◇SH1182◇顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第3回) 有吉尚哉(2017/05/24)

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顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第3回)

西村あさひ法律事務所

弁護士 有 吉 尚 哉

 

5 個別の原則に関する実務対応

 本原則には顧客本位の業務運営に有用となる7項目の原則が掲げられている。以下では、それぞれの原則について、概説の上、実務対応上の一般的な留意点を説明する。

(1) 原則1:方針の策定・公表

【顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等】

原則1.金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。

 原則1は、金融事業者に、①顧客本位の業務運営を実現するための方針の策定・公表・定期的な見直し及び②当該方針に従った顧客本位の業務運営の取組状況の定期的な公表を求めるものである。

 顧客本位の業務運営を実現するための方針は、金融事業者が、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等、インベストメント・チェーンの中でどの部分を業務として取り扱うかによって、記載すべき内容や比重を置くべき項目が異なり得るものである。また、同じ業態の金融事業者であっても画一的な内容で顧客本位の業務運営の方針が策定されるべきものではなく、金融事業者は、各々の置かれた状況に応じて、顧客本位の業務運営を実現するために、自らのビジネスに即した方針を策定することが必要となる。したがって、業界ごとに方針を定型化するようなことは不適切であるが(前述のとおり、パブコメ回答では業界団体が指針等を設けることは適切ではないという金融庁の考え方が示されている)、ビジネスモデルに共通点のある他の金融事業者のグッドプラクティスを参考にして、自社の取組みに取り入れることは推奨されるべきであろう。

 方針の策定に際しては、取引の直接の相手方としての顧客だけでなく、インベストメント・チェーンにおける最終受益者(例えば、年金基金を顧客とする場合における年金受給者)としての顧客をも念頭に置いて、方針を策定すべきであることが注記されていることや、パブコメ回答で「現在の顧客のみならず潜在的な顧客も念頭に置くべき」という考え方が示されていること[1]にも留意が必要である。

 また、金融事業者が金融グループに属する場合、個社として方針を作成する方法のほか、金融グループで共通の方針を策定することも考えられる。パブコメ回答でも、グループとして一つの方針をまとめる対応が排除されるわけではないことが示されている[2]

 金融事業者には、策定した方針に従った顧客本位の業務運営の取組状況の公表も求められる。取組状況の具体的な公表方法は金融事業者に委ねられており、個別に本原則のための公表資料を作成して公表するほか、ディスクロージャー冊子で公開する方法も排除されるわけではないとされている[3]。公表の頻度も金融事業者に委ねられているが、「少なくとも年に1度は行うことが適当」とされている[4]。なお、金融庁は、本原則の定着に向けた取組みとして、顧客本位の業務運営の定着度合いを客観的に評価できるようにするための成果指標(KPI)を、取組方針やその実施状況の中に盛り込んで公表するよう、各金融事業者に働きかけるとしていることにも留意して、方針の内容や取組状況の記載方法を検討することが必要である。

 いったん方針を策定した後、そのまま維持し続ければよいというものではなく、事業環境などの変動に応じた内容とするよう、定期的な見直しを行うことが求められる。方針の見直しの頻度についても金融事業者に委ねられているが、前述のとおり、少なくとも年に1度の取組状況の公表を適当とした上で、「少なくとも定期的な公表を行う際に見直しの検討を行うことが適当」とされていること[5]を踏まえて、方針の見直しに取り組むことが必要である。

(2) 原則2:顧客の最善の利益の追求

【顧客の最善の利益の追求】

原則2.金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきである。

 原則2は、顧客本位の業務運営を実現する前提として、金融事業者に高度の専門性と職業倫理の保持を求めた上で、金融事業者が顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図ることを求めるものである。「顧客の最善の利益」とは、必ずしも経済的な利益のみを意味するものではないとされており[6]、金融事業者は、収益性やコスト以外の観点も含めて、何が顧客のためになるかを考えた上で、ベスト・プラクティスを追求することが求められる。なお、金融事業者は、各々の置かれた状況に応じて、顧客本位の業務運営を実現することが求められるが、「ベスト・プラクティスを追求した結果、類似の取組が行われること」があり得ることは金融庁も認めており[7]、前述のとおり、ビジネスモデルに共通点のある他の金融事業者のグッドプラクティスを参考にして、自社の取組みに取り入れることは推奨されるべきである。

 また、このような取組みが一時的なもので終わることなく、企業文化として定着させることも努力義務として掲げられている。

 原則2は、金融事業者に「顧客本位の業務運営」を求める原則であり、本原則の中でも中核的な要素と評価することができよう。



[1]    平成29年3月30日付で金融庁より公表された「『顧客本位の業務運営に関する原則』の確定について-コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ回答」という)46番。

[2]    パブコメ回答49番。

[3]    パブコメ回答47番。

[4]    パブコメ回答45番。

[5]    パブコメ回答45番。

[6]    パブコメ回答66番。

[7]    パブコメ回答72番。

 

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