インハウスと外部弁護士②
Vanguard Lawyers Tokyo(山川亜紀子)に聞くキャリア
GEジャパン General Counsel
弁護士 大 島 葉 子
Vanguard Lawyers Tokyo
弁護士 山 川 亜紀子
(司会)西 田 章
前回(第1回)は、大島葉子弁護士が、日本の大手渉外事務所からの米国留学と米国ローファームでの勤務を経て、GEジャパンに転職された経緯と、インハウスになってから、外部弁護士としての役割の違いを実感された体験談をお伺いしました。
今回(第2回)は、山川亜紀子弁護士に、マジック・サークルと呼ばれる英国系巨大事務所の東京オフィスの一員となり、そこでパートナーに昇進した後に、ご自身の事務所(Vanguard Lawyers Tokyo)を設立するに至った経緯をお伺いしています。
今度は、山川さんに経歴を伺っていきたいと思います。山川さんも、大島さんと同じ51期修習を1999年4月に修了されましたが、最初に入所されたのは、国内の渉外事務所でしたよね。
はい、小松・狛・西川法律事務所です。同事務所は、2002年に、あさひ法律事務所と合併しましたが、私は、それよりも前に、2000年の4月に、欧州系のフレッシュフィールズに移籍しました。私の前に、同じ事務所から先にフレッシュフィールズに移っていた弁護士がいたので、誘われて移りました。それから、昨年(2017年)まで、ずっとフレッシュフィールズです。
留学は、フレッシュフィールズから行かれたのですか。
はい、大島さんと同じ時期(2002年秋~2003年春)に、ハーバードロースクールのLL.M.に留学しました。
フレッシュフィールズ内で、アソシエイトからカウンセルへ、そして、パートナーへと昇進されたのですよね。
留学から戻って数年経った2007年に、カウンセルになりました。「カウンセル」というポストは、東京オフィスで先行して設けたら、その後、グローバルでも後追いで正式なポストとして承認されました。
インターナショナルファームでパートナーになるのは、とても難しいと聞きます。相当に苦労してパートナーポストを手に入れられたのでしょうか。
いえ、実は、私自身は、カウンセルという身分で仕事をさせてもらえて十分ハッピーだったので、昇進したいという欲求がありませんでした。というよりも、むしろ、「パートナーになりたくない」とすら思っていました。
でも、弁護士の大先輩であり、フレッシュフィールズの東京オフィスにおける訴訟部門のパートナーだった岡田和樹弁護士から、かなり強引にパートナー選考に載せられてしまって、渋々、選考プロセスを進めた、というのが実態です。
でも、弁護士の大先輩であり、フレッシュフィールズの東京オフィスにおける訴訟部門のパートナーだった岡田和樹弁護士から、かなり強引にパートナー選考に載せられてしまって、渋々、選考プロセスを進めた、というのが実態です。
何と、そんな事情があったのですか。結果的にどうだったのでしょうか。
そこがポイントで、パートナーになってみたら、これは本当に良かった、と思い直しました。別にカウンセル時代に不満もなかったのですが、同じ仕事をするんだったら、パートナーになったほうがいい、と、今では確信をもってそう思います。給料も上がりましたし(笑)。今では、強引に自分をパートナー選考に載せてくれた岡田弁護士に感謝しています。
フレッシュフィールズに入られた当初から、紛争解決を専門分野にされていたのでしょうか。
いえ、訴訟と労働に特化したのは、留学から戻ってきた後のことです。留学前は、木南直樹弁護士の下で、金融規制法を担当していました。
なぜ、金融規制法から、訴訟・労働に専門を変更されたのですか。
金融規制法は、「自分に向いていないなぁ」と思いながら、嫌々、仕事をしていました(苦笑)。「新しい金融商品を作りたい」と言われて、クライアントである金融機関から中身についての説明を受けても、「全然意味不明」と思いながら仕事していました。さすがに「これは向いてない」と思って、紛争チームのパートナーである岡田和樹弁護士にお願いして、紛争チームに入れてもらいました。
金融規制法と、紛争解決では、弁護士としての適性が異なるのでしょうか。
金融規制法をやる人は、兎に角、金融商品や金融取引が好きじゃないと、理解できないと思います。自分は、そういう抽象的な思考が苦手なんですよね。いまでもそうです。労働事件で「FXのトレーダーを解雇したい」といった相談を受けたら、その仕事内容もヒアリングすることになるのですが、トレーダーが何をやっているのか、いまだにピンと来ません。向き不向きがあると思います。
