◇SH3525◇中国:輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(4) 若江 悠(2021/03/11)

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中国:輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(4)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

(承前)

II 信頼できないエンティティリスト規定

 2020年9月19日、「信頼できないエンティティリスト規定」(以下「UEL規定」という。「信頼できないエンティティリスト」を「UEL」という。)が中国国務院の承認を経て商務部により公布され、即日施行された。

 

 米国の「エンティティリスト」や日本の「外国ユーザーリスト」に相当するものとして、一定の事由に該当する輸入者とエンドユーザーを列挙する規制先リストの制度が輸出管理法において導入されたことは、I.4.(3)で述べたとおりである。これに対し、UELは、対象となったエンティティに対して、輸出管理に限らず、より広い範囲で中国国内における活動を規制することを内容とする規制である。2019年5月31日、商務部がUELの創設についての検討をすでに表明していたところであったが、2020年9月、UELを定める根拠となるUEL規定が制定された。UEL規定自体、要件や効果を抽象的にしか定めていない規定が多く、裁量的な運用が可能となっていない上、UELそのものも現時点では定められていない。今後の米国等による規制措置等を踏まえて当局による運用がされていくものと思われる。

 

 UEL規定は、UELの原則、担当部門、適用範囲、リスト掲載手続、リスト掲載基準、掲載後にとり得る措置及びリスト削除手続等を定め、計14条からなる。

 

 UEL制度の実施については、中央国家機関の各関連部門が参加して作業メカニズムが構築されるが、その中心となるのは商務部に設けられる作業メカニズム弁公室(以下「弁公室」という。)である。

 

1. 適用範囲

 外国エンティティ(外国企業、その他の組織又は個人を含む。)は、国際経済貿易及び関連活動において以下のような行為を行った場合、UELの対象となりうる(2条1項)。

  1. ① 中国の国家主権、安全、発展利益に危害を及ぼす行為
  2. ② 正常な市場取引の原則に違反し、中国企業、その他の組織若しくは個人との正常な取引を中断し、又は中国企業、その他の組織若しくは個人に対し差別的な措置を取り、中国企業、その他の組織若しくは個人の合法的な権益を著しく損なう行為

 文言上、上記①と②の各要件の関係は必ずしも明確ではないが、いずれかの要件が満たされていれば適用がありうると解され得るところである。

 

 外交部の2020年7月14日の声明によれば、米国軍事関連企業が、米国政府の台湾への武器供給取引に関与したことに対し、中国は制裁や必要な措置をとるとしている。また、同2020年10月26日の声明によれば、台湾への武器売却に関与した米国軍事関連企業3社や、これに重要な役割を果たした米国の個人等に対し制裁を実施するとのことである。これらの声明に対応して何らかの制裁が実施される場合には、UEL規定に基づき、①の要件にあたるものとしてUELに掲載され、制裁措置がとられることが予想される。

 

 他方、②としては、外国の輸出規制に関連して中国企業への部品供給を停止するような行為が該当する可能性がある。この点、供給契約上、政府規制を理由に供給停止が可能となっていた場合はどうか、米国BISなどの外国当局に対し輸出許可を申請したが商業的合理的な期間内に許可がおりなかった場合はどうか、許可の見込みがないため申請すらしなかった場合はどうか、など議論は分かれうる。

 

 このように、UEL規定の条文は曖昧であるため懸念を抱く外国企業も多い。他方、中国当局は、UEL規定の運用にあたって個別の外国エンティティの違法行為を認定して慎重に決定するので、市場ルールと契約精神を厳格に遵守する企業は心配する必要がないとしている。

(5)につづく

 


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(わかえ・ゆう)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。

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