日越共同イニシアティブとラウンドテーブル(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
前回は、ベトナムに進出した日系企業が直面する様々な投資環境上の問題について、日系企業サイドがベトナム当局と話し合う場として日越共同イニシアティブを取り上げた。今回は、ホーチミン市人民委員会とホーチミン日本商工会が主催しているラウンドテーブルについてご紹介する。
１ ラウンドテーブルの概要
ホーチミン日本商工会では、会員である日系企業が直面している事業環境上の問題についてホーチミン市人民委員会に改善の要望を提出し、改善に向けて討議する「ラウンドテーブル」を毎年実施している。この「ラウンドテーブル」は2002年に始まり、今年で13回目を迎える。歴史としては日越共同イニシアティブよりも古く、日越共同イニシアティブのモデルになったともいわれている。毎年アンケートを会員である日系企業を対象に実施して事業環境上の問題点を洗い出し、これをベースにホーチミン人民委員会に改善の要望を提出した上で、ホーチミン市人民委員会の各担当部局の幹部と日本商工会のメンバーが一同に会して、改善要望書について討議する「ラウンドテーブル」が実施される。ホテルの大ホールに日越両国から、多いときには総勢で200名近くが参加して行われる「ラウンドテーブル」は現地のメディアでも報道される。
2 ラウンドテーブルにおける昨今の取り組みと改善要望の例
これまでは日系企業からの改善要望書に対しホーチミン市人民委員会は基本的に「ラウンドテーブル」の場で回答をし、かかる回答に対し多少の質疑も行われてきた。しかしながら、時間的な制約などからより深い議論をするには限界があり、論点によっては不完全燃焼感が残るものも少なくなかった。こうした問題に対応するため、昨年から「ラウンドテーブル」の前により少人数の関係者（当局と商工会サイドの担当者）で「ミニラウンドテーブル」を実施して意見交換をし、問題点を絞り込んだうえで本番の「ラウンドテーブル」に臨む試みをしている。参考までに、6月に人民委員会側に提示された法務労務に関する日本サイドからの改善要望の例と、これに対し8月下旬の「ミニラウンドテーブル」で示された人民委員会側からの回答をいくつかご紹介する。
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改善要望の骨子 |
人民委員会側からの回答の骨子 |
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輸出加工区で輸入品を加工せずに海外へ転売する事業を行うことについては、昨年の法令改正で、今年6月末以降は、輸出加工区外に支店を設立しなければ事業を継続できなくなった。しかし、支店設立手続などに関するガイドラインが整備されておらず手続きが進められない。対応指針を示して欲しい。 |
財務省が必要なガイドラインを発行するまでは、基本的に従前どおり事業の継続を認める。詳細は7月8日付け公文書5087-VPCP-KTTH号を参照されたい。 |
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労働許可書の取得のための申請書類の一つとなっている無犯罪証明書について、過去に一日でもベトナムに滞在したことがあれば、（居住国の警察が発行する無犯罪証明書に加え）ベトナムの公安局が発行する無犯罪証明書の提出も要求されている。しかし、「1日でも滞在すれば」というのは過剰であり、例えば過去にベトナムの「居住者」になったと認められる場合等に限定してほしい。 |
法令上は、過去に一日でもベトナムに滞在したことがあれば、ベトナムの公安局が発行する無犯罪証明書の提出も要求されている。かかる取扱いで実務上不都合があれば個別に相談して欲しい。 |
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一定の販売促進活動については、当局への事前申請・登録が要求されているが、円滑な事業運営に支障を来している。支障を軽減するべく、オンライン申請・登録ができるようにするとのことであるが、いまだに整備されていない。いつからオンライン手続ができるようになるのか。 |
オンライン手続については、今年の第四四半期中の稼働を目指して努力している。オンライン手続が稼働するまでは、ホーチミン市商工局の所定のメールアドレス宛に必要な申請・登録書類等を送付してくれれば対応する。 |
日本側の要望に対し、人民委員会側から一定の満足できる回答が示されたものもある一方で、協議が必要な回答も存在する。今年は、人民委員会側から示された回答に対して補充質問・協議等をする必要がある要望については、事前協議を複数回実施し、「ラウンドテーブル」前に基本的に問題点が解決されていることを目指している。
投資環境上の問題が解決されることは、進出している日系企業にとって当然大きなメリットであるのみならず、ベトナムにとってもより魅力的な投資先となり、国として発展する上での大きなメリットとなる。「ラウンドテーブル」が日越両サイドにとって益々メリットを生む場になってくれることを願ってやまない。
以上