◇SH1829◇経産省、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の報告書を公表(2018/05/11)

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経産省、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の報告書を公表

--日本企業の競争力強化に資する経営と法務機能のあり方等を整理--

 

 経済産業省は4月18日、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」(座長=名取勝也・弁護士)の報告書を公表した。

 経産省では、「変革期において、競争に勝っていくためには、より広範な視点からリーガルリスクを正しく把握・評価し、経営判断をしていく必要があるとともに、ルールの捉え方や視点を変えることで新しい市場獲得につなげるなど、リーガルリスクを『チャンス』に変えていく戦略的な法務機能が不可欠」であるとして、同研究会を立ち上げ、本年1月から3月まで議論を行い、報告書をとりまとめたものである。

 報告書では、経営法友会会員企業への調査結果等をもとに日米企業の法務部門の比較を行い、これからの日本企業に求められる法務機能のあり方、そこに向けた課題と克服の方策等を検討している。

 経産省は、関係機関とも協力しながら報告書の内容について産業界等に普及啓発を図るとともに、関係機関や産業界等とさらに意見交換を進め、企業の競争力を強化する観点から多面的な取り組みを進めていくこととしている。

 以下、報告書の概要を紹介する。

 

○「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」の概要

  1. 第3章 これからの日本企業に求められる法務機能とは
  2. ・ 法務領域が高度化する時代を迎えているが、リーガルリスクを回避するだけではなく、これをビジネスチャンスに変えていくことで、企業の一層の成長を目指すことが期待される。そのためには、経営と法務が一体となった、高度な戦略的経営を実現することが重要である。
  3. ・ これまでの法務機能の中心的な役割は、「守り」にあった。「最後の砦」として、企業の良心であることが求められ、その重要性は、今後も変わらない。(ガーディアン機能)
  4. ・ その上で、経営環境が大きく変化する時代において、法務機能に求められる重要なポイントは、「攻め」の役割として、ビジョン(社会に提示できる新しい価値)とロジック(現行法における一定の解釈で成立し得るか)を兼ね備え、ビジネスに対する意識を持って行動することである。(パートナー機能)
  5. ・ 具体的には、リーガルリスクを評価・分析して、取れるリスク・取れないリスクを判断し、さらに、リスクテイクする際の現実的な手法などを経営層や事業部門に提案していくことである。そのためには、ルールは時代とともに変化していくものと認識した上で、自社の経営や業界動向など、あらゆる情報に対してアンテナを張って、それらの情報・知識に基づいた行動や提案を行う能力が求められる。
  6. ・ このような戦略的法務部門を自社内に充実させることで、よりスピーディかつ効率的な経営、ひいては、強固な経営戦略の構築が可能となる。
  7.  
  8. 第4章 課題と克服
  9. ・ 日本企業の法務部門は、この10年間で規模・質とも充実してきている。しかし、国内外の経営環境が大きく変わる中では、さらにスピードアップした変革が求められる。
  10. ・ 第3章で示した新たな法務機能の実装には、(1)企業のマネジメントの発想の転換、(2)組織・オペレーションの整備、さらに、(3)新たな法務機能を実現する法務人材の育成・供給など、多くの課題がある。これら課題の解決には、個々の企業の主体的な取組が求められる。
     
  11. 【課題(1)】
     経営層・事業部門が法務部門を、単なるコスト部門のひとつと認識している傾向がある。
  12. 【課題の克服】
     経営層、事業部門の発想の転換(リスクテイク・マネジメントの構築)
  13. ・ 複雑化・多様化するリーガルイシューへ対応しながら企業を成長させていくためには、経営層が経営環境の変化を認識した上で、法務機能を有効活用するという発想が必要。
  14. ・ リスクには、取ってはいけないリスクと、適切にコントロールすれば取る余地のあるリスクもあることから、リスクは、すべて排除するものではなく、コントロールするものであると認識する必要。
  15. ・ リスク判断に当たっては、経営層・事業部門と法務部門が一体となったリスクテイク・マネジメントを構築することが必要かつ有益である。そのためには、経営層・事業部門・法務部門が一体となって、全社的な法的リテラシーを高める取組も必要である。
     
