◇SH0935◇メキシコの不動産制度とエネルギー事業のための活用手法(2) 松平定之/フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス(2016/12/19)

未分類

メキシコの不動産制度とエネルギー事業(石油ガス・電力)のための活用手法(2)

西村あさひ法律事務所

弁護士・ニューヨーク州弁護士 松 平 定 之

メキシコ弁護士 フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス

 

3 エネルギー事業を目的とする不動産利用に関する協議等の手続き

(1) はじめに

 2013年の憲法改正は、石油ガスの生産及び電力サービスの提供が国家の優先課題であり、土地・土壌を利用するその他の事業(鉱業を含む)よりも基本的に優先することを明らかにした。そして、炭化水素法(LH)及び電力事業法(LIE)は、石油ガスの探査・採掘又は発電・送電・配電に関する許認可等を有する事業者が、事業活動を行う予定の土地(私有地、エヒード及び共同体不動産の3つの類型のいずれか)の所有者と協議し、利用するための法的な手続きを定めている。以下、当該手続きの内容について説明する。

 なお、石油ガス事業又は電力事業に関して企業が取得する必要のある許認可等については、事業の内容によりエネルギー省、エネルギー規制委員会又は国家炭化水素委員会により付与される認可、許可、ライセンス又は契約と様々であるが、本稿においてはこれらを「許認可等」と総称し、また、これらの許認可等を付与された事業者を「コントラクター」と総称する。

 以下に説明する手続きを進めるにあたっては、エヒード又は共同体不動産の構成員は多くの場合において先住民族に起源を有する農業従事者であり、社会の発展と切り離された社会的弱者であることを念頭に置くことが重要である。これらの人々は、「独立国における先住民族及び種族民に関する条約」(国際労働機関(ILO)169号条約)の保護対象であり、メキシコ政府もその土地、労働、文化、環境を守るための措置を講ずることが求められる。炭化水素法及び電力事業法に基づき、エネルギー省は、プロジェクトを実施する地域の社会的弱者に関する調査を実施し、その権利を守るために必要な措置を講ずる。プロジェクトを計画する事業者も、事業の社会的影響とそれを低減させるための手段に関する調査を実施しなければならない。エネルギー分野のプロジェクト期間が多くの場合に20年から25年の長期であることも考慮し、事業者は地元のコミュニティにプロジェクトの内容と影響を適切に説明することを通じてその理解・受入れを図ることが重要である。

 また、コントラクターは、以下に述べる手続きに際し、濫用的、差別的な行為を行ってはならず、かつ、土地の所有者の決定に不適切又は正当化できない影響を及ぼす行為を行ってはならない。そのような行為は政府から付与された許認可等の取消事由ともなりうる。

(2) 不動産利用のための協議等手続き

 コントラクターは、所管の行政機関から許認可等を付与されれば、土地の所有者に対し、当該土地の利用の希望を書面で通知することになる。コントラクターは、土地の所有者に対し、事業の計画・内容等を説明し、対象となる土地の所有者の全ての質問に回答する必要がある。また、コントラクターは、エネルギー省及び農地土地都市開発省(SEDATU)に協議の開始を通知しなければならない。これらの省は協議のプロセスを検証・評価する。

 コントラクターは、土地の利用に関し、賃貸借、任意地役権、一時的占有、売買又は交換など、法令と矛盾しない契約を用いることが可能である。

 対象となる土地が個人又は法人により所有されている場合(すなわち私有地である場合)には、土地所有者との間で協議を自由に実施し、合意することができる。

 他方、対象となる土地がエヒード又は共同体不動産である場合には、契約の締結には共同体総会の承認が必要となる。通常、土地利用契約に関する共同体総会の承認は構成員の過半数が出席し、出席者の過半数が賛成すれば足りるが、石油ガス及び電力事業のための土地利用契約については、炭化水素法及び電力事業法により、より厳格な手続き規制が課されており、構成員の4分の3以上が出席し、出席者の3分の2以上の賛成が必要とされる。また、共同体総会の招集手続き等について、農業法の手続きの遵守も必要となる。承認を求める契約については、共同体総会においてエヒード構成員に対しその詳細が説明される必要があり、コントラクターとしても、共同体総会が事業活動の範囲と想定される結果、並びに期待されるメリットについて正確に報告を受け理解していることを確認する必要がある。さらに、共同体総会の承認手続きについては農業法務局及び公証人によって確認が行われる。農業法務局はより早い段階からこのプロセスに関与しエヒード等の構成員に法的な助言を行うことも多い。

