◇SH1838◇社外取締役になる前に読む話(21)――監査役との協調・情報交換⑴ 渡邊 肇(2018/05/16)

未分類

社外取締役になる前に読む話(21)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XXI 監査役との協調・情報交換(1)

ワタナベさんの疑問その13

 当社には、社外監査役2名を含む4名で構成される監査役会がある。

 取締役会には監査役も出席し、弁護士である社外監査役も含め、積極的に発言しているのだが、往々にして我々社外取締役の発言と社外監査役の発言の趣旨が重複しており、両者の役割分担が明確になっていないように思われる。

 特段気にする必要はないのだろうか。監査役との関係で、自分の発言に留意すべき点はあるだろうか。取締役会の議案について、特に社外監査役との間で、事前に擦り合わせを行っておく必要はないのだろうか。

 

解説

 ワタナベさんの会社が会社法328条に定める監査役会設置会社であることを前提とする。

 監査役は、取締役の職務の執行を監査することがその職務である(会社法381条)。監査の対象は、取締役の「職務の執行」であり、「業務の執行」ではない。従って、業務執行取締役の業務執行のみならず、社外取締役を含む全取締役の監視義務の履行状況も監査の対象となる。

 この点に関しては、「なるほど、社外取締役が監視義務を果たしているか否かも監査の対象になるのか」と改めて新鮮に思われる方もおられるだろうが、同時に、「そうすると、取締役の監視義務と、監査役の取締役の職務執行監査義務とは何が違うのか」という疑問を持たれる賢明な読者の方もおられるであろう。この点はまさしく、取締役と監査役の職務の違いを端的に示すもので非常に興味深い。両者の違いは、監視または監査の対象が、適法性の判断に留まるのか、妥当性にまで及ぶのか、という点である。すなわち、監査役の職務が原則として「適法性の監査」に留まるのに対し、取締役の職務は「妥当性の監視」にまで及ぶということである。考えてみれば、この違いは当然といえば当然のことである。先回まで検討したとおり、取締役は、業務執行取締役の業務執行が取締役に付与されている裁量権を逸脱していないか否かについても監視する義務を負担するわけであるが、このことは、他の取締役の業務執行の妥当性を監視する義務を負担していると言い換えることもできるからである。

 他方、監査役が経営には関与しない以上、監査役に業務執行の妥当性を判断する職務を負わせる必要はないのであり、結果的に監査役は、業務執行取締役の業務執行が適法に行われているか否かについて判断すれば足り、業務執行の裁量権逸脱の有無について判断する必要はないということになる。因みに付言すると、監査役の適法性監査は、端的には取締役の職務をその対象とするものではあるが、当該監査権限を全うするため、従業員を含む全社の業務の執行状況について広範な調査権限を有している。逆に言うと、それだけ広範な調査義務をも負担しているということである。この点、厳密に言えば、取締役もまた従業員の業務執行執行状況につき監督義務を負担するのだが、これまで解説してきたとおり、自らの所管業務以外の業務については、その程度は緩和されているわけである。

 取締役の監視義務と、監査役の監査義務の範囲に上記のような違いがあることを前提として、ワタナベさんの疑問について考えてみたい。ワタナベさんは、取締役会での自分の発言内容が、社外監査役の発言内容と重複することが多いことに違和感を持ち、役割分担の切り分けが上手くできていないと考えているようである。この疑問についてはどのように考えれば良いのだろうか。

 個人的には問題にはならないと考える。小職も複数の会社で社外監査役を務めさせて頂いているが、このようなことを感じる機会は多い。原因の一つは、監査役といえども、例えば取締役の議案である投資案件の審理にあたって、その適法性のみならず、投資方針全般に関する会社のポリシー、経営に与えるインパクト等、要は当該案件の妥当性に関して質問や発言を行うことがあることに起因しているように思われる。上記のとおり、厳密に申し上げれば、取締役の職務執行の妥当性を監査することは監査役の職務ではない。しかしながら、監査役がこの点について疑念を持った場合に、その疑念を取締役と共有すること自体は何ら禁じられているものではなく、むしろ会社にとっても望ましいといえるであろう。監査役がこの点に踏み込んだ場合、その限りでは社外取締役の職務とオーバーラップすることになるが、社外取締役として、監査役の発言を自らの職務への越権行為であると考える必要はなく、むしろ共に検討する姿勢が望ましいと考える。同様に、監査役の懸念点が自らの懸念点と被ったとしても、その懸念点を表明することを躊躇する必要もないように思われる。社外取締役も監査役も、各々独立した会社の機関である以上、自らの知見に従い、その職務を全うしていけば良いだけのことである。

 ワタナベさんの最後の質問、すなわち、取締役会の議案について事前に監査役と協議する必要性に関しては、あくまで議案次第だと申し上げたい。上記のとおり、こと監視義務の範囲についても、監査役の監査の範囲とは異なる以上、事前に総ての議案につき、監査役との事前の意見交換が必要であるとは思わないが、案件によっては、例えばその適法性につき、監査役の専門分野に関する知見が必要となる場合もあろう。そのような場合は、取締役会前に意見交換することも有益だと思われる。ワタナベさんも、その職務を十全に果たすためには、監査役と積極的に意見交換することがむしろ望ましいといえるのではないだろうか。

 次回は、会社の不正会計問題に関連して、社外取締役が監査役会と協調することの可否、その方法について考えてみたい。

 

タイトルとURLをコピーしました