ベトナム:汚職防止法施行令(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鷹 野 亨
はじめに
ベトナムにおける汚職の問題は未だ軽視できない問題であり、ベトナム子会社のコンプライアンス体制を確立することはベトナム進出企業にとって重要な課題の一つである。
NO&T Asia Legal Update 3月号「ベトナム 汚職防止に関する新法の成立」と題する記事では、2018年11月20日付けで成立し2019年7月1日に施行された新しい汚職防止法(法律36/2018/QH14号、以下「新汚職防止法」という。)について説明している。この度、新汚職防止法の下位法令・ガイドラインとしての性格を有する政令59/2019/ND-CP号(以下「政令59号」という。)が2019年7月1日に成立し、同年8月15に施行された。
そこで、本稿では、ベトナム進出企業のコンプライアンス体制の検討・見直しを行う上で実務上重要と思われる政令59号の定めについてご説明したい。
政令59号の概要
旧汚職防止法(法律55/2005/QH11号(法律27/2012/QH13号により改正))では、公務員側を規律する規定として汚職防止・発見のための体制構築等について定められていたところ、新汚職防止法では、公務員について定める内容は維持しつつ、一般の民間企業に向けられた汚職防止の義務等が新たに定められたことが注目されるところである。
政令59号は、この新汚職防止法の施行ガイドラインとしての性格を有する。具体的には、①説明責任、②汚職行為の評価基準、③公務員等の行為規範、④定期的異動対象となる職位及び任期、⑤違反者の職務停止・異動、⑥民間企業及び非政府機関による汚職防止措置、⑦情報開示、⑧汚職防止に関する報告、⑨収賄以外の汚職防止法違反に関する処分等について、定めている。
上述の通り、新汚職防止法も政令59号も、公務員に対する規律を中心とした定めにはなっているが、一部の規定については、民間企業(とりわけ、上場会社などの公開会社、金融機関、首相・内務大臣・各地方の人民委員会委員長の決定により設立された社会組織及び寄付の募集を行うことができる社会組織(以下、総称して「公開会社等」という。))に適用されることを明示している。
以下では、主に、公開会社等に適用される定めに関して、上位規範である新汚職防止法の規定と、これに対応する政令59号の規定について述べる。
▷ 公開・透明性の確保
⑴新汚職防止法
公開会社等は、企業構造・事業内容、従業員等の権利・利益に関するポリシー、資金の管理・使用、人事管理・行為規範等の情報について、公開会社等の施設に掲載し、所定の機関に書面で通知し、マスメディアで公表し、又は、その他所定の方法で公開しなければならず、かかる情報公開について、公開会社等の長が責任を負うこととされている。(80.1条(a)号、9条、10.1条、11条、12条)。
⑵政令59号
上記公開すべき情報とされている「従業員等の権利・利益に関するポリシー」とは、役職員の権益に関わる政策の実施(就業時間、休憩時間、福利厚生)、行動規範及び定款、その他法令が公開・透明性の確保を求める事項であると具体化している(政令59号53.2条(a))。
▷ 利益相反の管理
⑴新汚職防止法
公開会社等における、利益相反(職務遂行者又はその関係者の利益がその者の職務遂行に影響を与える場合と定義される)への対応義務を定めている(80.1条(b)号、23条)。すなわち、利益相反を知った者はその上長に当該事実を報告する義務があり、当該上長は、利益相反者の職務の完全性・客観性・誠実性に利益相反が影響を与えると判断した場合は、その者の職務遂行を監視したり、その者を当該職務遂行から外したりするなどの対応をしなければならいとしている。
⑵政令59号
政令59号では、この利益相反への対応義務に関して、具体的に以下の事項を社内で行なわなければならいとする(54条)。
- ①利益相反に該当する場合を特定し、公表すると共に、役職員への研修を行うこと
- ②社内における利益相反情報の受領・対応方法に関するルールの定立
- ③利益相反を報告・通報した者が不利益を被らないようにする措置・対策
- ④利益相反が他の法令違反に該当するおそれがある場合、管轄当局に報告すること
((下)に続く)