逆に、予防法務好きの弁護士には、トラブルが起きた後の訴訟対応を苦手とする人もいますよね。
訴訟は、やっぱり、「性格が悪い人」が向いていますよ、絶対に。好戦的なほうが有利。相手方から届いた書面を読んだ瞬間に、「こんなことを言ってくるなんて許せない!」「すぐに反論を書いてやる」と思える人が向いてます。
だから、若い弁護士に起案してもらった書面を読んで、「どうしてもっと怒らないの? 怒りが足りないんじゃないの?」とコメントしたこともありますが(笑)、喧嘩が苦手な人にとっては、喧嘩の手伝いをする仕事をさせられても、つまらないでしょうね。
だから、若い弁護士に起案してもらった書面を読んで、「どうしてもっと怒らないの? 怒りが足りないんじゃないの?」とコメントしたこともありますが(笑)、喧嘩が苦手な人にとっては、喧嘩の手伝いをする仕事をさせられても、つまらないでしょうね。
それは、労働弁護士にも共通するものでしょうか。
労働は、また別ですね。労働は、人間を相手にしていますので、わかりやすい。社員がこれをしました。これはダメですね、といった、身近で具体的な事実が問題になります。そこは金融とかとは本質的に違うと思います。
労働事件は色々な人と会えるから、面白いです。一口に「労働者」と言っても、いろんな職種に及ぶから、違う仕事のことを知る機会がたくさんあります。
労働事件は色々な人と会えるから、面白いです。一口に「労働者」と言っても、いろんな職種に及ぶから、違う仕事のことを知る機会がたくさんあります。
不祥事調査案件にも共通するところがありそうですね。
そう思います。労働も、就業規則とか社内規則を作るような仕事には、アドレナリンが出ないけど、具体的な「人」との関わりが出てくると、俄然、面白くなってきます。不祥事をしてしまったとか、病気になってしまった、というのは、事象としてはネガティブなことではありますが、人間だからこそ起きてしまう問題を扱う仕事はとても面白いです。
先ほど、「フレッシュフィールズのパートナーになってよかった」というお話をお伺いしましたが、昨年、独立されました。ストレートにお聞きしてしまうと、所内で喧嘩でもされたのでしょうか。
いえいえ、フレッシュフィールズからは、円満に独立させてもらいました。私は、もともと、若い頃から「いつかは独立したい」という思いを持っていたのですが、フレッシュフィールズが快適だったので、辞めるタイミングを逃してきていました。それを、昨年、ようやく実現できた、というだけです。
パートナーになれなかったから辞める、というならば理解できるのですが、「マジックサークルの事務所のパートナー」という身分を捨ててまで、このタイミングで独立するには、大きな決断があったと思うのですが。
所内の他分野の仕事とのシナジーが薄れていた、というのはあると思います。フレッシュフィールズに限らず、今、欧米系の法律事務所の東京オフィスは、アウトバウンドに注力しています。M&Aも独禁法も国際仲裁も、基本的に、日本企業の海外進出に関連するものが中心です。それに対して、私が、フレッシュフィールズで担当していたのは、外資系企業の日本における労働および訴訟案件なので、他の分野とクライアント層が分かれて来てしまっていたので、「必ずしも、フレッシュフィールズという事務所で仕事を続ける必要がないかも」という風には感じ始めていました。
外資系企業に対する労働や訴訟対応のサービスは、国内系の大手法律事務所も守備範囲としているところですが、国内系事務所と競合してしまうと、クライアントは、リーガルフィーの水準にも厳しくなってきそうですね。
仰る通りです。「海外で外国政府に対して仲裁を申し立てます」という代理人業務と、東京地裁の労働事件の代理人業務を、同じアワリーレートで受けなければならない、というのは、ちょっと無理が生じていました。
フレッシュフィールズ側にもその点は理解してもらえたのでしょうか。
最初は、慰留されましたが、国内における労働・訴訟業務の事業計画を立てて説明したら、フレッシュフィールズ内で行うよりも、スピンオフしたほうがお客さんのためにもなるよね、という点で理解してもらえました。
