被告HPにおける原告に関する記載が不正競争行為に該当するとして、
原告の被告に対する損害賠償請求が一部認容された事例
岩田合同法律事務所
弁護士 別 府 文 弥
1. 事案の概要
本判決(東京地判平成30年8月17日)は、Jolen International Inc.(以下「ジョレン社」という。)の製造する医薬部外品と同様の商品(以下「原告商品」という。)をAmazon.co.jpを通じて日本の消費者に販売していた原告と、日本においてジョレン社の商品を独占的に販売していた販売代理店である被告間の訴訟に係るものである。
原告は、(1)被告が、被告ホームページにおいて、原告の販売する本件商品が真正品ではなく、当該販売が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)に違反している等の事実を掲載して流布したこと(以下「HP掲載行為」という。)、及び、(2)被告がジョレン社を通じて、Amazon.co.jp を管理するAmazon Services International, Inc.に対し、原告商品の販売の停止を求めたこと(以下「販売停止要求」という。)が、不正競争防止法2条1項15号の不正競争行為ないし民法709条の不法行為に該当するとして、被告に対し損害賠償を請求した。
東京地方裁判所は、販売停止要求は名誉棄損・信用棄損を構成せず、また原告商品が模造品である可能性を指摘して出品停止等の措置を採ることを求めることは違法な行為ではないとして、販売停止要求は不法行為を構成しないと判示した。
一方で、HP掲載行為については、一部の記載について原告の営業上の信用を害する記載であるとして請求を一部認容している。すなわち、HPに掲載された、①原告商品がジョレン社の販売している真正品ではないこと、②原告商品の販売価格が極端に廉価であること、③原告がジョレン社からの販売中止命令に従わなかったこと、及び、④原告が厚生労働省から必要な許認可を得ることなく商品を販売していること(記載内容の詳細については下記の図表を参照されたい)のうち、①の記載については虚偽と認められず、②・③の記載については①の記載が虚偽と言えない以上、独立して原告の営業上の信用を害する記載とは認められないと判示した。他方、④の記載について、カリフォルニア州法に基づいて設立された法人である原告が、日本国内の消費者に対し、原告商品を直接送付することにより販売する行為について医薬品医療機器等法12条1項所定の医薬部外品製造販売業許可を得る必要はないため、当該記載は虚偽の事実を摘示したものであり、原告の営業上の信用を害する記載であると判示し、当該記載について被告には過失が認められるとして、当該信用毀損による損害及び弁護士費用に相当する33万円の限度で請求を認容した。
HP掲載行為の内容(判決目録より抜粋:下線及びカッコ内は筆者注。番号は上記①-④に対応する。原文ママ) |
(前略)オンライン通販Amazon.co.jpで名前を変えたり極端な安価格にて、販売をしている(②)業者を発見し、弊社からJOLEN本社に報告をし販売の中止命令を掛けました(③)が、今だ勝手に販売している業者です。商品はJOLEN本社の物ではなく(①)どこから仕入れているかも現在分かっていません。(中略)JOLEN,USAは取引をしていないので並行輸入事態ができませんし厚生労働者の許認可もなく販売を行っているので薬事法違反になります(④)。(以下略) |
2. 争点
不正競争防止法2条1項15号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」が不正競争行為に該当する旨定義しており、不正競争行為によって営業上の利益を侵害された者は、故意・過失のある行為者に対し、損害賠償請求を行うことが可能である(同法4条)。
本件では、上記の通り、被告のHP掲載行為のうち、原告が厚生労働省から必要な許認可を得ることなく商品を販売しているとの記載が、虚偽の事実を摘示したものであり、原告の営業上の信用を毀損すると認定された。
また、本判決によれば、被告は独自の判断に基づき、原告商品の販売について厚生労働省の許認可が必要であると断定する記載をホームページに掲載したことから、事業者として通常求められる注意義務を尽くしたものであるということはできないとして、被告の過失が認定された。なお、過失の判断に当たっては、不正競争防止法2条1項15号所定の行為の存在自体が過失を基礎付ける(評価根拠事実)と解されている(金井重彦=山口三惠子=小倉秀夫編『不正競争防止法コンメンタール』<改訂版>201頁〔町田健一〕)。
損害に関しては、裁判所は、不正競争防止法9条に基づき、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果、相当な損害額として33万円を損害と認定したものと考えられる。
3. 小括
本件は事例判決ではあるが、企業が、自社が販売する商品と同種の(真正品ではない可能性がある)商品を販売している競合他社が業法に違反しているとの掲載をホームページ上で行ったことによって、損害賠償責任を負うに至った点において注目される。本件からも明らかなように、企業が他社の事業に関する記載をホームページ等で行う場合には、民法上の不法行為に該当するリスクがないかに加え、不正競争防止法等に違反するリスクがないかを慎重に検討することが必要である。
以上