「仮想通貨」に関する法律案が成立
岩田合同法律事務所
弁護士 深 沢 篤 嗣
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平成28年5月25日、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が成立した。本法案の成立に対しては、同日、ブロックチェーン技術の社会インフラへの応用、政策提言等をその活動内容とする一般社団法人日本ブロックチェーン協会(以下「JBA」という。)が、これを歓迎し、本法案の定める「認定資金決済事業者協会」となることを目指す旨のコメントを公表しているところである。「ブロックチェーン」とは、仮想通貨等で用いられる、分散型のネットワーク技術であり、今後、仮想通貨に限られず、広く金融サービス等への利用が期待されている。
この法案は、情報通信技術の進展等に対応するため金融機関等への規制を改正するものであり多くの変更点が含まれているが、本稿では、その中でも「仮想通貨」に関する新たな法制につき解説を行う。
「仮想通貨」の代表格であるビットコインについては、その交換所を運営していた株式会社MTGOXが平成26年に破産手続開始決定を受け、同社の代表者が顧客からの預り資産の着服等の容疑で逮捕されたことは記憶に新しい。しかしながら、仮想通貨の取引量は年々増加しており、平成27年11月には、1日当たりの取引量は200億円相当にも上っている(下図「ビットコインの取引量の推移」参照)。
このような状況を踏まえ、本法案は、「仮想通貨」に関する法制度を整備し、利用者の信頼を確保するとともに、仮想通貨を利用したマネーロンダリングやテロ資金の供与を防止することを企図するものである。
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(1) 本法案で、仮想通貨に関する法制度を直接規定しているのは、資金決済に関する法律の改正法(以下「改正法」という。)である。同法は、いわゆるプリペイドカード(前払式支払手段)等の資金決済サービスに関する規制を行う法律であるが、これに「仮想通貨」(改正法2条5項)が新たに規定されることとなった。
改正法において「仮想通貨」は、
- ① 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の影響を受ける場合に、これらの対価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
- ② 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
と定義されている(同項1号、2号)。
(2) さらに、以下のいずれかを業として行うことは、「仮想通貨交換業」(同条7項)とされ、仮想通貨交換業を行うためには内閣総理大臣の登録を受ける必要があるとされた(同法63条の2)。
- ① 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
- ② 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
- ③ その行う前2号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること
そして「仮想通貨交換業」の登録を受けた「仮想通貨交換業者」(同法2条8項)には、以下のような義務が課される。
- ① 情報の安全管理のために必要な措置を講じること(同法63 条の8)
- ② 利用者への情報提供など利用者の保護を図り、業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じること(同法63 条の10 )
- ③ 利用者の財産を自己の財産と分別して管理し、その管理の状況について、定期に公認会計士又は監査法人の監査を受けること(同法63 条の11 )
- ④ 金融分野における裁判外紛争解決制度(いわゆる金融ADR 制度)を設けることとし、紛争解決機関との間で契約を締結すること(同法63 条の12)
また、仮想通貨交換業者は、帳簿書類の作成・保存義務(同法63条の13)や、事業年度毎の仮想通貨交換業に関する報告書の提出義務(同法63条の14)を負い、当局による立入検査等(同法63条の15)や、業務改善命令(同法63条の16)、業務停止命令・登録取消し(同法63条の17)等の行政処分の対象になるなど、当局の監督に服することとなる。
(3) JBAが認定を受けることを目指すと表明している「認定資金決済事業者協会」の規定は現行法にも前払式支払手段の発行者などに関して規定されているが、改正法においては、仮想通貨交換業者が設立した一般社団法人であって、仮想通貨交換業の適切な実施の確保を目的とすること等の要件に該当すると認められるものについても、法令遵守のための会員に対する指導等を行う「認定資金決済事業者協会」として認定することができるとされた(同法87条以下)。
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本法案には、犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正も含まれており、上述の「仮想通貨交換業者」は改正後の同法の「特定事業者」として定義されることとなった(同法2条2項31号)。これにより、「仮想通貨交換業者」も、同法に基づく取引時確認(同法4条)や確認記録、取引記録等の作成(同法6条、7条)、疑わしい取引の届出(同法8条)等の義務を負うこととなる。
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仮想通貨はIT、とりわけ「フィンテック」と呼ばれるITを活用した金融サービスの発展とあいまって利便性が高まっている反面、具体的法規制の存在しない現状においては不安定な面も否定できない。本法案の施行は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において制令で定める日とされているが、今後、適切な当局の監督のもと、安全で便利なサービスが拡大することが期待される。
以上