顧客への独立の最初の連絡は、フレッシュフィールズと連名で行いましたし、係属中の事件の引き継ぎにも協力してくれたので、とても感謝しています。今でも、仕事を紹介してくれることもあり、友好的な関係を築かせてもらっています。
顧客への独立の最初の連絡は、フレッシュフィールズと連名で行いましたし、係属中の事件の引き継ぎにも協力してくれたので、とても感謝しています。今でも、仕事を紹介してくれることもあり、友好的な関係を築かせてもらっています。
山川さんは、弁護士2年目から昨年まで、フレッシュフィールズに17年も在籍されていましたが、インターナショナルファームで働くことの最大の魅力は、どこにあると思いますか。
インターナショナルファームには、すごく良い点がいっぱいあるのですが、一番の魅力は、海外オフィスに所属している弁護士の質が異常に高いので、すごく勉強になります。
今でも、一般論としては、若い弁護士に対して「インターナショナルファームはお勧めだよ」と言っています。
今でも、一般論としては、若い弁護士に対して「インターナショナルファームはお勧めだよ」と言っています。
外国弁護士は、日本法の専門家ではないわけですよね。「質が高い」というのは、日本法の論点を議論している中でも感じられるものなのでしょうか。
インテリジェンスの方向が日本人とはまた違います。自分には、そういう視点がなかったなぁ、と気付かされることも頻繁にあります。一流のローファームだけでなく、GEのような一流企業内にも、「超人」と呼べるような天才がいて、こちらが思い付きもしない論点を見付けては、早め早めにその論点を潰してきます。
それは、契約交渉やプロジェクト案件での議論でしょうか。
それだけでなく、自然災害に起因するような想定外の事故への対応にも現れます。たとえば、日本法弁護士であれば、現行の法制度が適法であることを前提に法的リスクを分析しがちです。それに対して、欧米のトップロイヤーは、海外での事例も踏まえて、現行法制度が裁判所で憲法違反と判断されるリスクまで踏み込んだシナリオまでの分析を求めてくることもあります。
クライアントと外部弁護士の関係も、欧米スタイルは、日本のスタイルとは異なるのかもしれませんね。
確かに、日本の法律事務所に依頼するときは、特に意識して当社の側から、「考えてもらいたいポイント」を指摘することが多いです。法律事務所から出て来た回答が、当社の期待に答えていない場合には、そのことを伝えて、要求に沿った回答を出し直してもらうことになります。受け取ったメモのドラフトをアジアのチームと一緒に9割近く書き直したこともあります。
日本では、企業が外部弁護士を「顧問の先生」みたいに扱う風習がありますが、欧米の企業にはそういう文化がありません。法律事務所も「外部の業者」に過ぎないので、インハウスにとっては、「外部業者をうまく使う」というスキルがすごく重要だと思います。
私たちは、あくまでも「外部の業者」なので、「何をやってほしいのか」、「どのぐらいのリスクをとれるのか」というゴールを教えてもらえたら、そのゴールに辿り着くためのサポートはできますが、舵取りは私たちの仕事ではありません。舵取りができていないクライアントから依頼を受けると、私たちの仕事もブレブレになってしまいます。「これをやってください」と言われて進めていたら、「やっぱりこっちで」と言われたり、「やっぱり和解してください」なんて方針をコロコロ変えられてしまうと、作戦に整合性もなくなってしまいます。「相手方弁護士からは、私の訴訟活動はとても頭悪そうに見えているんだろうなぁ」と思うと、恥ずかしくなってしまいます(苦笑)。
クライアントのインハウスには、外部の専門家をうまく使いこなしてもらいたいです。外部の専門家への指示の的確さ、という点においては、大島さんはすごく仕事をしやすいです。「何をしてほしいのか?」に関するコミュニケーションが明確で、「外部の業者をどう使うべきか?」をよく分かっておられます。
私たちは、あくまでも「外部の業者」なので、「何をやってほしいのか」、「どのぐらいのリスクをとれるのか」というゴールを教えてもらえたら、そのゴールに辿り着くためのサポートはできますが、舵取りは私たちの仕事ではありません。舵取りができていないクライアントから依頼を受けると、私たちの仕事もブレブレになってしまいます。「これをやってください」と言われて進めていたら、「やっぱりこっちで」と言われたり、「やっぱり和解してください」なんて方針をコロコロ変えられてしまうと、作戦に整合性もなくなってしまいます。「相手方弁護士からは、私の訴訟活動はとても頭悪そうに見えているんだろうなぁ」と思うと、恥ずかしくなってしまいます(苦笑)。
