債権法改正後の民法の未来 45
一部請求と時効障害(2)
新宅法律事務所
弁護士 新 宅 正 人
Ⅲ 議論の経過
2 概要
- ⑴ 第1読会
-
第12回会議において、債権の一部請求には、訴訟費用節約のために明示的な一部請求による訴えを提起してその後に請求の拡張を予定するなど、相応の理由がある場合も多く、このような債権者を時効完成から保護する必要があること、一部請求であることが明示されていれば、債務者は残部についての争いに備えるべきことを認識可能であることから、一部請求であることを明示して訴えが提起等された場合、昭和34年最判とは反対に、債権全部について時効障害事由としての効果を生ずるとすべきという意見が表明された[1]。
また、債権の一部について民事執行の申立てがなされた場合についても同様に検討すべきとする意見も表明されている[2]。
他方、一部請求であることを明示しない場合には、昭和45年最判とは反対に、債権の一部のみに時効障害の対象となる可能性があるとする指摘があった[3]。
さらに、一部請求であることの明示の有無にかかわらず、全部について時効障害事由としての効果が生じるべきであるとの意見もあった[4]。
- ⑵ 中間的な論点整理
-
第1読会を受けて[5]、中間的な論点整理において、債権の一部について訴えの提起又は民事執行の申立てがされた場合、一部請求であることが明示されているときは、判例と異なり、債権の全部について時効障害の効果が生ずることとするかどうかについて、一部請求であることが明示されなかった場合の取扱いにも留意しつつ、検討することが提案された[6]。
- ⑶ 第2読会
-
第34回会議及び第2分科会第1回会議では、今回の改正において、訴えの提起を時効の更新事由ではなく暫定的な時効障害とすることが検討されていることを踏まえて、訴えの提起と判決の確定に分けて検討がなされた。
まず、一部請求にかかる訴えの提起による暫定的な時効障害の範囲については、時効の更新が生ずる訴訟物の範囲と区別して考える余地があり、他方、一部請求であることを明示せず訴えを提起した場合であっても、暫定的な時効障害については昭和34年最判の考え方を維持するべきで、このことを明確にする必要があるとして、債権の一部について訴えの提起がされた場合には、一部請求であることが明示されていた場合であっても、暫定的な時効障害の効果が生ずることとすることが検討された[7]。
この点、明示黙示を問わず一部請求により債権全部について暫定的な時効障害が生ずることについて、理論的な説明が不足しているのではないか、という指摘もなされているが、実務的な要請は強く、権利行使の場面と権利確定の場面とでは分けて考えることも可能であるとの意見が多くを占めている[8]。次に、一部請求を認容する判決が確定した場合の時効障害の範囲に加え、仮にその範囲を昭和34年最判と反対に債権全部に及ぶとするのであれば、その根拠を訴訟係属や既判力とは切り離して考えることとなるところ、それに代わる根拠をどのように捉えるかについて、同論点を取り上げるかどうかも含めて検討がなされた[9]。
加えて、債権の一部について強制執行の申立てがされた場合の時効障害の及ぶ範囲についても、想定される場面と理論面との両面から検討がなされた[10]。
[1] 部会資料14-2第2.3(3)関連論点1(26頁)、第12回議事録(34頁)
[2] 第12回議事録(38頁)
[3] 第12回会議録(35頁)
[4] 第12回会議録(35頁)
[5] 部会資料23第33.2(5)ア(16頁)、部会資料26第33.2(5)ア(108頁)、26回会議議事録(8頁)
[6] 中間的な論点整理第36.2(5)ア(115頁)、同補足説明第36.2(5)ア(285頁)
[7] 部会資料31第1.2(5)ア(29頁)、34回議事録51頁以下
[8] 第2分科会第1回議事録37頁以下
[9] 部会資料31第1.2(5)ア(30頁)、第34回議事録58頁、第2分科会第1回議事録39頁以下
[10] 部会資料31(31頁)、第34回議事録56頁、58頁、第2分科会第1回議事録37頁