経産省、「アクティブ・ファンドマネージャー分科会報告書」を公表
――ESGや企業との対話に関するファンドマネージャーの議論の取りまとめ――
経済産業省は6月25日、「アクティブ・ファンドマネージャー分科会報告書」を公表した。
経産省では、わが国企業のガバナンス改革について、企業と投資家等が対話するための共通言語となる「価値協創ガイダンス(2017年5月)」(以下「ガイダンス」)等を公表し、昨年12月には「統合報告・ESG対話フォーラム」を立ち上げ、今年5月18日に議論内容や今後のアクションを「報告資料」として取りまとめていた。
「アクティブ・ファンドマネージャー分科会」(以下「分科会」)は、同フォーラムのメンバーからの提案に基づき、アクティブファンドの運営・投資判断を行う責任者を中心に様々な投資会社からの参加を得て、今年1月に設立され、上記の「報告資料」に合わせて「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」を公表していた。今般、分科会での検討結果を「アクティブ・ファンドマネージャー分科会報告書」(以下「分科会報告書」)として取りまとめたものである。
以下、分科会報告書の概要を紹介する。
「アクティブ・ファンドマネージャー分科会報告書」の概要
1 問題意識
(1) 世界的なパッシブ運用の台頭
- ・ 世界的にパッシブ(インデックス)運用がアクティブ運用を駆逐する動きがある。企業との対話はアクティブ運用の重要な付加価値であるべきだが、短期目線での投資が台頭している。
- ・ 2014年に伊藤レポートが打ち出した「持続可能な成長」や「インベストメント・チェーン(資金の拠出者から、資金を最終的に事業活動に使う企業までの経路)」の重要性は、運用現場にも浸透してきているが、インデックス運用の広がりがアクティブ運用の担当者にとって強いプレッシャーになっており、目先でのパフォーマンスの追求を重視する動きが強まっている。
(2) アクティブ・ファンドマネージャー間の対話の必要性
- ・ 運用会社のCIO(運用最高責任者)等が対話する場がほとんどない。投資家が中長期的観点から企業を評価する共通言語としてガイダンスを活用するためには、CIOやファンドマネージャ-の理解が必要。
- ・ インデックス運用の台頭の中、アクティブ・ファンドマネージャーの生き残る道は運用パフォーマンスだけではなく社会性の追求も重要。それがパフォーマンス向上につながることが重要。
2 論点
- • 企業から開示される情報のうち、どのような情報に着目するか。企業規模や業種ごとに違いはあるか。企業にはどのような開示方法を期待するか。
- • 投資実務において、ガイダンスをどのように活用できるか。それを踏まえ、どうすればガイダンスを投資家がより一層活用できる形に改善できるか。
3 議論の内容
分科会では「アクティブ・ファンドマネージャー」を「投資リターンの最大化のため、特に企業の個性を重視し、他の企業との差異に注目して株式運用を行う投資家」としてとらえた上で、中長期的な企業価値向上を期待する投資家としての観点から、以下のような点が示された。
- ・ アクティブ投資家は、ビジネスモデルや競争優位、戦略やそれに基づくKPIを重視している。
- ・ アクティブ投資家としては、ESG(環境・社会・ガバナンス)は網羅性よりも自社固有のものを示してほしい。
- ・ 経営理念や価値観は大事だが、企業との対話でスタート地点となるのは財務的な成果やKPIの達成状況。その時に経営者が自分の言葉で自社分析を語ってほしい。
- ・ 対話の中で企業のビジネスモデルや戦略を聞かない投資家もいるので、「ガイダンス」を共通言語化して使っていくことはアクティブ投資家にとって有益。ガイダンスを経営に使ってほしい。
- ・ 企業に「ガイダンス」に基づく開示や対話をしてもらうため、投資家側からそのような開示情報を参照し、精読・咀嚼した上で対話に臨むことをコミットすべき。
このような議論を受け、分科会では、ガイダンスに基づく情報開示を歓迎し、投資判断プロセスに組み込むこと等を内容とする「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」をとりまとめた。本報告書では、今後、同宣言に賛同する機関投資家や運用機関の輪が広がることへの期待が示されている。
4 分科会報告書の構成
1.1.「アクティブ・ファンドマネージャー分科会」の設立
1.2.問題意識
1.2.1.世界的なパッシブ運用の台頭
1.2.2.アクティブ・ファンドマネージャー間の対話の必要性
1.3.論点
1.4.分科会のアウトプット-「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」-
