◇SH1993◇法律文書の読解入門(4)―優越的地位濫用と確約制度 白石忠志(2018/07/25)

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法律文書の読解入門(4)

優越的地位濫用と確約制度

東京大学教授

白 石 忠 志

 

 独禁法2条9項5号に違反する優越的地位濫用行為が行われた場合に、排除措置命令において相手方の不利益相当分を相手方に返金することを命じ得るか、という議論があります。例えば、納入業者と大規模小売業者との間で納入代金100万円という約定があったにもかかわらず大規模小売業者が90万円しか支払わないという減額行為があった場合に、納入業者に10万円を返金するよう大規模小売業者に対して命じ得るか、という問題です。公取委はこれまで、このような命令をしてきませんでした。

 命じ得ない、という立場からは、排除措置命令というものは、過去には関係なく、現在の違反行為を取りやめさせ、再発を防止するためのものであって、過去の違反行為の処理とは関係ない、などの主張がされます。カルテルで価格が上がっていたからといって、カルテルに対する排除措置命令において価格が高くなった分の返金を命じたりはしないのと同じである、ということでしょうか。

 他方で、命じ得る、という立場からは、返金をしない限り違反行為は継続しており違反行為を取りやめたことにならない、という主張や、排除措置命令においては不利益状態の是正もすべきである、という主張などがされます。

 本稿は、この問題を解決することを目的としていないので、これ以上に詳しくは論じません。

 最近、公取委が公表した確約手続対応方針のパブコメ案に、興味深い記載がありました。

 確約手続とは、公取委が「違反」とまで認定しなくとも、違反の「疑い」があると見ただけで、被疑違反行為者に確約措置の策定・申請を促し、適切であるならば公取委がこれを認定して、それで事件を終わらせる、という制度です。排除措置命令に相当するものを、より簡易な法的手続によって行わせる制度であるとも言えます。TPPがTPP11に進化した関係で、施行間近となったと考えられています。

 確約手続対応方針パブコメ案は、「確約措置の典型例」としていくつかのものを掲げています(同パブコメ案6(3)イ)。それらをよく読むと、公取委が確約認定申請を認定するか却下するかの分かれ目の一つとなる「措置内容の十分性」との関係で、確約措置が3種類に分かれていることがわかります。(※)

 第1は、「措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つである」とされる類型です。このような確約措置が含まれていることが認定のために常に必要であることを示していると考えられます。

 第2は、「措置内容の十分性を満たすために必要となる場合がある」とされる類型です。事案によっては、このような確約措置が盛り込まれていることが認定のために必須となる、ということを示しています。

 そして第3類型が、「取引先等に提供させた金銭的価値の回復」、すなわち、優越的地位濫用の場合の不利益相当分の返金です。これについては、「措置内容の十分性を満たすために有益である」という記載がされています。これは、そのような確約措置がとられることが望ましいが、常に必要であるとも言えず、また、事案によって必要であるとも言えず、そのような確約措置が盛り込まれていないからといって確約認定申請を却下する理由とはならない、という意味を含んでいるようにも見えます。

 あくまでパブコメ案であり、今後の議論を見守りたいと思います。

 


  1.  パブコメ案は、平成30年7月22日現在、次の場所で入手可能です。
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/03.pdf
  2.   「措置内容の十分性」とは、これを満たさなければ確約認定申請を却下しなければならないと法律で規定されている要件の一つをこのパブコメ案において略称したものです(同パブコメ案6(3)ア冒頭、確約制度が施行された場合の独禁法48条の3第6項、48条の7第5項)。

 

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