◇SH1351◇特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(3) 渡邉雅之(2017/08/22)

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特定複合観光施設区域整備推進会議の取りまとめについて(3)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之

 

6 世界最高水準の規制②(依存防止対策、青少年の健全育成)(Ⅳ.世界最高水準の規制②:弊害防止対策)

(1) 依存防止対策、青少年の健全育成の考え方

  1. ア 推進法・附帯決議
    推進法では依存防止策に関して、以下の規定が設けられている。

    1.  • 「広告及び宣伝の規制に関する事項」について必要な措置を講ずる(第10条第1項第6号)
    2.  • 「カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴いギャンブル依存症等の悪影響を受けることを防止するために必要な措置」を講ずる(第10条第1項第8号)
    3.  • 「カジノ施設に入場することができる者の範囲の設定その他のカジノ施設への入場に関し必要な措置」を講ずる(第10条第2項)
    4.  • 「国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする」(第13条)
  2.   附帯決議第8項では、「依存症予防等の観点から、カジノには厳格な入場規制を導入すること。その際、自己排除、家族排除プログラムの導入、入場料の徴収等、諸外国におけるカジノ入場規制の在り方やその実効性等を十分考慮し、我が国にふさわしい、清廉なカジノ運営に資する法制上の措置を講ずること」とされている。
  3. イ 依存防止対策、青少年の健全育成の考え方
    カジノ行為への依存防止対策としては、ⅰ) ゲーミングに触れる機会の限定、ⅱ) 誘客時の規制、ⅲ) 厳格な入場規制、ⅳ) カジノ施設内での規制、ⅴ) 相談・治療につなげる取組(相談窓口の設置等まで、重層的/多段階的な取組を制度的に整備することが検討されている。

ⅰ)ゲーミングに触れる機会の限定

  1. ・ IRの区域数の限定(4(7))
  2. ・ カジノ施設の数(5(5)ウ)
  3. ・ カジノ施設の規模の上限等の設定(5(5)ア)
  4. ・ オンラインカジノの禁止(5(6)ア)

ⅱ)誘客時の規制

  1. ・ 広告・勧誘規制
  2. ・ コンプ規制

ⅲ)厳格な入場規制

  1. ・ 入場回数の制限
  2. ・ カジノ管理委員会による一元把握
  3. ・ マイナンバーカードを活用した本人確認措置

ⅳ)カジノ施設内での規制

  1. ・ カジノ行為に関する規制(著しく射幸心をあおることの禁止)(5(6)ア)
  2. ・ 貸付規制(5(6)イ)
  3. ・ ATMの設置に関する規制(5(6)イ)

ⅴ)相談・治療につなげる取組

  1. ・ 相談窓口の設置
  2. ・ 本人・家族申告による利用制限
  1.   また、青少年の健全育成については、未成年者が特に保護の要請が強いことも踏まえ、広告・勧誘及び入場規制の観点から検討を行っている。

 