2.コーポレート・ガバナンス改革の進展-企業と投資家の建設的な対話は進展しているのか?-
2.1.企業において投資家との対話への関心は高まっている
2.2.運用機関の対話の背景にはESG対応がある
2.3.建設的な対話は広がるか-今はその分水嶺-
3.アクティブ・ファンドマネージャーが企業に伝えたいメッセージ
3.1.投資家が重視する項目を企業に伝えたい
3.1.1.投資家の思いを伝えることで、投資家が求めるものに気づいてほしい
3.1.2.投資家がガイダンスの活用にコミットし、企業に活用を促そう
3.2.経営者の意識変革への期待
3.2.1.日本企業における株主価値の意識の低さ
3.2.2.投資家が求めるガバナンス
3.2.3.経営者に求められる成長への意識
3.2.4.自社固有のESG を定義すべき
4.アクティブ・ファンドマネージャーが考える「ガイダンス」活用法
4.1.財務パフォーマンスを対話の起点とする
4.1.1.どのような流れで投資家は対話を行うのか
4.1.2.常にガイダンス項目の左から右に対話が進むわけではない
4.1.3.価値観や企業理念-重要だが初めから対話はしにくい-
4.2.“対話の巧拙”による活用方法
4.2.1.ガイダンスは多くの日本企業にとって理解が容易
4.2.2.対話に不慣れな企業・投資家にガイダンスは有益
4.3.“企業規模”等に応じた活用方法
4.3.1.ガイダンスには様々な使い方がある
4.3.2.全企業に一律適用することの危険性
4.3.3.自社に合わせて使ってほしい
4.3.4.中小型株で活用可能になることが重要
4.3.5.属性別のガイダンスがあると有用
4.3.6.全項目について対話するのは非現実的・不要
4.3.7.ベテランアナリストは“暗黙知”を聞かない
4.4.“共通言語”としてのガイダンスをどう活用するか
4.4.1.ガイダンスを共通言語化すべき
4.4.2.ガイダンスを相互理解のために使う
4.4.3.ガイダンスの「全体像」を対話に役立てよう
4.4.4.エンゲージメントへの活用
4.5.対話の品質向上のための事前準備
4.5.1.企業・投資家のスタンスを事前に知っておくべき
4.5.2.IRミーティング等の事前準備が双方の効率化につながる
5.分科会からの提言-「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」発出の背景-
5.1.分科会が目指すアウトプット
5.2.ガイダンスを活用した開示を促進する仕組みの必要性-企業に対するアンケート実施の是非-
5.2.1.アンケートを実施し、共通資産とすべき
5.2.2.アンケート実施に対する慎重意見
5.3.企業がガイダンスを活用した開示を進めるには投資家のコミットが必要
5.4.アクティブ・ファンドマネージャーの特徴提示の必要性
5.4.1.アクティブ・ファンドマネージャー同士での意見集約が必要
5.4.2.パッシブ・ファンドマネージャーとの違いを示すべき
5.4.3.アクティブ・ファンドマネージャーの社会的価値を示すべき
5.4.4.成長企業に投資したい
5.4.5.変わろうとする企業を後押ししたい
5.4.6.ESG情報を網羅的に求めない
5.4.7.ESG情報を経営全体の構成要素の中で見る
5.4.8.ESG情報と競争優位性の関連を重視する
5.5.アセットマネージャーからアセットオーナーへの提案
5.5.1.アセットオーナーにも意見を伝えていくことが必要
5.5.2.アセットマネージャーへの開示要請のフォーマットを統一すべき
5.5.3.形式的な報告要請が多く、モチベーションに影響する
5.5.4.アセットオーナーの短期志向は問題
5.6.個別提案
(別添1)アクティブ・ファンドマネージャー分科会 参加者名簿
(別添2)アクティブ・ファンドマネージャー宣言
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経産省、ESGや企業との対話に関するファンドマネージャーの議論をとりまとめました(6月25日)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180625001/20180625001.html -
参考
SH1876 経産省、「統合報告・ESG対話フォーラム」の「報告資料」を公表(2018/05/31)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=6286647 -
○ アクティブ・ファンドマネージャー宣言
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/AM_Japanese.pdf