◇SH1924◇実学・企業法務(第149回)法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車 齋藤憲道(2018/06/25)

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実学・企業法務(第149回)

法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅲ〕自動車

6. 自動車業界全体の主な取り組みテーマ

(3) 「自動運転」と「安全確保、事故責任」の検討

1. 自動化のレベルに応じた安全と責任

 SAE[1](SAEJ3016)では自動車走行のレベルを次の6段階(0~5)に分けている[2]

  1.  (注) ※は、安全運転に係る監視・対応の主体
     

 SAEレベル0(運転自動化なし) ※運転者

  運転者が全ての運転タスクを実施
 

 SAEレベル1(運転支援)    ※運転者

  システムが前後・左右のいずれかの車両制限に係る運転タスクのサブタスクを実施
 

 SAEレベル2(部分運転自動化) ※運転者

  システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施

 

〔SAEレベル3~4では、自動運転システムが全ての運転タスクを実施〕

 SAEレベル3(条件付運転自動化)※システム(フォールバック[3]中は運転者)

  システムが全ての運転タスクを実施(領域[4]限定的)

  システムの介入要求等に対して、予備対応時利用者は、適切に応答することを期待
 

 SAEレベル4(高度運転自動化) ※システム

  システムが全ての運転タスクを実施(領域限定的)

  予備対応時において、利用者が応答することは期待されない。
 

 SAEレベル5(完全運転自動化) ※システム

  システムが全ての運転タスクを実施(領域限定的ではない)

  予備対応時において、利用者が応答することは期待されない。
 

 現在、日本では、レベル2~4を中心とする検討が進んでいる。

 

2. 今後の検討事項(例)

  1. ① 完全自動化に近くなれば、「運転者責任」より「システム責任」のウェイトが大きくなる。
  2. ② 責任分担の在り方について、自動車メーカーだけでなく、システム提供者、道路管理者、自動運転自動車の利用者、一般国民(歩行者等)を含む広範なコンセンサスの形成が必要。
    最初から完全なシステムはないが、可能な限り被害者を少なくして運用を開始したい。
  3. ③ 関係する法令として、次の例が考えられる。

  A. 道路の整備

  1. ・ 道路法、道路構造令(道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定める。)
  2. ・ 高速自動車国道法、道路整備特別措置法
  3. ・ 道路交通法(自動車の定義と種類、車両・歩行者の交通方法(横断歩道、信号機、道路標識、道路標示等)、運転者の義務、運転免許、行政処分、罰則等を定める。)
     

  B. 自動車の技術基準、規制

  1. ・ 道路運送車両法(自動車の保安基準の定め方、リコール制度のあり方)
     

  C. 道路を利用して行う事業

  1. ・ 道路運送法(旅客・貨物の運送や自動車道の安全・利益・利便を図る。)
  2. ・ 貨物自動車運送事業法(勧告、警告、自動車等の使用停止、事業停止、許可取消等)
  3. ・ 物流総合効率化法[5](国際物流基幹ネット等の社会資本整備の進展と連携して、物流拠点施設の総合化と                流通業務の効率化を促進)
     

  D. 事故の責任と保険

  1. ・ 民法709条(不法行為による損害賠償)、715条(使用者等の責任)、自動車損害賠償保障法3条(自 動車損害賠償責任)
  2. ・ 製造物責任法(自動車単体とそれを制御するシステムの責任関係)
  3. ・ 民営道路の場合は民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
  4. ・ 国家賠償法2条(公の営造物の設置・管理の瑕疵に起因する他人の損害の賠償)
  5. ・ 事故に対する保険・共済のあり方(強制保険と任意保険、新たな種類の事故に対応)
  6. ※ ドローンを組み合わせたシステムを構築する場合は、その関係者の責任関係
     

  E. 罰則のあり方

  1. ・ 自動車運転死傷行為処罰法[6]
  2. ※ システム障害に関する責任

 


[1] Society of Automotive Engineers。欧州道路交通研究諮問委員会(ERTRAC)や米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)もこの定義を採用している。

[2] 2015年2月に経済産業省製造産業局長と国土交通省自動車局長の検討会として設置された「自動走行ビジネス検討会」が提示した「自動走行の実現に向けた取組方針(平成29年3月14日)」のレベルの定義を引用。

[3] システムの機能・性能の一部を停止させた状態で稼働を維持すること。システム障害発生時に、応急的に、機能を限定して運用する等。

[4] 「領域」は、地理的なものに限らず、環境、交通状況、速度、時間的な条件等を含む。

[5] 「物流業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」の略称。2016年に改正され、それまでの施設整備法から連携施策支援法が指向された。

[6] 「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の略称(2014年5月20日施行)

 

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