クライアントのインハウスには、外部の専門家をうまく使いこなしてもらいたいです。外部の専門家への指示の的確さ、という点においては、大島さんはすごく仕事をしやすいです。「何をしてほしいのか?」に関するコミュニケーションが明確で、「外部の業者をどう使うべきか?」をよく分かっておられます。
次に、独立して設立された事務所、Vanguard Tokyoのことについてお伺いさせてください。フレッシュフィールズの労働・訴訟部門をスピンオフしたようなものだと聞きましたが、今後は、さらに業務分野を広げていく計画もあるのでしょうか。
今は、労働事件の比重が大きいので、事務所経営面では、今後、もうちょっと多角化したほうが良いだろうとは思っています。
訴訟全般も強くしていきたいですし、木南直樹弁護士が受け持っている金融規制法も伸ばしていきたいです。また、今年の秋には、あらたなパートナーも参加予定なので、クライアントが共通する法分野については、取扱業務の範囲ももう少し広げて、経営も安定化させようと思っています。たとえば、「労働・訴訟案件が減ったときにも、別の法分野では案件が増えている」という状況を作れたらいいかな、と。
訴訟全般も強くしていきたいですし、木南直樹弁護士が受け持っている金融規制法も伸ばしていきたいです。また、今年の秋には、あらたなパートナーも参加予定なので、クライアントが共通する法分野については、取扱業務の範囲ももう少し広げて、経営も安定化させようと思っています。たとえば、「労働・訴訟案件が減ったときにも、別の法分野では案件が増えている」という状況を作れたらいいかな、と。
取扱業務の範囲を広げるならば、人手も少しずつ増やしていかれるのでしょうか。
そうですね、若干、人を増やしていきたいと思っています。いまは、まだ人数が少ないので、仕事が立て込んでなければ暇なのに、一旦、大きな案件が入って来してしまうと、急にすごく忙しくなってしまいます。仕事が増えた分を吸収できるだけのマンパワーがまだありません。
組織面では、将来的に事務所をどうして行きたい、というイメージを聞かせていただけないでしょうか。
私がいつ辞めてもいいような事務所を作りたいですね。先日、「オフィス北野から北野武が独立」というニュースを見ましたが、それを見て「あぁ、そういうのも『あり』なんだ」と心を強くしました(笑)。
事務所をちゃんとしたプラットフォームに育てて、「設立パートナーがいなくなっても、この事務所は大丈夫ですよね」と言ってもらえるようになることが、私は楽しみです。
事務所をちゃんとしたプラットフォームに育てて、「設立パートナーがいなくなっても、この事務所は大丈夫ですよね」と言ってもらえるようになることが、私は楽しみです。
事務所に「定年」はあるのでしょうか。
はい、パートナーに定年制度を設けました。設立当初は特例的に、シニアな弁護士にもパートナーとして業務に携わってもらっていますが、私が定年を超えてパートナーに残るつもりはありません。仮に事務所の残ることが有益であれば、コンサル的な形に留めて、パートナーシップからは外れることになります。
大島さんは、クライアントの立場で、外部弁護士たる山川さんに依頼されることもあると思います。大島さんは、山川さんをどのように評価されていますか。本人を目の前にして悪口を言いにくいかもしれませんが(笑)。
山川さんは、非常に優秀なアウトサイドカウンセルで、これまでのお仕事ぶりからGEのグローバルHQチームの信頼も厚いです。日本では、こちらが求めていることに対して、「いや、判例がないし、未知の世界だから法的な見解は出せない」と回答される法律事務所もありますが、山川さんは、リーガルのスペシャリストとして求められたことを正面から受け止めて、日本語でも英語でも、また日本人以外にもわかりやすいようにロジカルに、こちらの依頼に応えてくれます。
え? 依頼に応えない外部弁護士もいるのですか。
