◇SH1548◇日本企業のための国際仲裁対策(第64回) 関戸 麦(2017/12/14)

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日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第64回 仲裁条項の作成(1)

1. 仲裁条項に関するルール

(1) はじめに

 今回から、本連載の最後のテーマである、仲裁条項について解説する。仲裁条項とは、紛争解決手続として仲裁手続を指定する、契約書類の条項である。本連載の第3回の5項で述べたとおり、仲裁手続は、仲裁合意なくして存在しえないところ、仲裁条項は仲裁合意の一形式である。但し、一形式とはいっても、実務上大半の仲裁合意は仲裁条項の形式をとることから、本連載では仲裁合意の作成方法として、仲裁条項に焦点を当てることとする。

 最初に仲裁条項に関するルールにつき解説した上で、その後仲裁条項を作成する上での留意点について詳しく解説する。

(2) 準拠法

 仲裁条項に関するルールとしては、これが有効となるための「要件」と、有効となった場合の「効果」があるところ、これらがいかなる準拠法により定まるかがまず問題となる。

 国際仲裁に関する準拠法としては、①実体面(申立人の請求権の有無)の準拠法と、②手続面の準拠法とがあるところ、②については、(ⅰ) 仲裁手続の準拠法と、これとは別に(ⅱ) 仲裁合意ないし仲裁条項の準拠法がある。(ⅰ) 仲裁手続の準拠法は、仲裁地の仲裁法規であるのに対し、(ⅱ) 仲裁合意ないし仲裁条項の準拠法は、これとは別に定まる。このように準拠法といっても、複数あるため、どの準拠法を問題にするかを明確にする必要がある。

 (ⅱ) 仲裁合意ないし仲裁条項の準拠法がいかに定まるかであるが、複雑なことに場面ごとに異なる。すなわち、準拠法を決定するルールは、国毎に異なるため、どの国の手続で(ii)が問題になるかによって、ルールが異なってくる。例えば、日本の裁判手続で(ⅱ)が問題になる場合には、日本の「法の適用に関する通則法」によって定まることになる。

 この点に関しては、日本の著名な最高裁判決があるため、紹介する。

 

 最高裁平成9年9月4日判決(リング・リング・サーカス事件)[1]

 事案は、米国のサーカス団による、日本での興業に関するものである。この興業の失敗について、これを招致した日本企業が、当該サーカス団を有する米国企業の代表者個人に対して、手抜き公演をしたとして不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。

 当該日本企業と米国企業との間の興業契約においては仲裁条項が定められていたが、米国企業の代表者個人は、この興業契約の当事者ではなかった。もっとも、米国の連邦仲裁法が仲裁条項の準拠法となれば、米国代表者個人も仲裁条項の適用範囲に含まれ、同人に対する訴訟は認めらなかった。そこで、仲裁条項[2]の準拠法が、①米国法となるか、あるいは②日本法となるかが争われた(仮に、日本法が準拠法となれば、米国代表者個人は仲裁条項の適用範囲に含まれないため、同人に対する訴訟は許容されることになる)。

 なお、上記仲裁条項は、いわゆるクロス条項で、仲裁地が、日本企業が申し立てる場合にはニューヨーク市で、米国企業が申し立てる場合には東京と定められていた。

 最高裁は、仲裁条項の準拠法を米国法であると判断し、日本での訴訟を却下した下級審の判断を是認した。最高裁が示した理由の要点は、次のとおりであった。

  1. (ⅰ) 仲裁は、当事者間の合意を基礎とするから、仲裁条項の準拠法は、法例7条1項[3](合意一般につき適用される条項)により、第一次的には当事者の意思に従って定められるべきである。
  2. (ⅱ) 仲裁条項中で上記準拠法について明示の合意がされていない場合(当事者の意思が明示されていない場合)であっても、仲裁地に関する合意の有無やその内容、主たる契約の内容、その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められる場合(当事者の意思が黙示的に示されていると認められる場合)には、これによるべきである。
  3. (ⅲ) 日本企業が申し立てる仲裁については、ニューヨーク市が仲裁地と定められているから、ニューヨーク市に適用される法律をもって仲裁条項の準拠法とする旨の黙示の合意がされたものと認めるのが相当である。

 この最高裁判決を踏まえると、日本の手続で仲裁条項の準拠法が判断される場合には、基本的に当事者の合意によって定まることになり、仮に明示の合意がなくても、黙示の合意によって定まりうることになる。また、この黙示の合意を認定するに際しては、仲裁地が重要な意味を持つと考えられる。なお、この最高裁判決は、既に廃止された法例7条1項に依拠しているところ、これに代わる法の適用に関する通則法7条[4]は基本的に同内容であるから、この最高裁判決に基づく上記整理は、現在も妥当すると解される。

以 上



[1] 判例タイムズ969号(1998)138頁

[2] 但し、判決文では、仲裁条項を「仲裁契約」と表記している。

[3] 同項の文言は、「法律行為ノ成立及ヒ効力ニ付テハ当事者ノ意思ニ従ヒ其何レノ国ノ法律ニ依ルヘキカヲ定ム」というものであった。なお、「法例」は既に廃止され、「法の適用に関する通則法」に代わられている。

[4] 同条の文言は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」というものである。

 

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