◇SH1894◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(77)―企業グループのコンプライアンス⑩ 岩倉秀雄(2018/06/08)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(77)

―企業グループのコンプライアンス⑩―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、グループ全体のコンプライアンス推進体制とコンプライアンス人事評価について述べた。

 企業グループ全体のコンプライアンス推進体制は、親会社と子会社で構成するコンプライアンス委員会のようなグループ全体の推進組織の他に、親会社の部や事業部、工場、子会社等、(形は様々だが)現場レベルのコンプライアンス推進組織を設置して、企業グループ内の隅々まで推進体制を構築する必要がある。そして、親会社の経営レベルのコンプライアンス方針や重点活動計画と整合性のある現場(子会社)レベルのコンプライアンス方針と重点活動計画を、現場(子会社)が主体的に策定・実行することが重要である。

 また、グループ全体の人事評価にコンプライアンスの取組みを導入することは、組織がコンプライアンス重視の組織文化を形成する意思を示すことになり、コンプライアンスの徹底に役立つ。

 今回は、企業グループのコンプライアンス研修について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑩:企業グループのコンプライアンス研修】

1. 企業グループのコンプライアンス研修

 組織内にコンプライアンスを浸透・定着させるためには、研修は不可欠である。

 研修対象は、親会社のコンプライアンス部門が主導して親会社の役員・経営幹部・従業員に対して研修を施する場合、親会社が子会社に実施する場合、子会社が自主的に実施する場合、親会社の人事部門の階層別研修をコンプライアンス部門が活用する場合等、様々である。

 研修の目的・タイミングとしては、例えば従業員相談窓口が設定された場合のようにコンプライアンスに関する特別な仕組みが設定された場合に仕組みの理解・徹底を図るために実施する場合や、従業員相談窓口に相談された内容が全社的な研修を必要とする場合、法や社内規定の改正があり、その周知徹底が必要な場合、特定の場所でコンプライアンス問題が発生し、(その場所の責任者と協議・相談しながら)問題解決のために問題発生場所に出向いて何度も集中的に研修を実施する場合等、がある。

 研修の目的が様々であったとしても、筆者の経験では、本社に呼んでの集合研修よりも、現地に出向いての出張研修の方が有効である。

 なぜならば、現場や子会社のコンプライアンスリーダーに集合研修を実施したとしても、そのリーダーから現場や子会社の全員に適切に内容が伝えられるとは限らないからである。

 極端な場合には、コンプライアンスリーダーが現場に戻ってコンプライアンス研修を報告し徹底しようとしても、その上の部署長や子会社の経営トップがコンプライアンスを軽視している場合には、研修内容を報告する機会すら与えられない場合も想定される。

 グループ企業のコンプライアンスで注意しなければならないのは、この点である。

 したがって、筆者は、たとえ時間と経費がかかったとしても、コンプライアンス部門は現場に出向いて研修を行うことを基本とするべきであると考える。

 現場に出向くことにより、直接コンプライアンス部門から現場の一人一人にコンプライアンスの重要性を訴えることができるとともに、研修出席者との質疑応答を通してコンプライアンスへの理解・浸透が進むのである。また、現場に出向くことにより、各職場の研修受講態度や雰囲気を通して、コンプライアンスに対する職場の理解と認識の程度を知ることができる。

 時にはコンプライアンス上の問題を、現場のコンプライアンス責任者やリーダーから相談を受ける場合もある。

 その場合には、親身に相談に乗ることにより、当該問題の解決に役立つばかりではなく、コンプライアンス部門と現場のコミュニケーションを円滑化し、信頼感の醸成にも役立つのである。

 コンプライアンス部門の要員が不足する場合や専門知識の面で不安がある場合には、法の専門家の顧問弁護士等の協力を得て分担して進めることも考えられる。

 コンプライアンス研修終了時には、アンケートを実施して研修出席者の知りたいことや研修者の意図の伝わり具合を把握して、次回研修に活用する必要がある。

 また、一方的な講義では飽きられやすいので、出席者のレベルや研修の目的により研修出席者に質問をする場合やグループディスカッションを取り入れる場合も有効である。

 研修への出席率を高めるためには、必ず出欠をとり人事評価に反映することや、出席できない者に対しては、管理職が別途補講を実施する、複数回に分けて研修を実施する等の方法がある。

 講師は、コンプライアンス部門の担当者が実施する場合の他に、経営トップや幹部社員への研修の場合には、専門家や学者・弁護士等の有識者に依頼する外部による研修が、社会の認識やものの捉え方を経営幹部に直接伝え、刺激を提供する上で効果的である。

 親会社がグループの子会社に研修を実施する場合には、あらかじめ子会社のコンプライアンス担当役員や担当部署と打ち合わせを行い、ニーズを確認してこれに合った研修テキストを作成し、その子会社の実情を踏まえた研修を行わなければならない。

 子会社が自組織に研修を実施する場合には、親会社のコンプライアンス担当部署は相談に乗り、情報提供や講師紹介などの様々な支援を実施すれば、親会社と子会社のコンプライアンス部門間の信頼関係が密になりコミュニケーションも活発化し、親会社の情報・専門性や一体化のパワーが強化される。

 次回は、企業グループのコンプライアンスアンケートについて考察する。

 

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