◇SH1247◇顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第7回・完) 有吉尚哉(2017/06/21)

未分類

顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第7回・完)

西村あさひ法律事務所

弁護士 有 吉 尚 哉

6 本原則を踏まえた取組み

 本原則の公表と合わせて金融庁は本原則の定着に向けた取組みをまとめた資料を公表している。その中では、①金融事業者の取組みの「見える化」、②当局によるモニタリング、③顧客の主体的な行動の促進、④顧客の主体的な行動を補う仕組みという4項目の取組みが掲げられている。

 金融事業者の取組みの「見える化」という点では、原則1により、本原則を受け入れた金融事業者には、顧客本位の業務運営を実現するための方針や当該方針に従った顧客本位の業務運営の取組状況の公表が求められ、原則4・5により、金融事業者が提供される金融商品・サービスの内容や手数料などに関する情報提供が進むことにより、「見える化」が促進するものと考えられる。この点、前述の金融庁の資料では、顧客本位の業務運営の定着度合いを客観的に評価できるようにするための成果指標(KPI)を、取組方針やその実施状況の中に盛り込んで公表するよう、各金融事業者に働きかけるという方針が述べられている。

 また、平成29年6月から、金融庁が取組方針を策定した金融事業者の名称とそれぞれの取組方針のURLを集約し、金融庁ホームページにおいて公表することとされている。本原則を採択し、金融庁ホームページでの取組方針の公表を希望する金融事業者は、所定の様式で金融庁に報告を行うことが求められる。なお、初回のリストの公表は平成29年6月末が予定されているが、四半期ごとに金融庁ホームページのリストが更新される趣旨であり、金融事業者が本原則を受け入れるためには必ず初回の公表時までに方針の策定・金融庁への報告を行わなければならないということではない。この点、金融庁は「取組方針の策定時期に特定の期限を設けることは予定しておりません」と明示的に説明している[1]

 このような金融事業者の「見える化」が進められることにより、金融サービスを利用する顧客にとって各金融事業者の取組みを比較し、より良い取組みを行う金融事業者を選択することが可能となり得る。他方で、適切に金融事業者を選択できるようになるために、顧客となる一般投資家の側でも、金融商品・サービスに関する知識・経験を蓄積し、金融事業者を適切に選別できるよう主体的に行動することが期待される。前述の金融庁の資料でも、顧客の主体的な行動を促進することや、そのような行動を補う仕組みについての取組みを進めることが述べられている。

 さらに、本原則によるプリンシプルベースの規律が採用されることにより、当局によるモニタリングのあり方も変容が求められる。本原則の下では、基本的に各金融事業者が策定する方針を尊重した検査・監督を実施すべきであり、従来のモニタリングの枠組みを維持したまま、過剰な「ベスト・プラクティス」の押付けとなるような運用とならないことが期待される。この点、「検査・監督においては、原則の受入れ状況、策定した取組方針、当該方針に係る取組状況について、適切にモニタリングを行い、ベスト・プラクティスの実現を目指して対話していくことが重要」という考え方が説明されており[2]、このような考え方が、金融検査・監督の実務を取り扱う各担当官にも周知・徹底されることが望まれる。

以 上



[1]    平成29年3月30日付で金融庁より公表された「『顧客本位の業務運営に関する原則』の確定について-コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ回答」という)43番。

[2]    パブコメ回答165番。

 

タイトルとURLをコピーしました