(2) 広告・勧誘の制限

  1. ア 考え方
    また、カジノ事業に関する広告・勧誘の内容、場所、方法等によっては、カジノ行為への依存を助長し、通常の社会的生活を困難とさせたり、成長過程にある青少年の心身に有害な影響を与えたりするなど、人の心身・財産に対して重大な支障を及ぼすおそれがある。
    このため、広告その他の表示に広く適用される不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)よりも、一段と強い規制をかけることが必要である。
    なお、公営競技においては、事業者に対する規制はなく、専らメディアによる自主規制に委ねられているが、当然ながらそのような規制では不十分である。
  2. イ 広告・勧誘の内容・場所等に関する制限
    不適切な内容の広告・勧誘を確実に排除するため、「何人」に対しても、カジノ事業に関して以下の表示・説明を禁止すべきである。
    1. ⅰ) 虚偽・誇大な表示・説明
    2. ⅱ) 客観的な事実であることを証明することができない表示・説明
    3. ⅲ) 善良の風俗・清浄な風俗環境を害するおそれのある表示・説明
  3.   また、「何人」に対しても、IR 区域以外の地域では、カジノ事業に関する看板・ポスター等の広告物の設置やビラ等の頒布を原則として禁止すべきである。
    「何人」規制は、これに違反した者に対して、刑事罰が課されることが想定されている。
  4. ウ 未成年者に対する広告・勧誘の制限
    「何人」に対しても、20歳未満の者に対しては、IR 区域の内外に関わらず、カジノ事業に関するビラ等の頒布や勧誘を禁止すべきである。
  5. エ 再勧誘の禁止
    「何人」に対しても、相手方がカジノ施設を利用しない旨の意思を表示したときの再勧誘を禁止すべきである。
  6. オ カジノ管理委員会による広告勧誘指針の作成・公表
    「何人」に対しても、テレビ、インターネット等を含む全ての媒体において、カジノ事業に関する広告・勧誘の方法が適切なものとなるよう努力義務を課すべきである。また、この際、万全な対策を確保するため、たばこ事業法を参考に、カジノ管理委員会は、広告・勧誘に関する指針を作成・公表できることとすべきである。
  7. カ 広告・勧誘を行う者に対する一定の表示・説明の義務付け
    「何人」に対しても、カジノ事業に関する広告や勧誘を行う場合は、カジノ施設の利用と依存症との関係に注意を促す内容や 20歳未満の者の入場禁止について表示や説明を義務付けるべきである。

 

(3) コンプに関する規制

 諸外国のカジノ事業においては、顧客の勧誘・ゲーミングの促進手段として、顧客のカジノの利用に応じ、「コンプ」(complimentary)と呼ばれる多種多様な物品やサービス等を提供することが一般的な商慣習となっている。

 具体的には、カジノ事業者は、カジノの利用状況に応じて、特定のステータスを付与し、それに応じた割引(ホテル・美術館等)や専用のサービス(優先予約・利用、送迎等)を提供すること等を行っている。

 また、これらのコンプの中には、カジノ事業者自身が提供するものだけでなく、事業者と提携した他の事業者がその営業に関して顧客に付与し、カジノのゲーミングで利用できるもの(IR と提携するショッピングモールでの買い物によるポイント獲得等)もある。

 IR施設内において提供を受けるものをインサイド・コンプ(無償でのホテルの宿泊等)、IR施設外において提供を受けるものをアウトサイド・コンプ(航空機代の引き受け等)とも言う。

 依存防止策としてのコンプ規制としては以下のものが検討された。

  1.  • カジノ事業者に対して、カジノ施設の過度な利用を誘発するような高額のコンプの提供や、善良の風俗を害するおそれがある提供方法によるコンプの提供を禁止すべきである。
  2.  • カジノ事業者に対して、コンプの適切な提供を確保するため、コンプを提供した日時や顧客の氏名、コンプの金額・内容等について記録作成・保存義務を課すべきである。これは、米国ネバダ州やシンガポールにおいても設けられている規制である。
  3.  • コンプは景品表示法に基づく景品類に該当し得ることから、同法の適用関係の整理が必要である。景品表示法の告示(「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和 52 年公正取引委員会告示第5号))では、一般消費者に対して懸賞によらないで提供する景品類の価額を、景品類の提供に係る取引の価額の 10 分の2の金額(当該金額が 1000円未満の場合にあっては、200 円)の範囲内とすることを定めている。

 なお、諸外国では、VIP誘致のためのコンプについて損金算入の扱いが認められており、我が国においても同様の税法上の措置がなされることが求められる。

 

