グローバル・ガバナンス/コンプライアンスの重要性(1)
中山国際法律事務所
弁護士 中 山 達 樹
1 海外拠点「管理」の多様な意味
日本企業の海外進出は盛んになっているものの、グローバルなガバナンスやコンプライアンスまで手が回っている企業は少ない。端的には、海外子会社の「会計的」「財務的」な見地からの監査・往査はしていても、「法律的」なチェックを十分にしている企業は多くない。つまり、「海外子会社管理」と言っても、日本企業が認識してきた「管理」の意味合いは、数値的・財務的な売上・利益の「管理」に終止することが多く、いわゆるコンプライアンス的・法律的な「管理」まで行き届いていない。より具体的には、会社法・人事・労働法・贈賄・競争法・情報保護・環境・BCP(事業継続計画)等の観点から、法律の専門家が海外拠点の状況を把握する作業を行っている企業は、皆無に近い。
しかしながら、グローバル化の進展に伴い、米国FCPA、英国現代奴隷法やEUのGDPR等、世界的に適用され得る法律が増えており、それらの罰則や執行も強化されている。罰則の金銭的インパクトは、最大で、腐敗防止では約800億円(シーメンス)、カルテルでは約3000億円(グーグル)である。「日本企業だから、海外の法律は後回し」という甘えは許されない。
このように、「財務的」な管理のみならず、「法律的」な管理も重要な時代となった。また、海外法務のような高度な管理をするのにも、人材が必要である。それゆえ、海外人材の適性把握、海外人材の供給、海外人材育成・教育などの組織的・「人的」な管理もまた必要である。もっとも、海外人材を戦略的・組織的に管理できている日本企業も少ない。
こうして考えると、「数字」のみの管理から、(法務)「体制」の管理、そして「人」の管理までも行わなければならない時代になったといえる。
「数字」の管理 | 財務・会計 | 売上・利益 |
「体制」の管理 | 法律 | ガバナンス・コンプライアンス |
「人」の管理 | 組織・人事 | 人材戦略・人材育成 |
2 What のみならず、WhoやHowも
真に海外事業を「法律的に」管理するためには、何を(What)行うか、のみならず、誰が(Who)、どのようにして(How)、行うかまで配慮する必要がある。
「何を(What)」整えなければならないか、という点については、贈賄やカルテルのコンプライアンス・ガイドラインを策定する等、日系企業の理解は深まっている。もっとも、これらのガイドラインにつき、「誰が(Who)、どのようにして(How)」現場スタッフに浸透させるべきか、つまりそれらのガイドラインの実行・執行のレベルについては、まだまだ向上の余地がある。
私は、経営的な観点、及び、国際法務・比較法的な観点から、多くの企業の海外拠点を往査・視察している(昨年の海外出張は20回を数える)。その視察の際、日本人の現法社長のみならず、現地のローカルスタッフ(多くはマネージャーレベル)と会話することで、日本人現地社長と日本語で会話・監査するだけでは決して知り得ない点を多く目の当たりにしてきた。
具体的には、日本本社から見て当然に伝わっていると思っていることが、実は全く伝わっていなかったりする例が多い。これらの原因を究明すると、日本から現地への情報伝達方法において、「誰が(Who)、どのように(How)」伝えるべきかというコミュニケーションの問題に課題を抱えている企業が多い。
What | なにを |
|
Who | だれが |
|
How | どうやって |
|