◇SH1814◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(68)―企業グループのコンプライアンス① 岩倉秀雄(2018/05/08)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(68)

―企業グループのコンプライアンス①―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 前回は、中小企業・ベンチャー企業のコンプライアンスについて、まとめと残された課題について述べた。

 今回から、企業グループのコンプライアンスについて、組織間関係論をベースに考察する。

 親会社の不祥事のみならず子会社の不祥事が親会社を決定的なところへ追い込むケースはたびたび目にする[1]

 子会社の不祥事は、親会社の責任と見られ親会社だけではなくグループ全体のブランド価値を決定的に傷つけることから、親会社は、自組織だけではなく(海外を含む)グループ会社全体のコンプライアンス強化に取り組まなければならない。

 

【企業グループのコンプライアンス①】

 近年、ある程度の規模の組織であれば一定程度のコンプライアンス体制が整備されているが、企業グループ全体へのコンプライアンスの浸透・定着は、形式上の体制作りは行われていても、必ずしも(特に子会社に対しては)徹底しているとは言えない。 

 このことは、(海外子会社を含めると更に言えることであるが)、グループ企業全体に対するコンプライアンス定着度評価アンケートを実施すればより明らかになる。

 実際には、グループ企業といってもさまざまな規模や業種・業態があり、経営状況も異なるので、コンプライアンスが周知徹底されている企業もあれば、そうでない企業もある。

 その意味で、その会社の実情に合ったコンプライアンス施策の実施が重要になるが、本稿では、それらを踏まえ、親会社として、どうすればグループ企業にコンプライアンスを浸透・定着させることができるのかについて、組織論の組織間関係論を踏まえて考察する。

1. 問題認識と筆者の視点

 親会社と子会社の関係は様々であるが、一般的には、親会社は資本関係をベースにカネ、ヒト、モノ、情報面で子会社に対する支援やパワー(影響力)行使を行う一方、子会社自身の活力を維持・発展させるために、経営の自主性に配慮する。

 親会社は、親会社と子会社や子会社同士の文化の違いや業界の違いがあるとしても、子会社のコンプライアンス違反によりグループ企業全体の価値が棄損するのを避けるために、子会社に対するコンプライアンスの浸透・定着を徹底する必要がある。

 親会社は、子会社に対して、所有に基づく公式権限(パワー)を持っており、親会社の子会社に対する報酬・制裁のパワーは強力である。

 また、時間が経つにつれて親会社と子会社の間には組織間文化(メンバー組織間で共有される価値や行動様式)が形成され、目に見えない組織間関係が組織間の統合機能を果たすことになる。

 グループ企業にコンプライアンスを徹底する場合、グループの共通の価値観や信念であり子会社の組織行動に影響を与える「組織間文化」に働きかけるという視点が必要になる。

 一般に、組織間文化の形成は、組織間における神話、儀礼、言語のほかに、経営会議や各種委員会への参加など公式のコミュニケーションシステム、経営者同士の個人的関係や対境担当者同士の業務行動などにより発生する多元的な知覚により影響を受ける。[2]

 したがって、親会社はこのことを踏まえて子会社に対する様々なパワー資源を活用し、組織間関係を形成する各種要因に意図的に働きかけて、コンプライアンスの浸透・定着を図らなければならない。

 組織間文化の形成という視点で見ると、親会社から派遣される子会社の経営幹部が、意思決定の様々な場面において、慣れ親しんだ親会社の価値判断や仕組みを持ち込みやすい。

 すなわち、親会社の組織文化は子会社にある程度遺伝すると考えられる。(筆者の見解)

 組織文化は意思決定の前提になるものなので、子会社の業種・業態が親会社と異なるとしても、経営環境の捉え方や課題への対応方法に親会社の価値観が影響を与える。 

 例えば、親会社から派遣された子会社の役員が、子会社の実態にふさわしくない場合でも親会社の意思決定の仕組みや管理制度を子会社に導入しようとする傾向がある。

 利益至上主義の組織文化を有する企業グループの子会社には、親会社の組織文化の影響から、利益のためにはコンプライアンスを軽視しても良いという価値観の蔓延が想定される。

 特に子会社でコンプライアンス違反が発生しやすいのは、目先の成果を求める圧力が親会社から子会社に加わっている場合や、過去、利益至上主義の組織文化であった親会社が現在はコンプライアンス重視経営に舵を切っていたとしても、子会社に転出した経営幹部が頭を切り替えられず、旧い利益至上主義の価値観を体現している場合等である。

 次回は、子会社の規模や経営状況による対応の違いについて考察する。

 


[1] 雪印乳業(株)は、食中毒事件(平成12年6月)の発生後、一旦は売上回復に成功した(平成11年度約1兆2,878億円⇒平成12年度約1兆1,408億、平成13年度約1兆1,647億円)が、食中毒事件の2年後に発生した子会社の雪印食品(株)の牛肉偽装事件により、社会的信用を失墜し売上は大幅に下落、解体的出直しを迫られた。(平成14年度約7,270億円、平成15年度約3,181億円、平成16年度約2,834億円、平成17年度約2801億円、平成18年度約2,773億円、平成19年度約2,870億円)

[2] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)145頁~150頁

 

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