公取委、株式会社マイナビ及び株式会社マイナビ出版に対する勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 山 田 祐 大
1 はじめに
公正取引委員会は、平成30年6月21日、株式会社マイナビ及び株式会社マイナビ出版(以下、両会社を併せて「2社」という。)に対し、いわゆる消費税転嫁対策特別措置法[1](以下「特措法」という。)第3条第1号後段に規定される「買いたたき」行為をしたことにより、同法に違反したとして、同法第6条第1項の規定に基づく勧告(2社の役員・従業員に勧告内容を周知徹底すること、法令遵守へ向けた社内体制の整備をすること等を内容とするもの。)を行った。
2社は、同日、同勧告を真摯に受け止め法令遵守に努める等の声明を公表[2]したが、特措法違反の原因について同法の理解が充分でなかった旨の説明をしている。
本稿では、本事案の概要を説明しつつ、事業者が看過しがちな特措法の盲点を紹介したい。
2 本事案の概要
本事案を簡単に説明すると、2社は、原稿作成業務等のサービスの買い手であったところ、同サービスの売り手であるフリーランスのライター等へ支払うべき代金について、平成26年4月1日から消費税率が8%に引き上げられたことに伴い、本来ならば、その引き上げ分を上乗せした代金を支払う必要があった。にもかかわらず、2社は、消費税率引き上げ分を上乗せしていない金額分の代金を支払うにとどめており、消費税率引き上げ分をライター等に負担させたというものである(詳細については下図参照)。
【公正取引委員会作成の「本件の概要」】
3 事業者が看過しがちな特措法の盲点について
特措法第3条は、大きく4つの行為を禁止しているが、いずれも商品・サービスの買い手が、本来自らが負担すべき消費税率引き上げ分相当額を代金に反映させず、売り手に負担させる行為(若しくはその行為と実質的に同じ効果を直接・間接にもたらす行為。いわゆる消費税の転嫁の妨害行為)を禁じている。
これら禁止行為のうち、最も多く勧告・指導の対象となっているのは、本件と同様の「買いたたき」である(平成30年6月現在、公正取引委員会が特措法違反として指導・勧告をしたものと発表している事例のうち、合計4,226件中3,732件が「買いたたき」である。)。
違反類型として「買いたたき」が多いことの一因として、代金が消費税込みの価格で合意されていた場合には、消費税率の引き上げに伴ってこれを見直す必要があるところ、かかる見直しが必ずしも徹底されていないことが挙げられる。すなわち、消費税率5%を前提とした税込価格(例えば、1つ当たり10,500円)が契約書上合意されていた場合には、本来であれば、引き上げられた消費税率8%を前提とした価格の見直し(例えば、1つ当たり10,800円)を行う必要があるところ、この見直しを行わずに買い手はおろか売り手もそれに気付かないまま長年放置しているケースが実務上見られる(しばらく経ってから売り手が特措法違反に気付き当局へ通報することになる。)。こうしたケースでは、買い手が売り手に積極的に働きかけなくても特措法違反となるため、事業者(特に買い手)にとっては看過しがちな特措法の盲点となる。
また、売り手が消費税を納税する義務のない免税事業者の場合、「消費税を納めない事業者に消費税額を含めて支払ったらその分だけ売り手側が一方的に得をする。」などと誤解をしがちだが、免税事業者は他の事業者から仕入れる原材料や諸経費の支払において消費税額分を負担している。そのため、免税事業者に支払う代金について消費税額分の転嫁を拒否することも、合理的な理由がない限り、特措法違反になる[3]ことにも注意すべきであろう。
4 今後について
消費税率の10%引き上げ時期が平成31年10月1日に延期されたことにより、特措法の有効期限は平成30年9月30日から平成33年3月31日まで延長された。
代金が消費税込みの価格で合意されていた場合には、消費税率が10%へ引き上げられる際にも、再度これを見直す必要があり、この見直しを怠れば「買いたたき」と評価されかねない事態が生じる。「消費税は経理部門の担当である。」といった縦割りの発想では上記盲点を見落すリスクがあるため、法務・総務・コンプライアンス等の管理部門は勿論のこと、契約の締結・交渉を行うフロント部門においても、自社事業に関連する特措法や公正取引委員会のガイドラインの重要ポイントについては把握しておくことが望ましい。
以上
[1] 正式名称は、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」である。
[3] 消費税価格転嫁等総合相談センターの応答事例(平成30年6月13日現在) Q5