(4) 入場回数の制限

  1. ア 入場回数制限の導入と考え方
    推進法10条2項は、外国人旅行客以外の者について、一律にカジノ施設の入場を禁止することとはせず、カジノ施設の利用による悪影響を防止する観点から、カジノ施設への入場が可能な者の範囲を設定することを求めている。
    入場回数は、カジノ施設への入場に当たって本人確認を厳格に行うことにより、客観的に把握できる指標である。
    一般論として入場回数が多くなるにつれて、依存が進むリスクがなると考えられる。依存防止の観点からは、IR区域の数やカジノ施設の数・規模を限定した上で、さらに顧客に対して常態的にカジノ施設に入場できる環境を創らない(常態的にカジノ行為に触れさせない)ことが必要かつ効果的である。
    入場回数制限としては、韓国では、(韓国国民が唯一入場できるカンウォンランドカジノにおいて、)事業者による自主的措置として、1か月の入場回数が15を超えた者は、その月の月末までカジノ施設への入場が禁止されている。入場管理方法としては、シンガポールにおいては、カジノに入場ゲートを設け、NRIC(国民及び永住者一人一人に固有の番号を付与しているところ、当該番号、顔写真、氏名、生年月日、住所等が記載されたカード)を活用して本人確認を行い、入場管理を行っている。また、我が国の既存の公営競技においては、競技実施回数を多段階で規制しており、最も細かな規制が課されている競艇においては、競走場ごとに「年間の開催回数」、「月間の開催回数」、「1回の開催日数」、「1日の競走回数」について規制している。
    そこで、カジノ施設へのアクセスが比較的容易である日本人及び国内居住の外国人に対して入場回数制限を設け、常態的にカジノ施設に入場できる環境をつくらないことが適切である。外国人旅行客には、入場回数制限は設けることは想定していない。
    カジノ施設への入場回数制限については、一か月程度の長期間における回数制限と、一週間程度の短期間における回数制限を組み合わせて設けるべきであり、具体的な制限値については、諸外国の例も踏まえ検討すべきである。また、入場回数については、24時間以内を「1回」と数えることとすべきである。
    入場回数制限については、IR事業者の事業性にも影響するとして、推進派においても異論が多い論点の一つである。本取りまとめでは、1か月、1週間の入場回数が示されていないが、実施法(又は政令等)において回数がどのように設定されるかが注目される。
  2. イ カジノ管理委員会による入場回数情報の一元的な把握
    日本国内の複数の IR施設にそれぞれカジノ施設が設置されることを前提にすると、入場回数制限の実効性を確保するためには、複数のカジノ施設への入場回数を一元的に把握し、かつ、新たな入場の可否を判断できる仕組みが必要である。
    他方で、事業者間でこの種の個人情報を共有する制度設計とすることは適当ではないため、カジノ管理委員会が顧客の入場回数を一元的に把握し、事業者からの照会に対応するという制度設計にならざるを得ない。
    そこで、カジノ管理委員会は、顧客のカジノ施設への入場状況を把握し、事業者の照会に応じることとすべきである。
    なお、依存防止の観点から、入場回数に関する顧客へのフィードバックを行い、自身の入場頻度を認識させることも考えられるが、個人情報保護の観点等を含め、要否・方法について引き続き検討を行うこととされた。
  3. ウ マイナンバーカードを活用した本人確認措置
    附帯決議第9項は、入場規制の制度設計に当たって、個人番号カード(いわゆるマイナンバーカード)の活用を検討することを求めている。
    マイナンバーカードは、 ①本人特定事項である氏名や住所、生年月日、顔写真が記載されていること(券面の顔写真と所持人の顔を照合し、同一性を確認することで、なりすましを防止することが可能。)、②公的機関が発行する書面で、国民が容易に入手できること、③特定の個人について一貫して最新の情報を確認することができること、から本人確認手段として優れている。
    他方で、マイナンバーカードに記載されているマイナンバーそのものは、行政機関のみが利用可能であり、民間事業者は利用することができない。しかし、この点、マイナンバーカードのICチップに格納されている電子証明書を用いた公的個人認証(JPKI)は、民間事業者も使用することができ、カジノ管理委員会と事業者とでこれを活用し、統一的に入場回数を把握することができる。
    そこで、日本人及び国内居住の外国人については、マイナンバーカードの公的個人認証を活用して本人確認を行い、入場回数の把握・照会制度を設けるべきとされた。
    なお、外国人旅行客等のマイナンバーカードを制度上取得できない者については、パスポート等の写真付きの公的書面で本人確認を行うことが適当である。上記①のとおり、外国人旅行客には入場回数制限が設けることは想定していない。
    マイナンバーカードの普及率は、2017年5月15日現在で9.0%[1]である。この普及率を踏まえると、IR事業者の事業性に大きく影響し、「マイナンバーカードを使用して入場管理を行うことは現実的ではないのではないか」との意見が多い。
    この点については、本人確認の代替手段として、運転免許証等の顔写真付身分証明書も認めるべきではないかとの意見もある。もっとも、マイナンバーカードの公的個人認証を用いて、本人確認を行うからこそ、カジノ管理委員会が、複数のIR施設間のカジノ施設の入場回数を一元的に名寄せして管理することができるのであり、運転免許証でこれを行うのは困難であろう。したがって、運転免許証等を用いた本人確認の代替手段を広く認めるのは困難ではないかと考える。ただし、初回のカジノ施設への入場に限って運転免許証等の顔写真付身分証明書を容認し、2回目以降はマイナンバーカードが無ければ入場できないという方法はあるかもしれない。この場合は、カジノ管理委員会による一元管理はできないので、IR事業者において、マイナンバーカードがない顧客について一度入場した顧客か否かを把握するシステムを構築しなければならなくなる。
    筆者のアイディアではあるが、カジノ施設の外に、全国の市区町村の出張所を設置し、そこで、通知カードがあればマイナンバーカードをすぐに発行することができるようにするのも一案ではないかと思われる。
    IR施設の営業が開始するのが2025年前後であることに鑑みると、その前後までには今よりもマイナンバーカードの普及率は上がっているだろう。より抜本的に、競馬や競輪のような公営競技場への入場、遊戯であるパチンコ・パチスロ店への入場についても、依存防止策の一環として、マイナンバーカードによる本人確認を義務づければ、マイナンバーカードの普及率は格段に上がるものと考えられる(もちろん、これらの業界からの大反対は想定できるが・・・)。
    IR施設への宿泊者に対しては、カジノ施設への入場についてマイナンバーカードが必要となることについて周知徹底しておくことが必要だろう。そうでなければ、カジノ施設に行くことを目的として、折角、IR施設内のホテルに宿泊をしたのに行けなかったとの重苦情になってしまう可能性がある。

