には5つの類型が見られる。
広分野創薬[3]、分野特化[4]、新薬・ジェネリック並存[5]、ジェネリック特化[6]、医薬品以外と兼業[7] -
・ 医療用医薬品の国内生産額は約7兆円[8]。
(内訳)医療用医薬品87.9%、一般用医薬品11.8%、配置用家庭薬0.3% -
・ 医薬品の貿易収支は、約2兆5,000億円の輸入超過。
(参考)日本の医薬品の貿易統計(2016年、財務省)輸入[9]2兆9,241億円 輸出4,623億円 - ・ 日本で最大の会社の規模は世界10位程度[10]。各社がM&Aによる事業強化を図っている[11]。
(2) 製造販売業(以下、条数は「医薬品医療機器等法」)
規制(業務管理を含む)、技術等の基準、行政による監視を法令で厳しく規定している。
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① 医薬品の製造販売業を行うには、厚生労働大臣の許可を必要とし(5年毎[12]に更新)、「製造販売業三役」を置いて管理することを義務付けられる(12条、12条の2、17条)。
三役とは、a.市場に最終責任を負う「総括製造販売責任者[13]」と、その監督の下で、b.販売部門等から独立して製造における品質を保証する「品質保証責任者[14]」、及び、c.販売後の不具合・副作用等を監視する「安全管理責任者[15]」をいう。
- 〔製造販売業の許可の審査ポイント 3項目〕
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1 企業の責任体制の審査 「製造販売業許可申請」
医薬品を製造販売するには、「製品の市場に対する最終責任」、「品質保証業務責任」、「安全管理業務責任」を担う能力を有することを都道府県に申請し、許可を得る。 -
2 製品の有効性・安全性等の審査 「製造販売承認申請」
医薬品そのものに性能・安全性等の面で問題ないことを厚生労働省に申請し、承認を得る。
(一部の「安全性が確立済の医薬品」は都道府県知事の承認を受ける。) -
3 製品の生産方法・管理体制の審査
(ⅰ)「製造業許可申請」 医薬品を製造する能力があることを地方厚生局又は都道府県に申請し、許可を得る[16]。
(ⅱ)「GMP[17]適合性調査申請」 製造所が「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」に適合していることをPMDA[18](又は、都道府県)に申請し、適合性調査を受ける。
- ② 製造販売業者、医療現場、厚生労働省(実務はPMDA)の間で、さまざまな報告・情報提供の義務又は努力義務が課されている。(以下、条数は「医薬品医療機器等法」)
- ・ 製造販売業者は、医薬品等の有効性・安全性等に関する情報を、薬局・病院・医師・薬剤師等の医薬関係者に提供するように努める(68条の2)。
- ・ 製造販売業者は、医薬品等の使用による危害発生を知ったときは防止のために廃棄・回収・販売停止・情報提供等の措置を講じる(68条の9)。副作用・感染症等が疑われる事項を知ったときは厚生労働大臣に報告する義務を負う(68条の10第1項)。回収する場合は厚生労働大臣に報告する義務を負う(68条の11)。
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・ 薬局・病院・医師・薬剤師等の医薬関係者が、医薬品等の副作用・感染症等と疑われる事項を知った場合において危害の発生・拡大の防止の必要性を認めるときは、厚生労働大臣に報告する義務を負う(68条の10第2項)。
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③ 医薬品等の基準は厚生労働大臣が定め、検定に合格したものだけが販売される。(42条1項、2項。43条)。
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④ 医薬品等の容器・添付文書に記載すべき事項が定められ(50条、52条)、誇大広告等は禁じられる(66条)。
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⑤ 厚生労働大臣(一部、都道府県知事)は許可条件を維持するために大きな権限を有している。
立入検査・報告命令・収去等を行い(69条)、必要な場合に、緊急命令(69条の3)、廃棄・回収命令(70条)、検査命令(71条)、改善命令等(72条)、責任者の変更命令(73条)等。
なお、製造販売業・製造業の「許可」を取消す(75条)こともできる。
[1] 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(旧、薬事法)
[2] 厚生労働省「医薬品・医療機器産業実態調査」
[3] (例)武田薬品工業、アステラス製薬、バイエル薬品、ベーリンガーインゲルハイム
[4] (例)参天製薬、ツムラ、久光製薬、バクスター、イーライリリー
[5] (例)エーザイ、第一三共、ノバルティスファーマ、ファイザー
[6] (例)沢井製薬、日医工、日本ジェネリック、共和薬品工業、マイラン
[7] (例)大塚製薬、富士フィルムファーマ、J&J
[8] 厚生労働省「平成27年薬事工業生産動態統計年報」
[9] 主な輸入国:米国、アイルランド、ドイツ、スイス、フランス
[10] 世界の製薬大会社:ファイザー(米国)、ロシュ(スイス)、ノバルティス(スイス)、メルク(米国)、GSK(英国)
[11] 〔武田薬品工業〕米国のミレニアム・ファーマシューティカルズを約8,800億円で買収(2008年)、スイスのナイコメッドを96億ユーロ(約1兆1,200億円)で買収(2011年)、ブラジルのマルチラブを5億レアルで買収(2012年)、米国のアリアド・ファーマシューティカルズを54億ドル(約6,200億円)で買収(2017年)。〔アステラス製薬〕米国Ocataを買収(2015年)、ドイツGanymedを買収(2016年)、ベルギーOgedaを買収(2017年)。〔第一三共〕インドRanbaxyを1,998億ルピーで買収(2008年)、米国Ambitを3億1,500万$で買収(2014年)。
[12] 医薬品医療機器等法施行令3条
[13] 医薬品医療機器等法17条2項、18条1項
[14] Good Quality Practice(GQP)「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令」4条3項。例えば、市場出荷記録、製造・品質管理、品質情報・不良処理、回収処理、文書・記録管理、他の品質管理、品質管理業務手順書(GQP手順書)作成等を行う。医薬品医療機器等法18条2項
[15] Good Vigilance Practice(GVP)「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」4条2項、13条2項。販売後の不具合・副作用等を監視し、情報収集、情報検討・措置の立案、措置、安全管理業務手順書作成等の業務を行う。医薬品医療機器等法18条3項
[16] 外国製造の場合は、厚生労働省に「外国製造業者認定申請」して認定を受ける。
[17] 厚生労働省「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」の基準をGMP(Good Manufacturing Practice)と略称する。「GMP省令」は、多くの基準書の作成・運用を義務付ける。
〔基準書の例〕
製品標準書、製造所からの出荷の管理手順書、変更管理手順書、逸脱管理手順書、品質等に関する情報及び品質不良等の処理手順書、回収処理手順書、自己点検手順書、教育訓練手順書、文書及び記録管理手順書、バリデーション手順書
[18] 「独立行政法人医薬品医療機器総合機構」の通称。