評論家的に、「こうなったら、A。こうなったら、B。以上」みたいなメモや既に相談前に把握している該当条文のみ回答としてもらったこともあります。日本と欧米のスタイルの違いもあるのかもしれませんが、特に英語になると、言語の性質もあり、ロジックのないもの、また言葉が並んでいるだけで内容がもやもやしたものはそのもやもやがより顕著になってしまうように思います。また、最終的な判断は社内で行うのですが、その前提として、「アウトサイドカウンセルだからこそできる判断」を求めることがあります。たとえば、何かのリスクが問題になったら、その所在を指摘するだけでなく、「このリスクは、通常だったら、マネージできるリスクなのか?それともかなり危険なのか?」という外部アドバイザーとしての感触も教えてもらいたいです。日本の法律事務所も変わってきていますが、法律の専門家でない依頼者から「先生、教えて下さい」と言われて答える、というスタイルの仕事に慣れてしまっている弁護士もいるので、「リーガルのスペシャリストとしてリーガルの専門家の眼にも耐え得るサービスを提供する」という意識は、欧米系ローファームのほうが進んでいるかもしれません。尤も、GEが日本で長年お世話になっている弁護士の方々は日本の法律事務所であっても、年月をかけてGEの要求とスタイルを吸収下さっていますので、同様なサービスを提供していただけるようになっています。GEが提起する一見突拍子もない質問もGEがしているのには理由があると信頼いただき(笑)、むしろ、新しい問題を検討する機会だと歓迎して下さったりします。
それから、山川さんに関しては、抜群に賢く且つバイリンガルなので、相談内容についての理解が早くて、スピーディーに、かつ、基本的にポジティブに、「尋ねたこと」に対して日本語でも英語でもストレートに明確に答えてくれます。また、緊急案件では、その緊急性を理解してスピーディに対応してくれるのはとても助かります。
それから、山川さんに関しては、抜群に賢く且つバイリンガルなので、相談内容についての理解が早くて、スピーディーに、かつ、基本的にポジティブに、「尋ねたこと」に対して日本語でも英語でもストレートに明確に答えてくれます。また、緊急案件では、その緊急性を理解してスピーディに対応してくれるのはとても助かります。
外部弁護士でも、答えていることの内容自体が間違っているわけじゃないけど、質問と噛み合っていない人もいますよね。
はい、質問しても、こちらはその質問から論点を考えていただく前提だったのにその思考過程が飛ばされているなどで、「あれ、そっち行っちゃう?」みたいな回答をされたこともあります(笑)。その点、山川さんは、こちらが尋ねたことについて、何がポイントかをすぐに理解して、それに関連する情報を取捨選択して、ポイントとなる事項から端的に答えてくれます。
山川さんが、クライアントからの質問に要点をついてスピーディーに応えられるようになったのは、欧米系事務所で仕事をした成果なのでしょうか。
確かに、日系事務所に止まっていたら、今のような仕事のスタイルにはなっていなかったでしょうね。フレッシュフィールズに居たからこそ、「クライアントの知りたいことに答える」という訓練を積めたかもしれません。
そういえば、社内弁護士から「日系の大手法律事務所に、本件での勝訴の確率を尋ねたら、『4割~6割』と回答された」という笑い話みたいなエピソードも聞いたことがあります。
50%をまたいで同じだけしか振れ幅がなければ、「4割~6割」でも、「3割~7割」でも、「0割~10割」でも同じに聞こえてしまいます。訴訟弁護士として、自分の意見を何も示さずに発言していることになります。
それも、欧米系事務所で学んだことなのでしょうか。
そうですね、フレッシュフィールズで働いたから、「クライアントの役に立つコメントをしなければならない」という意識が身に付いたのだと思います。
でも、すべての依頼者がそれを求めているわけでもないのかもしれませんね。日本の法律事務所的な仕事のスタイルを好む日本企業もありそうです。
それはその通りだと思います。私のスタイルでは、日本企業のクライアントには対応できないこともあると思います。たとえば、私は、基本的に、メモランダムは書かないことにしています。もちろん、「書いてくれ」と頼まれたら、書かないわけではありませんが、基本的には、電話で話すほうが効率的だと思っていますし、電話とメールでアドバイスが伝わるならば、それで済ませたいと思っています。
確かに、分厚くて、脚注もついた美しいメモを取締役会に提出したいならば、リサーチャー的なアソシエイトが豊富でマンパワーのある事務所のほうが向いていますね。
私は、メモを書く場合でも、「だいたいこんな感じじゃん」みたいなノリなので、分厚いメモを書くような仕事は、ちょっと向かないですね(笑)。
(続く)