◇SH1925◇弁護士の就職と転職Q&A Q46「大手事務所の中途採用に応募して勝機はあるか?」 西田 章(2018/06/25)

法学教育

弁護士の就職と転職Q&A

Q46「大手事務所の中途採用に応募して勝機はあるか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 若手弁護士が事務所でのキャリアの将来性を考えた場合に「隣の芝生」は青く見えます。例えば、大手事務所にいると、「パートナー審査の厳しさ」や「パートナーになってからの売上げプレッシャー」を身近に感じますが、中小事務所で生き残るための苦労にはリアリティがありません。逆に、中小事務所から見ると、「大手事務所のブランド力」や「ディールのノウハウの蓄積」や「他分野の専門弁護士と議論して案件を進められる環境」などは、最先端の案件に関与して自らを成長させる上でとても羨ましい環境に映ります。ただ、中小事務所のアソシエイトが「大手でチャレンジしてみたい」という希望を抱いたとしても、「新卒で優秀な人材を大量に採用している大手に自分が入り込む余地があるのか?」との不安から、応募に尻込みしてしまうこともあるようです。

 

1 問題の所在

 大手の法律事務所は、毎年、数十人規模で、成績優秀な新人弁護士を採用しています。そして、アソシエイトは、大規模案件や最先端の案件に関与し、パートナーからの指導を受けながら、事務所に蓄積された過去の類似事例のノウハウを活用して、パラリーガルやトランスレーターの助力も得ながらの仕事を通じて成長していきます。外野から見れば、「人手が足りない」というイメージはまったくありません。そのため、ホームページ上の「採用情報」に募集要項を載せていても、「本気で採用する意欲があるのだろうか?」という疑いの目を向けてしまう人もいます。

 また、採用ニーズがあるとしても、「一体、どんな人ならば、採用されるのだろうか?」という疑問も湧きます。そして、具体的に中途採用への応募を検討しても、「仮に、縁あって入れてもらえたとしても、優秀な生え抜きよりも冷遇されて、二軍、遊軍扱いを受けるのがオチではないか?」という不安が先立ちます。例えば、「生え抜きのエリートが断って、引き受け手がない仕事ばかりを回されるのではないか」とか「留学先選択でも劣後的に扱われてしまうのではないか」とか「結局、パートナーにするつもりはなく、労働力としてこき使われた挙句に捨てられるのではないか」といったバッドシナリオが思い浮かびます。そのリスクは現実的なものなのでしょうか。または、冷遇されるリスクがあってでも、挑戦する価値があるのでしょうか。

 

2 対応指針

 多数の優秀な同期と仕事振りを見比べられてしまうことが避けられない環境であるため、自己の弁護士としての能力(又は潜在能力)に「何らかの自信」がない限りは、大手事務所の中途採用で成功する見込みはありません。ただ、社内調整を主とする会社員とは異なり、法律事務所の仕事においては、メモを作らせたら、本人の業務への適性やセンスはすぐに現れるので、パートナーの側では「生え抜きか中途採用かよりも、デキる(又は伸びる)アソシエイトを使いたい」という意識のほうが強いです(「生え抜き重視」の思想は、むしろ中小事務所のほうが強いかもしれません)。

 業務分野的には、①本来、大手事務所が得意とするノウハウが蓄積された分野(M&Aやファイナンス等)において、最先端又は大型案件の修行を積む、という路線と、②大手事務所でも、まだ開拓し切れていない分野において、生え抜きが持っていない経験(例えば、危機管理部門における検察経験)や生え抜きが尻込みして取れないリスクを取る(例えば、海外オフィス担当)、という路線がありえます。

 

3 解説

(1)「生え抜き重視」と実力主義

 一般論として、企業には、「生え抜き」重視の傾向があります。新卒で初めて勤めた職場には、特別な「愛社精神」が生じやすいですし、社会人として「まっさら」な状態から教育できれば、組織としてのDNAを受け継ぐ幹部候補生としての資質が高いからです。このことは、法律事務所にも当てはまります。また、さらに、法律事務所では、パートナーが自ら採用選考を主導するため、自分が勧誘したアソシエイトに対する「雇用責任」を感じて、「一人前に育てあげなければならない」という心理的圧迫も生じます。

