メキシコの不動産制度とエネルギー事業
(石油ガス・電力)のための活用手法(2)
西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士 松 平 定 之
メキシコ弁護士 フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス
3 エネルギー事業を目的とする不動産利用に関する協議等の手続き
⑴ はじめに
2013年の憲法改正は、石油ガスの生産及び電力サービスの提供が国家の優先課題であり、土地・土壌を利用するその他の事業(鉱業を含む)よりも基本的に優先することを明らかにした。そして、炭化水素法(LH)及び電力事業法(LIE)は、石油ガスの探査・採掘又は発電・送電・配電に関する許認可等を有する事業者が、事業活動を行う予定の土地(私有地、エヒード及び共同体不動産の3つの類型のいずれか)の所有者と協議し、利用するための法的な手続きを定めている。以下、当該手続きの内容について説明する。
なお、石油ガス事業又は電力事業に関して企業が取得する必要のある許認可等については、事業の内容によりエネルギー省、エネルギー規制委員会又は国家炭化水素委員会により付与される認可、許可、ライセンス又は契約と様々であるが、本稿においてはこれらを「許認可等」と総称し、また、これらの許認可等を付与された事業者を「コントラクター」と総称する。
以下に説明する手続きを進めるにあたっては、エヒード又は共同体不動産の構成員は多くの場合において先住民族に起源を有する農業従事者であり、社会の発展と切り離された社会的弱者であることを念頭に置くことが重要である。これらの人々は、「独立国における先住民族及び種族民に関する条約」(国際労働機関(ILO)169号条約)の保護対象であり、メキシコ政府もその土地、労働、文化、環境を守るための措置を講ずることが求められる。炭化水素法及び電力事業法に基づき、エネルギー省は、プロジェクトを実施する地域の社会的弱者に関する調査を実施し、その権利を守るために必要な措置を講ずる。プロジェクトを計画する事業者も、事業の社会的影響とそれを低減させるための手段に関する調査を実施しなければならない。エネルギー分野のプロジェクト期間が多くの場合に20年から25年の長期であることも考慮し、事業者は地元のコミュニティにプロジェクトの内容と影響を適切に説明することを通じてその理解・受入れを図ることが重要である。
また、コントラクターは、以下に述べる手続きに際し、濫用的、差別的な行為を行ってはならず、かつ、土地の所有者の決定に不適切又は正当化できない影響を及ぼす行為を行ってはならない。そのような行為は政府から付与された許認可等の取消事由ともなりうる。
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