◇SH2026◇グローバル・ガバナンス/コンプライアンスの重要性(2) 中山達樹(2018/08/09)

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グローバル・ガバナンス/コンプライアンスの重要性(2)

中山国際法律事務所

弁護士 中 山 達 樹

 

3   WHAT ~ 現地にカスタマイズ

 グローバル・ガバナンス・コンプライアンスの見地から、何を(What)海外拠点に導入すべきか、について補足する。

 日本本社(特に法務部等の管理部)が考えるほど、現地スタッフの知的理解力は高くない。例えば、新興国のタクシー運転手の大半は、地図を読めない。日本企業の海外拠点スタッフの知的レベルも、過度に期待できない。それゆえ、ガイドラインやマニュアルが難しかったり長かったりすれば、現地スタッフに十分は理解されない。「中学生にも分かるように、分かりやすく」ガイドライン等を作成するくらいで、ちょうどいいレベル感になることが多い。

 また、日本人の書いた英語は、現地スタッフに通じにくいこともある。また、贈賄規程・マニュアル等において、上長の決裁が必要となる金額など、現地の実務に応じた内容にカスタマイズすべき場合もある。現地弁護士にレビューさせるコスト負担は覚悟すべきであろう。

 

4 WHO ~ 日本語ではダメ/英語で訊く必要性

 海外拠点において、日本語のみでコミュニケーションをしても、得られる情報は極めて限られる。現地語または英語で得られる情報の数分の一にとどまる。日本語のみでコミュニケーションをする場合のデメリットは、以下の通りである。

  1. ① バイアスの存在
  2.    どんなに正直で率直な現地責任者(日本人とする)でも、自分に都合の悪い情報を、日本本社に真に率直かつ十分に開示することは期待できない。そのような情報は、自分の出世や評価に直結するからだ。「日本語の情報は、そもそもバイアスがかかっている」と腹を括るくらいでいいだろう。
     
  3. ② 得られる情報量が僅少
  4.     現地マネージャーから英語や現地語で直接情報収集することで、日本語では得られない「生」の、より現場サイドの情報が得られる。「数字的」な管理のみならず、「法務的」「人的」な管理を志向するならば、このような生きた情報こそが貴重である。私の個人的感覚では、日本語のみのコミュニケーションから得られる情報は、英語で現地マネージャーから得る情報の2分の1以下にとどまる。

 たしかに、英語ができる人材を海外拠点に派遣することは、コストがかかる。

 しかしながら、英語や現地語で得られる情報が倍加するとすれば、その費用対効果は大きく期待できる。是非とも現地スタッフとの英語でのコミュニケーションに踏み込んでもらいたい。

 

5 HOW ~ 日本本社による「お膳立て」が必要

(1) 現法社長の高いプライド

 海外拠点における、法務情報の収集能力や処理能力は限られている。そのため、日本本社が海外拠点のコンプライアンスを適切に指導すること、いわば強力に「グリップ」することが望ましい。

 しかし、日本本社にグリップできるだけの能力と余裕がある企業も少ない。また、現法社長のほとんどは営業畑や技術畑の出身であり、コンプライアンスや法的チェックを苦手とすることが多い一方、「叩き上げ」の高いプライドを持っていたりする。そんな現法社長に対し、日本本社の管理部から「上から目線」で管理情報を展開しても、うまくいかない。現法社長からは、「そもそも苦手なコンプライアンスを、頭ごなしに、エリートの若造から、命令口調で押し付けられる」ように見えてしまい、無用な感情的反発を招きかねない。

 このような日本本社と海外拠点の距離感を表す言葉として、「OKY」という言葉がある。「お前が」「ここに来て」「やってみろ」の略だ。新興国のタフな実務にあえぐ現地日本人が、実情を知らずに頭ごなしに指示をしてくる日本本社管理部を揶揄したものである。現場の立場・現場目線に立った、柔軟で巧みな対応が望まれる。

(2) 日本本社の「お膳立て」 ――「攻め」と「守り」の役割分担

 そこで、「攻め」と「守り」の役割分配の再検討を提案したい。つまり、現法社長の苦手な「守り」の分野を、日本本社がより多くカバーしてあげることが望ましい。コンプライアンス的な分野を、得意でない現法社長の立場に立って、本社がより現場目線で「フォロー」ないし「お膳立て」するのである。

 実際、海外コンプライアンスの多くは、どの海外拠点でも共通する点が多く、日本本社で一元化管理できるものが多いはずだ。例えば、BCP(事業継続計画)などは、海外拠点に共通する雛形を日本本社で準備するなどの工夫ができる。

 このように、日本本社が「守り」をできる限り多く担うことによって、現法社長が得意の営業や技術開発等の「攻め」に心置きなく労力を割くことができる。このような「攻め」と「守り」の役割分担をより強く意識してみることをお勧めする。

 経営的な観点から見れば、日本本社が海外拠点のコンプライアンスをより多くカバーすることにより、海外拠点の業務負担がその分(例えば数%でも)軽減され、「攻め」の営業や技術開発に傾注できれば、その分の売上向上に寄与できる。

 こう考えると、ガバナンスやコンプライアンスは、決して後ろ向きな「ブレーキ」「コストセンター」ではなく、売上向上に寄与し得る前向きな「ガードレール」「ガイドライン」としてイメージできる。

(3) 現場の理解力に応じたコンプライアンス研修

 また、現地拠点でのコンプライアンス研修にも、工夫が必要である。年に1回、数時間掛けて、座学で研修を行っても、現地スタッフの理解力は期待ほど高まらない。少人数のグループワークにする等のきめ細かやな工夫が必要である。

 

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