 ただ、大手事務所には、終身雇用という発想はありません。一定年次に到達すれば、パートナー審査を迎えて、それに適合しなければ、事務所を去らなければならないことは、中途採用者に限らず、「生え抜き」でも同様です。実際のところ、「生え抜き」も現実に仕事を一緒にするのはごく一部のパートナーに過ぎません。パートナーにとっては、「飲み会やイベントでしか会ったことがない生え抜き」よりも、「実際に仕事をしたことがある中途採用者」のほうが実力に基づいた人事評価を下すことができます。

 また、海外留学については、入学を許可するかどうかは大学のアドミッション・オフィス側の判断です。そこでは、学生時代の成績やTOEFLの点数が参照されます。エッセイでは、むしろ複数の職場を経験しているアソシエイトのほうが説得力のある文章を書くための材料が豊富と言えるかもしれません。

(2) 最先端実務の習得

 中小事務所には、「先輩弁護士の層が薄いおかげで、責任ある仕事を任せてもらいやすい」「成長が早い」という魅力があります。ただ、「自分の仕事振りは、一線級の実務慣行に照らしても、適切なのだろうか? 自己流、我流に過ぎないのではないか?」という不安も拭い切れません。実際に、相手方や関連当事者に、大手事務所がリーガルアドバイザーとして付いた場合に、彼らの議論に自分の知識がついて行くことができないと、「このままでは大手事務所の弁護士との差がどんどん開いてしまう」という焦りを感じます。

 また、営業に力を入れれば、小規模案件の受任数を増やすことはできますが、だからといって、そこから、さらに大型案件や最先端事例へと「質的な成長」につなげられるか、と言えば、そう甘くはありません。依頼者企業側も、コモディティ化された案件ならば、費用対効果の観点から、中小事務所に任せてくれることがあっても、社運をかけるようなビッグ・ディールの場合には、担当者自身のリスク回避の観点からも、大手事務所に任せざるを得ない事情も生じます。

 とすれば、「ディールを本業とする企業法務の弁護士の道を選びながらも、所属する事務所の限界があるが故に自分の成長も止まる」というのは堪え難いものがあります。そのような悩みを抱えるアソシエイトにとってみれば、「大手事務所で、ディール経験を積ませてもらえるならば、その先のキャリアとしてパートナー審査云々のことはどうでもいいので挑戦してみたい」という発想で中途採用に応募することもあります(大手事務所で経験を積んで成長ができるならば、将来的には、中小事務所に再度の転職をしたり、独立をしたり、インハウスに転向することがあったとしても構わない、という発想です)。

(3) 新規分野の開拓

 現在、大手事務所でシニア・パートナーを務めている弁護士は、40年〜20年前の修習生時代に、「逆張り」の選択で「渉外系」を就職先に選んだ「リスクテイカー」です(当時の修習生の多数派は「弁護士はいずれ独立するもの」と考えていました)。

 これに対して、現在の成績優秀層にとって、多人数の新卒を採用する大手事務所を就職先に選ぶことは、「保守的な選択」と評価できます(実際にリスクが少ないかどうかは別として)。そこで、「保守的な選択をするようなエリートが新規分野の開拓に適しているか?」という問題が顕在化しつつあります。表現の適切さを考慮せずに言い換えるとすれば、「『羊』を量産することはできても、『羊飼い』を育てることはできないのではないか?」という人事政策上の課題です。

 また、弁護士業界における「新規分野」と、大手事務所における「新規分野」は一致しているわけではありません。例えば、倒産や労働は、弁護士業務としては伝統的分野ですが、渉外業務から発展してきた大手事務所の中には、生え抜きでは扱えない先もありました。そのため、倒産事務所との統合や労働事務所からの移籍により合流した「外様」が(業界的には新規分野でなくとも)大手事務所内で新しいプラクティスを確立させて来ています。最近では、大手事務所では、危機管理部門を拡大していますが、これも、生え抜きではなく、検察出身者によって立ち上げられたものです。

 会社においては、法務部門は管理部門/間接部門であり、「実績を数字で示すことで評価されること」が難しいため、「出世競争において生え抜きが優遇される」といった慣行が残りやすいかもしれません。これに対して、法律事務所における弁護士の仕事は、直ちに「売上げ」で実績を示すことができるために(生え抜きも中途も関わりなく)実力主義での人事評価がなされやすい職場環境と言えます。

以上

 

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