 

(5) 入場料の賦課等

  1. ア 推進法
    推進法13条においては、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるとされている。
  2. イ 諸外国のカジノの入場料
    シンガポールでは、シンガポール国民及び外国人永住者から入場料を徴収することとされている。24時間100シンガポールドル(約8,000円)、1年間2,000シンガポールドル(約16万円)である。
    韓国では、韓国国民が唯一入場できるカンウォンランドカジノにおいて、韓国国民から9,000ウォン(約900円)の入場料を徴収することとされている。
  3. ウ 制度設計の方向性
  4.  ①入場料の賦課
    依存症対策としての入場料の効果についての科学的知見は必ずしも確立されていない。しかしながら、入場料を賦課することにより、
    1. ・入場料を徴収する際に、入場回数制限のための本人確認を確実に行えること
    2. ・カジノ施設への安易な入場を抑止できること
    3. ・徴収した入場料を公益目的に還元できること
  5.   といった制度的なメリットがあることから、カジノ施設への入場者に対し、入場料を賦課することとすべきである。
    また、賦課対象はカジノ施設への安易な入場を抑止する観点で、IR への来場が頻繁になりうる日本人及び国内居住の外国人とし、1日(24 時間)単位で入場料を賦課することとすべきである。
  6.  ②入場料賦課の水準
    また、その水準については、安易な入場抑止を図りつつ、日本人利用客等に過剰な負担とならないよう、金額を定めるべきである。
    筆者としては、入場料そのものが依存防止策に資するか疑問であることに鑑みると、シンガポール並みの入場料(8000円~1万円程度)は高過ぎであり、映画館や水族館の入場並み(2000円~3000円程度)が妥当であると考える。
    なお、使途は一般財源として公益目的に用いることとすべきである。
  7. エ 入場料に関する議論
    本委員会においては、「入場料の設定は、誘致のリスクも含め地域に責任を持たせても良いのではないか。」、「入場料の金額については、地域に裁量・柔軟性を持たせ、日本人の依存への懸念等、地域の実情に応じて地方自治体と IR 事業者が合意した金額で入場料を設定することも可能とすべき。入場料を法定する場合には、高く設定してはどうか。」との一部の委員の意見もあった。
    しかしながら、推進法の主目的はあくまで国レベルでの国際競争力の高い滞在型観光の実現であり、入場料についても認定された都道府県等の完全に自由とするのは妥当ではない。海外のIR・カジノ施設よりも高額な入場料を徴収することとすれば、我が国のIRの国際競争力を阻害することになってします。
    そもそも、地方公共団体が入場料を自由に決定できるとすると、場合によっては非常に高い法外な入場料を設定することも考えられ、事実上日本人や国内居住の外国人が入場できないことになり、憲法14条の法の下の平等の原則や(日本人や国内居住の外国人の入場を制限していない)推進法の考え方に反するおそれがある。

