◇SH1901◇社外取締役になる前に読む話(25・完) 結語に代えて――この半年間の新たな動き 渡邊 肇(2018/06/13)

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社外取締役になる前に読む話(25・完)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XXV 結語に代えて――この半年間の新たな動き

 これまでおよそ半年間にわたり、社外取締役の職務の範囲と責任について、様々な局面の問題を題材にして検討してきた。

 この半年の間にも、企業の社外取締役導入の動きは益々加速しているように思える。つい先日も、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループが取締役の過半数を社外取締役とする旨を取締役会で決議したとの報道がなされたところでもある。

 またこの半年間、これまで推進されてきたコーポレートガバナンス強化の流れにも新たな動きがある。

 連載開始時点までの流れを復習してみよう。

 コーポレートガバナンス強化の潮流の根底には、「企業経営の目的は『企業価値の最大化』であり、取締役は、この目的達成のために投資家である株主から経営を委託されている」との基本理念がある。更に、ここで言われる「企業価値」とは、端的に言えば、投資家にとっての企業価値である。従い、今日の取締役に求められているのは、投資対象としての企業価値を最大化させるために職務を行うことである。実際、多くの企業も、この潮流を敏感に察知し、例えば株主に対し、積極的にROE(「Return on Equity」、自己資本比率であり、当期純利益÷自己資本×100で算出される。)を開示するようになっている。株主の投資効率を上げることが経営の究極の目的であることが、日本企業においても徐々に認識されるようになってきているということであろう(因みに、この「投資家にとっての企業価値の最大化」を経営の目的とすることについての当否をここで論じるつもりはない。しかしながら、このような考え方が、多くの日本企業の経営者に対し、一定の意識変革を要求するものであることは疑いようのない事実であろうと思われる。)。

 こうした中、昨年6月に公表された「未来投資戦略2017」を受けて本年3月に開催された「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」を発表し、東京証券取引所に対し、コーポレートガバナンス・コードの改訂を提言した。これを受け、東京証券取引所では本年3月30日、「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」を公表し、パブリックコメントを受けた上で、コーポレートガバナンス・コードの改訂版を本年6月までに確定し、実施するとしている。

 本改訂案は、経営者に対し、経営戦略の策定にあたり、自社の資本コストを的確に把握した上で経営資源の配分を行うように求めるなど、上記「投資家にとっての企業価値」の最大化の追求を更に具体的に求める等の内容を含むが、社外取締役が重要な役割を担う部分にもドラスティックな改訂が加えられている。

 すなわち改訂版は、会社のCEO(Chief Executive Officer、「最高経営責任者」等と訳される。)につき、「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。」(補充原則4-3②)、「取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。」((補充原則4-3③)と記載し、会社にとってのCEOの重要性に鑑み、資質のあるものが選任される手続のみならず、資質のないものを解任する手続も明確に定めるように要求しているのであるが、このCEO(我が国企業においては代表取締役がこれに該当する)を含む取締役の選解任に関し、社外取締役が極めて重要な役割を担うことは、第20回において解説したとおりである。すなわち、社内の取締役にとって、社内人事ヒエラルキーのトップに立ち、取締役人事権を掌握する代表取締役に誰を選任するかという問題を客観的見地で議論し、決定するということ自体、非常に困難であることは想像に難くない。更にその解任問題となれば尚更のことである。選解任手続につき、「客観性・適時性・透明性ある手続を確立」するとは、正しく代表取締役からその取締役人事権を実質的に剥奪するに等しく、それ自体に困難が予想されるが、仮にかかる手続が確立したとしても、その具体的運用という面では、様々な障害が発生することが予想される。

 これを主導的に推進できるのが、まさしく社外取締役である。

 紙面も尽きてきたので、残念ながらこの点をこれ以上詳細に議論することはできないが、このコーポレートガバナンス・コード改訂案の要請を達成するために、社外取締役が具体的にどのように動いたら良いのか、その点は会社によっても異なるであろう。最終的には個々の社外取締役の力量と手腕に委ねられていると申し上げるに留める。

 これまで観てきたように、我が国企業における社外取締役の導入は、その緒に就いたばかりであり、社外取締役を迎え入れた会社側も、その設置の目的や職務の範囲について正確に理解、認識していない面があることは否定できない。加えて、社外取締役が負担する責任の範囲、程度は、その他の取締役と何ら変わりがないことも、これまで繰り返し申し上げてきたとおりである。このような状況下で、コーポレートガバナンスの最前線は、社外取締役に対し、極めて重い職責を課そうとしているのである。

 社外取締役を名誉職のようなものと考え、著名企業の社外取締役に就任するために自分を売り込むような方々もおられると聞く。また、そのような人と会社をつなぐための紹介サイトのようなものまで存在している。実際、いわゆる有名人や、著名な経済人が多く社外取締役に就任し、それら有名人を間近に観たいという動機で株主総会に出席する株主もいるという現状では、それも当然なのかもしれない。

 しかしながら、本連載をお読みくださった読者の皆様は、社外取締役という役職は、決して「ただ取締役会にご出席頂ければ結構ですので・・・」という類いの簡単な仕事ではないことが良くおわかり頂けたのではないかと思う。本連載が、これから社外取締役に就任しようとされている方々や、現在社外取締役でおられる方々の職務の遂行に少しでもお役に立つことができたのであれば、それは筆者にとっても望外の幸せというものである。

 最後に、これまで本連載をお読みくださった読者の皆様及び、株式会社商事法務の石川様、佐藤様に篤く御礼申し上げる。

(完)

 

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