  16. 【課題(2)】
     法務部門の責任者が経営に関与していない等、組織上、経営と法務がリンクしていない。
  17. 【課題の克服】
     組織・オペレーションの整備
  18. ・ 経営と法務の一体となった強固な経営戦略の実現。
  19. ・ ジェネラル・カウンセル(GC)、チーフ・リーガル・オフィサー(CLO)の設置。
  20. ・ GC・CLOとは、①ビジネスの経験を積んだ法律のプロフェッショナルであり、②法務部門の統括責任者であり、③経営陣の一員としての職責を果たす、ポジションである。
  21. ・ 経験を積んだ法律のプロフェッショナルを経営陣の一員とすることで、法的知見をダイレクトに経営に活かすことができ、経営と法務が一体となって強固な経営戦略の構築が可能。
  22. ・ 専門性を持ったリーガルアドバイスが適切に経営層・事業部門に伝わるように、法務部門のレポートラインを「機能軸」「事業軸」の複数の系統にするなどの整備。
  23. ・ 会社として向き合うべき法的リスクを勘案した適切な決裁権限基準の設定。
  24. ・「タコツボ」化した会社組織の見直し、「攻め」の法務を意識した部署の設置・活用(例えば、経営陣のビジョンを戦略や計画に落とし込み、実現に向けて最適な経営資源の配分を行うための「経営企画部」、社会に対する発信やロビー活動を行うための「公共政策部」等)。
     
  25. 【課題(3)】
     新たな法務機能を担うスキルを持ったプロフェッショナル人材が不足している。
  26. 【課題の克服】
     人材に対する投資
  27. ・ 多様な教育機会の提供(OJT+社内教育プログラムの充実)、リカレント教育(大学院等における社会人対象プログラム)など外部機会の活用。
  28. ・ 限られたリソースの下で、法務部門の業務内容・重点分野・業務遂行方法を見直すとともに、AIなどのIT技術を積極的に活用する。
  29. ・ 法務の経験を積んだ人材の中途採用、法律事務所からの出向など外部からの人材の登用。
  30. ・ 外部弁護士の活用。
  31. ・ 企業理念や事業目標とリンクした法務に関するポリシーの作成と徹底。
  32.  
  33. 第5章 関係機関による課題対応の在り方
  34. (1) 法務人材の育成に向けた取組
  35. ・ 各大学の特色に応じた法科大学院や学部教育における取組(企業法務など実践に則したカリキュラムや多様な機会の提供等)
  36. ・ 司法修習段階における関係者の取組(企業法務に関する説明会の実施等)
  37. ・ 大学院における社会人を対象とした教育プログラムの充実
  38. ・ 関係者間の情報共有等の取組、現行諸制度の見直し等
  39. (2) 民間の活力活用に向けた取組
  40. ・ 規制緩和の推進(企業実証特例制度、グレーゾーン解消制度や「規制のサンドボックス」制度等の活用促進、事業者をサポートする一元的窓口の設置等)
  41. ・ グローバル対応に向けた企業向けのリーガルサポート制度の活用促進
  42. (3) 企業法務の重要性に関する普及啓発等の取組
  43. ・ 関連団体による企業法務の重要性や成功事例の広報
  44. ・ 関係団体の協力による企業法務に必要となる「スキルマップ」の策定
  45. ・ 関係団体が主催する企業法務に関する研修プログラムの充実

 

 

  1. 経産省、国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書を取りまとめました(4月18日)
    http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002.html
  2. ○ 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書について(概要)
    http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-1.pdf
  3. ○ 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告(全文)
    http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf
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  5. 参考
    SH1708 経産省、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」を発足(2018/03/15)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=5645439
  6.   北村敦司=金澤優「『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書』について」NBL1121号(2018)92~95頁

 

 

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