 土地の利用に関する補償額を算定するには、許認可等に基づき行われる事業の内容やコントラクターによる土地利用の形態を考慮する必要がある。当該補償は、土地の利用に関する賃料及びプロジェクトの結果生ずる損失・損害(不動産の通常の利用を元に算定)を含む。国家財産管理査定庁(INDAABIN)は、土地の状況・性質に基づきその利用・購入に関する評価基準を策定しており、当該評価基準は、当事者の協議の基礎として用いられる。また、当事者は、一定の資格のある金融機関又は専門家による評価の実施に合意することもできる。当該評価に関して生じた費用は、コントラクターが負担する。補償の方法については、法令に反しない限り、金銭の支払い、共同体のための開発プログラムの実施又はそれらの組合せなどの手法を選択することが可能である。

 石油ガスの商業生産に関するプロジェクトについては、補償額は、メキシコ石油安定開発ファンドへの支払いを控除した上で、当該プロジェクトのコントラクターに帰属する収益の一定割合を含む。当該割合は、非随伴天然ガスの場合には0.5%以上3%以下であり、その他の場合には0.5%以上2%以下である。

 エネルギー事業のための土地利用に関する契約は、エネルギー省の作成したモデルに基づき作成され、対象となる土地の範囲、契約締結に至る当事者の意思、土地の利用に関する対価の金額及び支払方法、並びに事業開発スキームに関する事項等が定められる。当事者間で契約が成立した場合、当該契約は管轄の地方民事裁判官(私有地の場合)又は中央農業裁判所(エヒード及び共同体不動産の場合)に提出されなければならない。これらの機関は、炭化水素法又は電力事業法や農業法に定められる手続き・方式が遵守されたかを確認し、コントラクターの費用で地方新聞及び必要な場合には対象となる不動産の分かりやすい場所において合意の概要を公表する。

(3) 合意が成立しない場合の手続き

 エネルギー省等への協議開始の通知から180日以内に当事者間で合意が成立しない場合、コントラクターはSEDATUの調停を求めるか、又は管轄ある地方民事裁判官(私有地の場合)若しくは中央農業裁判所(エヒード又は共同体不動産の場合)に対し法定地役権の設定を求めることができる。調停手続きにおいて、SEDATUは、両当事者に受入可能な内容を考慮しつつ、土地所有者への補償額を提案する。もし補償額の提案から30日以内に合意に達しない場合には、エネルギー省は法定地役権の設定を命ずることができる。なお、以上の手続きの期間中、当事者はいつでも別段の合意をすることができる。

 法定地役権(servidumbre legal)とは、不動産を所有することなく使用し又は立ち入る権利である。法定地役権の設定により、インフラの建設や保守、プロジェクトの建設工事、及びプロジェクトの実行のための人の立入り、建築資材、車両、物品の搬入及び保管が可能となり、エネルギー事業の実施が可能となる。

(4) 事業終了時の対応

 土地利用に関する契約に基づく事業活動が終了した場合、コントラクターは設備を解体し、利用した土地を原状回復するとともに、事業の結果として生じた損害及び損失のうち、合意されていた補償で予見されなかったものを補填しなければならない。

 

4 結語

 2013年の憲法改正及びその後の関連法令の制定はエネルギー事業に取り組む企業に大きな事業機会を与えるものであるが、いうまでもなく、具体的な取組みにあたっては、メキシコ特有の社会的諸要素を考慮し、プロジェクト期間を通じて必要となるコストを予めできる限り正確に評価することが非常に重要である。本稿で説明した手続きの適正な活用が、メキシコにおけるエネルギー・プロジェクトの円滑な実施に寄与することが期待される。

以上

 

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

タイトルとURLをコピーしました