実学・企業法務(第170回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
7. 事故・事件とその対応
(1) 横浜で販売されたマンションの傾斜問題
2) 国土交通省の「委員会(学識経験者)」による原因分析と対策
2015年11月に国土交通省に設置された学識経験者からなる「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」は、2015年12月に、下記の「1.原因、課題」を「中間とりまとめ報告書」にまとめて、国土交通大臣宛に提出した。
本件を踏まえて、国土交通省から再発防止のための告示・ガイドラインが発出され、更に、構造的課題の解決策の検討が行われた。
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1. 原因、課題[1]
(1) 施工管理体制の問題、(2) 下請け任せの杭の支持層到達判断、(3) データ取得上の問題、(4) 設計と施工等の連携不足、大臣認定制度[2]に係わる問題、(5) 設計・工事監理一括発注の問題、(6) 建築基準法に基づく中間検査の実効性の問題、(7)「青田売り[3]」を背景とした工期厳守圧力の問題
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2. 再発防止策
(1) 国土交通省告示を発出(2016年3月4日)- ・ 施工体制、杭の支持層到達、施工記録に関して建設会社が遵守すべき事項を告示
- ・ 工事監理者向けに基礎ぐい工事における工事監理ガイドラインを策定し、基礎ぐいに関する設計や建築基準法上の中間検査における留意点をまとめて公表
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(2) 建設業の構造的課題への対応のあり方[4](主な項目)
- ・ 施工体制における監理技術者等の役割の明確化
- ・ 技術者の適正な配置、実質的に施工に携わらない企業の施工体制からの排除
- ・ 民間工事における発注者・元請け等の請負契約の適正化
- ・ 技術と管理力に優れた技術者の確保・育成と活躍
- ・ 大量離職時代に向けた中長期的な技能労働者の確保・育成
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・ 地域の中小建設企業の合併や事業譲渡等が円滑になされる環境整備
3) 欠陥マンションの売主と住民の選択
本件マンションは、売主と区分所有者との間で、全4棟の建替え[5]・経費等の負担に関する協議[6]が整い、入居者全員が引越を終えて、2017年5月から取り壊し工事が始まった。2020年の建て替え完了を予定している。
- (注) 区分所有法[7](62条)は、集会が建替え決議を行うには、区分所有者及び議決権の各4/5の賛成を必要としている。
横浜市は、解体工事中に、マンションが傾いた原因を調査する意向。
[1] 国立国会図書館「杭工事問題と再発防止策―建設業の構造的課題への対応―」調査と情報№938(2017.2.2)より抽出して列挙した。
[2] 認定内容に、施工方法と品質管理方法が含まれるため、品質管理が施工者任せになる可能性がある。
[3] マンション完成前に、販売開始して完売する、という分譲マンション業界で一般的なビジネス形態。工期遅れは、直ちにマンション購入者の入居遅れ(損害賠償請求)を招くので、施工業者に作業修正の余裕が無くなる。
[4] 2016年6月22日「中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会 基本問題小委員会中間とりまとめ」より。
[5] 〔参考:他社のケース〕2014年1月、鹿島建設が元請けの「東京都港区南青山マンション」で、下請けが工事を手がけた配管・配線用の壁穴が設計図通りに開かないと判明し、売主「三菱地所レジデンス」が完売直前に販売を中止し、建て直すことになった。売主は、購入者に手付金を返却するとともにその2倍の迷惑料を支払う案を提示。
[6] 2016年9月19日の住民集会投票で、議決権総数711、建替え賛成709で可決。三井不動産プレデンシャル(売主)から、全戸に慰謝料300万円、建替えまでの仮住まい費用(家賃)1坪当たり12,000円が提示された。(マスコミ報道より)
[7] 建物の区分所有等に関する法律