◇SH1391◇ベトナム:退職手当の計算方法 澤山啓伍(2017/09/13)

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ベトナム:退職手当の計算方法

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 今回は、ベトナムで雇用した従業員に対する退職手当の支給、及びその計算方法について、Q&A形式で説明する。

  1. Q: 弊社では、今月末に退職する社員がいます。当該社員は、2012年1月1日から弊社での勤務を開始し、現在の労働契約は無期限となっていますが、今般家族の事情で自主的に退職することになりました。なお、去年6ヵ月の産休を取っています。弊社は、彼女に対して退職手当を支払う義務があると理解していますが、その金額はどのように計算したらよいのでしょうか?
     
  2. A: 1.  退職金の支払義務
    労働法第48条は、勤続12ヵ月以上の労働者が一定の事由で退職する場合に、雇用者が一定の退職金を支払うべき義務を定めています。本件の労働者の退職事由は、無期限の労働契約に基づいて勤務する労働者による労働契約の一方的解除(第37条3項)ですので、雇用者が退職金を支払う必要がある場合に該当します(第36条9項、第48条1項)。
    この場合、退職金は、以下の計算式により計算されます(第48条1項)。

     退職金の金額=当該労働者の「勤続年数」 X 当該労働者の「平均賃金」の半月分

    問題は、この計算式における「勤続年数」及び「平均賃金」をどのように計算するか、という点にあります。

     2.「勤続年数」の計算方法
    「勤続年数」は、単純に考えれば「2012年1月1日から退職時点までの期間の年数」ということになりそうですが、労働法では、当該年数について以下のように定めています(第48条2項)。

     「勤続年数」=(「実際の勤務期間」 - 「失業保険の加入期間」 - 「既に退職金を受け取った期間」)の年数

    このうち、「実際の勤務期間」には、実際に勤務を行った期間に加えて、試用期間、職務のための研修・職業訓練、雇用者から任命されて参加する研修、社会保険法の規定に基づく休暇、労働法に基づく週休及び有給休暇、労働組合についての法令に基づく労働組合活動のための休業、労働者側に原因のない休業、業務の一時中断による休業、逮捕・拘留による休業で、国家機関により無罪であるとの結論が出されて職場に復帰した場合の期間を含むとされています(政令05/2015/ND-CP号(以下、「政令05号」という。)第14条3項a号)。

    次に、「失業保険の加入期間」は、「実際の勤務期間」から控除されます。これには、雇用者が法律に従い失業保険の保険料の払い込みをしていた期間、及び雇用者が労働者に失業保険の保険料に相当する額を給与に上乗せして支給していた期間が含まれます(政令05号第14条3項b号)。失業保険制度は、2009年1月1日から導入され、当時は、失業保険の強制加入対象者は、無期限の労働契約又は12ヵ月以上の有期限労働契約に基づき勤務するベトナム人労働者のみとされ、また、強制加入対象者となる雇用者は、労働者を10人以上雇用している雇用者のみとされていました(2006年社会保険法第2条3項、4項)。この制度は2013年に成立した職業法により改正され、2015年1月1日からは、無期限の労働契約又は3ヵ月以上の有期労働契約に基づいて勤務する労働者全員が、失業保険の強制加入対象となり、雇用者は、雇用している労働者の人数にかかわらず強制加入対象となりました(2013年職業法第43条1項)。また、労働法第186条3項に基づき、雇用者は失業保険の対象外である労働者に対して、失業保険の保険料に相当する額を、加算して支払う義務があるとされています。
    したがって、具体的な計算においては、貴社における失業保険の保険料の払い込み、及び加算した支払の有無をご確認いただく必要があります。少なくとも2015年1月1日以降は、失業保険の保険料を支払っている可能性が高いと思われますので、そうであれば、その期間は「勤続年数」から除外されることになります。
    また、「既に退職金を受け取った期間」については、具体的な説明は政令05号にはありませんが、一度労働契約を終了し、それ以前の期間について退職金を支払い済みである場合や、労使の合意により労働契約の途中で過去の期間について退職金の支払を行ったような場合には、この規定により、退職時に、退職金を支払い済みである期間分について、再度退職金を支払う必要は生じない、ということを意味しているものと思われます。
    なお、上記計算式により計算された期間に1年未満の端数が生じた場合には、以下のように計算されます。

     端数が1ヵ月未満の場合:0
     端数が1ヵ月以上6ヵ月未満の場合:0.5年
     端数が6ヵ月以上の場合:1年

    3.  産休期間がある場合の取り扱い
    上記の計算において、よく問題になるのは、失業保険の加入期間中に、労働者が産休を取得している場合です。この場合、産休は、社会保険法の規定に基づく休暇の一種です(社会保険法第4条1項)ので、「実際の勤務期間」に含まれます。他方、産休期間中は、雇用者及び労働者は失業保険の保険料を支払う義務を負いません(ベトナム社会保険局決定595/QD-BHXH号第38条1項8号)。したがって、上記の計算式に当てはめると、産休期間は、「勤続年数」に算入されますので、雇用者は労働者に対してその期間に応じた退職金を支払う必要があります。

    4. 「平均賃金」の計算方法
    退職金の金額の計算は、当該労働者の「勤続年数」に、当該労働者の「平均賃金」の半月分を乗じることにより算出されますが、この「平均賃金」は、労働者が退職する直前の連続6ヵ月の労働契約における平均賃金であるとされています。したがって、2012年に勤務を開始し、当時は賃金レベルが低かったような労働者でも、退職時点で昇給していれば、その時点での賃金額を前提に計算を行う必要があります。さらに言えば、古株の労働者が今後勤務を続けて行っても、失業保険に加入しているため「勤続年数」は原則として伸びませんが、「平均賃金」は上昇するため、最終的な支払金額はどんどん上昇していくことになります。但し、定年退職の場合(第187条の定年後の年金の支給を受けることができる場合)は、退職金の支払義務は発生しません(第48条1項)。

    5.  結論
    以上により、本件で、2014年末まで失業保険の保険料が支払われていなかったと仮定すると、支払うべき保険料は、以下の計算により勤続年数を4年間として計算した金額となります。

「勤続年数」 2012年1月から2017年8月までの5年8ヵ月 失業保険加入期間である2015年1月から2017年8月より産休期間6ヵ月を除いた2年2ヵ月
3年6ヵ月(端数調整前)
4年間


 

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