◇SH0416◇銀行員30年、弁護士20年 第57回「社会人としてのマナーを守る」 浜中善彦(2015/09/04)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第57回 社会人としてのマナーを守る

弁護士 浜 中 善 彦

 

 銀行員であれ、弁護士であれ、社会人として重要なことは、社会人としてのマナーを守るということである。銀行員に限らないが、大手企業のサラリーマンは、新入社員研修として、まず、お辞儀の仕方、名刺の受け渡し等、社会人としてイロハのイからマナー研修がある。しかし、社会人としてのマナーはそれに尽きるものではないので、色々な機会を通じて、先輩や取引先の人を見て自ら覚えることになる。

 

 私は、30代半ば、仕事で出向先の外資系経営コンサルティング会社の社長と一緒にブラジルのサンパウロに出張したことがあった。その時、現地企業の社長から、社長と一緒に夕食の接待を受けた。その時の食事が何であったか記憶にないが、ホストである現地企業の社長が手でつまんで食べていたので、私も同じようにした。ところが、その晩ホテルに帰るとすぐ社長に呼ばれて、「君、手で食べたりしてはいかんな」と注意を受けた。私は、「相手の社長がそうしていたので真似をしました」と答えたが、そんなことではいかんといわれた。要するに、食事はナイフとフォークですべきだということであった。私が相手の真似をしたのは、以前父に、接待を受けたときのマナーについて訊いたとき、父は、「なに、楽しく食べればそれでいいんだ」としか言わなかった。しかし、それでは作法にならないので、その点について尋ねたところ、「相手の真似をすればそれでいい」ということだったからである。父は当時外国航路の船長として世界中を航海しており、それぞれの行き先の国で荷主の接待を受ける機会があったので訊いたのであった。社長からは注意を受けたが、私は、今でも父の方が正しいと思っている。

 

 このように、社会人としてのマナーといっても、必ずしも、きまりきった規則があるわけではないが、車に乗るときの順番やエレベーターへ乗るときの順番など、一応、きまったルールがある。弁護士会でも遅まきながら研修が取り入れられたが、弁護士に対する研修は倫理研修のほかは法律実務に関する専門研修がメインであり、社会人として必要なマナーについての研修はない。そのためもあってか、弁護士のマナーは、一流会社社員に比べると相当レベルが低いように思う。裁判修習でみた弁護士の証人尋問では、証人を見下したような物言いや、恫喝をするかのような弁護士が少なくなかった。きわめて下品であり、不愉快であった。これらは、社会人としてのマナー以前の人格の問題ではないかと思うが、いずれにせよ、相手の人格を無視したような言葉遣いや、上から目線の物言いは人格を疑われる。社会人としてのマナーを守るということは、円滑な人間関係の基礎をなすものである。

 

 銀行員はお金を媒介にして人間関係を扱うのが仕事であるが、弁護士は争いごとを媒介にして人間関係を扱う仕事である。銀行員と弁護士は一見全く異なった仕事のように理解されているが、私の中ではいずれも人間関係を扱う仕事という点では異なるところはない。そのため、社会人としてのマナーを守るということは、いずれの場合も仕事の基本である。弁護士には組織的な研修の機会がないため、ついその点がおろそかになりがちである。若い弁護士諸君は、いろいろな仕事を通して、クライアントから学ぶという謙虚な姿勢を忘れてはならない。司法試験に合格したということは、法的知識において一定の水準以上であるという証明にはなっても、それ以上のことはない。弁護士になったからといって急に偉くなったり、人格的に立派だということにはならないことを忘れないで欲しい。

以上

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