◇SH2048◇法律文書の読解入門(5)―景表法違反行為の個数 白石忠志(2018/08/27)

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法律文書の読解入門(5)

景表法違反行為の個数

東京大学教授

白 石 忠 志

 

1 この問題を論ずる実務上の意義

 景表法に課徴金が導入され、既にいくつもの事例が蓄積していますが、あまり知られていないけれども実務上重要な論点として「違反行為の個数」があります。

 景表法8条1項は、課徴金額が少額であるときについて、「ただし、……その額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。」と規定し、いわゆる裾切り額を150万円としています。課徴金額は売上額の3%ですから、5,000万円以上の売上額がある場合のみ、課徴金納付命令がされることになります。

 売上額とは、8条1項に即して厳密に言えば、「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務」の売上額です。「課徴金対象行為」とは、景表法5条違反行為であって同条3号に該当する表示に係るものを除くもの、とされています(8条1項)。本稿では、5条3号のことは忘れて、単に「違反行為」と呼ぶこととしましょう。つまり、本稿では、「課徴金対象行為」=「違反行為」とお考えください。

 そうすると、違反行為の個数が大きな問題となります。問題の事業者が行っていた一連の表示行為が、全体として1個の違反行為とされたならば、関係する商品役務の売上げがまとめて1つの売上額となりますが、かりに細分化された複数の違反行為とされたならば、全体の売上げは複数の売上額に分解され、その複数の中には、5,000万円を下回るものが出てくるかもしれないからです。売上額が5,000万円を下回ったセグメントについては、課徴金納付命令がされないことになります。

 

2 具体例 1

 違反行為の個数をどのようにして決めるのか、は景表法の中身に関する問題ですから本稿では深入りせず、違反行為の個数の問題が命令書においてどのように表現されているかだけを確認します。

 ガンホー・オンライン・エンターテイメントに対する平成29年7月19日の措置命令を素材としてみましょう。関係するゲームごとに2件の措置命令書に分かれ、この2件の措置命令書が違反行為の個数の観点から対照的だからです。

 いわゆるパズドラに関する措置命令書における「法令の適用」の記載は、次のようになっています。

 これが普通の「法令の適用」です。普通であり過ぎて、これだけを見ても何もわかりません。

 ここで、いわゆるマジキンに関する措置命令書における「法令の適用」の記載をご覧ください。

 先に見たパズドラ措置命令書の「本件役務」の代わりに、こちらのマジキン措置命令書では「本件6役務」とされ、「それぞれ」が何度も登場します。細かいことを省略すると、この措置命令書は「本件6役務」について「それぞれ」別々の違反行為があったことを認定した、言い換えれば、1件の措置命令書で6個の違反行為を認定した、ということになると考えられます。なお、「本件6役務」は、措置命令書の冒頭において、次のように定義されています。

 ここにいう「別表」は省略しますが、「レックスパック」や「ジャック・スパロウパック」などの「役務名」が付された6種類のパックが列挙されています。

 消費者庁は、パズドラについては課徴金納付命令をしていますが(平成30年3月28日)、マジキンの課徴金については何も発表していません。なぜ課徴金に関する発表がないのかについて私の知る限り消費者庁は公に説明していませんので、定かではありませんが、違反行為が6個に分かれたこともあって6個全てについて裾切り額を下回った可能性があります。

 

3 具体例 2

 もちろん、複数の違反行為に分かれてもなお裾切り額を下回らない事例はあり得ます。景表法の課徴金第1号となった三菱自動車工業の普通自動車等に関する課徴金納付命令(平成29年1月27日)は、その一例です。

 上記画像では、主文を見ても何もわかりませんが、そのさらに上で、「本件26商品」について「それぞれ」違反行為があった旨が述べられています。

 そのことを明確に知ることができるのが、下記画像です。この画像には、「本件26商品」の「それぞれ」についての詳細な認定を書き込んだ別表2のうち、最初の20商品の右半分のみを入れておきました。それぞれについて、「課徴金対象行為をした期間」、「課徴金対象期間」、「売上額」、「課徴金額」、が別々に認定されていることがわかります。この1件の課徴金納付命令書は、26件の課徴金納付命令から成っているというわけです。

 

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