◇SH1899◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(78)―企業グループのコンプライアンス⑪ 岩倉秀雄(2018/06/12)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(78)

―企業グループのコンプライアンス⑪―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループのコンプライアンス研修について述べた。

 組織内にコンプライアンスを浸透・定着させるために、研修は必要不可欠である。

 研修は、階層別研修の他に、コンプライアンスに関する特別な仕組みが設定された場合、従業員相談窓口に相談された内容が全社的な研修を必要とする場合、法や社内規定の改正を周知徹底する場合、特定の場所でコンプライアンス問題が発生し、問題解決のために問題発生場所で集中的に研修を実施する場合等、様々なケースがあるが、筆者の経験では、本社に呼んでの集合研修よりも現場に出向いての研修の方がはるかに有効である。

 なお、子会社の研修に親会社のコンプライアンス部門が積極的に相談に乗ることは、コンプライアンス部門間の信頼関係が密になり、親会社の情報・専門性や一体化のパワーを強化する上で役立つ。

 今回は、企業グループのコンプライアンス・アンケートについて考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑪:企業グループのコンプライアンス・アンケート】

 企業グループ全体に対してコンプライアンス・アンケートを実施することは、企業グループ全体におけるコンプライアンスの浸透・定着状況を把握し改善する上で、きわめて重要かつ有効である。

 それは、今現場で発生しているコンプライアンス上の問題を検知し迅速に対応する上でも、従業員相談窓口とともに効果がある。

 今回は、企業グループのコンプライアンス・アンケートを実施する場合の留意点について、筆者の経験を踏まえて考察する。

6. コンプライアンス・アンケートの実施

 コンプライアンス・アンケートは、無記名で行い、その末尾に自由記入欄を設け、密封して現場のコンプライアンス実行組織ごと(事業部、工場、支店、子会社単位など各社の実情に沿ったコンプライアンス実行組織単位を設定する)にまとめて集め、コンプライアンス部門で集約する。 

 無記名なので従業員の本音を引き出しやすく、密封して現場の実行組織単位に集約するので、コンプライアンス部門は現場の実行組織ごとにコンプライアンスの浸透・定着の実態を把握できる。

 また、その結果を企業グループ全体とコンプライアンス実行組織単位でまとめて、経年変化を確認し、経営者と現場の実行組織の長にフィードバックするとともに、必要により主体的な対応を求める。

 このことにより、経営者も現場の実行組織の長もグループ全体と実行組織ごとの実態を比較・確認できる。

 特に、現場の長には、自らの責任部署の実態を把握し他部署と比較することにより、自分ではコンプライアンスに注力しているつもりであっても、アンケート結果がコミュニケーションやコンプライアンスの浸透が不十分であることを伝えている場合には、これまでのやり方を改善する必要性を認識させやすい。

 コンプライアンス部門にとっては、コンプライアンス実行組織ごとにコンプライアンスの浸透・定着状況を把握できるので、コンプライアンスの取り組みが十分に行われていない現場に対して改善を指示しやすい。

 コンプライアンス人事評価では、評価の根拠となる。

 また、アンケートは、企業グループ全体及びコンプライアンス活動単位ごとに把握することにより、グループ全社及びコンプライアンス活動単位ごとの重点活動項目の設定に役立つ。

 アンケート項目は、固定して経時変化を追う項目の他に、社会環境の変化に合わせてコンプライアンス上チェックするべき項目を新たに取り入れる必要がある。

 前述したように、自由記入欄にパワ・ハラ、セク・ハラ、不正の告発等、コンプライアンス違反を知らせる内容が記されることがあり、その場合には、コンプライアンス違反が発生している特定の職場を検知し改善するのにも役立つ。

 そのような職場が検知された場合には、担当役員やコンプライアンス部門はそれを放置せず、コンプライアンス実行組織の長と連絡を取り協議・連携して、迅速に対策を実施しなければならない。  

 それは、例えば教育現場で、アンケート等で「いじめ」の存在を把握しながら、教師や学校が対応せず、子供の自殺につながったことが社会問題になったのと同様に、企業グループにおいても、職場のコンプライアンス違反を把握しながら迅速に対応せず不祥事が発生すれば、社会的信用を失うことになるからである。

 コンプライアンス部門が、手が回らないとして自由記入欄の回収・分析・対応を怠たり、あるいはアンケートの集計結果を機械的に整理し経年変化を追うだけでは、アンケートを有効に活用していることにはならず、アンケートは意味のない自己満足で終わる。[1]

 アンケート結果を踏まえた改善のための責任を持った行動が重要であり、大規模な企業グループのコンプライアンスの推進においては、この点に特に気を付けなければならない。

 なお、後述するが、コンプライアンス・アンケートの結果は、内部監査部門や監査役とも共有し、各部署や子会社の監査にも活用するべきである。

 次回は、グループ企業全体の従業員相談窓口について考察する。



[1] 最悪の場合には、アンケート結果が厳しい内容を示していることに耐え切れず、「経営判断でリスクを背負うことにした」としてアンケートの実施そのものを取りやめる場合があるが(現実にはそのような場合がある)、その結果グループ企業で不祥事が発生した場合には、経営者の善管注意義務が問われることになる。

 

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