 

(6) 事業者が実施する依存防止措置

 カジノ行為への依存を防止するためには、国による依存防止のための措置に加え、事業者が取り組むべき依存防止措置を義務付けることが重要である。シンガポール等の諸外国の例を参考に、以下の事項を事業者に対して義務付けるべきである。

  1. ア 相談窓口の設置等
    利用者の適切な判断を助けるため、依存症に関する相談窓口の設置、適切な情報提供(パンフレット等の配布)等の実施。
  2. イ 本人・家族申告による利用制限措置
    止めたくても止められないという依存症の実態を踏まえ、本人・家族申告により利用を制限する措置(申告対象者への勧誘等の制限を含む。)の実施。
  3. ウ 内部管理体制の整備
  4.  ①依存防止規程の作成
    依存防止措置を事業者に徹底させるため、依存症防止のための内部管理規程(依存防止規程)の作成を事業者に義務付け、カジノ事業免許申請時の審査事項と位置付け。
  5.  ②従業者への教育訓練等
    従業者が依存防止措置の趣旨・内容について十分に理解・習熟している態勢を整えるため、従業者への教育訓練等の実施。
  6.  ③実施体制の整備
    依存防止措置の的確な実施、その継続的な運用及び改善を図るため、経営陣の中に依存防止措置を統括管理する者を選任するなどの措置を実施。
  7.  ④監査体制の整備
    依存防止措置が適正に行われることを確保するため依存防止措置の責任者から独立した立場で依存防止措置を監査する者を選任するなどの措置を実施。
  8.  ⑤自己評価の実施
    依存防止措置に関して事業者自身が PDCA サイクルを回し、取組を不断に見直していくことを確保するため、自己評価を実施。
  9.  ⑥記録の作成・保存
    依存防止措置が的確に実施されていることの確認や措置の改善に資するため、依存防止措置に関する記録を作成・保存。
  10. エ カジノ管理委員会への報告義務
    カジノ事業者の取組が適切かつ十分なものかをカジノ管理委員会が確実に把握・監督するため、事業者の自己評価及び監査の結果について、その都度カジノ管理委員会に報告。

 

(7) 青少年の健全育成

 「何人」に対しても、20 歳未満の者に対しては、IR 区域の内外に関わらず、カジノ事業に関するビラ等の頒布や勧誘を禁止すべきである。(上記(2)ウ)

 また、20 歳未満の者については、カジノ施設への入場を禁止すべきである。

 これは、公営競技においては、未成年者(20 歳未満の者)の投票券の購入が禁止され、これに違反して販売した者等への罰則が設けられており、スポーツ振興くじにおいても 19 歳未満の者について、同様の規定が設けられていることや、諸外国においても、年少者へのカジノ施設への入場等が禁止されていることを参考にしたものである。

 なお、シンガポールでは、未成年者がカジノ施設に入場した場合には、刑事罰が課されるが、我が国においては、未成年者は保護の対象であるので刑事罰の対象とするのは困難であろう。

 

7 世界最高水準の規制②(マネー・ローンダリング対策、暴力団員の入場禁止等)(Ⅳ.世界最高水準の規制②:弊害防止対策)

(1) 暴力団員等の入場禁止

  1. ア 暴力団員の入場を排除する必要性
    マネー・ローンダリングの防止その他の不正な行為を防止し、カジノ事業の健全な運営を確保するためには、不適格者を確実に排除する必要がある。とりわけ、暴力団員は、賭博を始めとする不法行為を資金源としたり、マネー・ローンダリング等の違法行為を組織的・常習的に行ったりするおそれがあるほか、従業員や他の顧客を畏怖させて安全にカジノ行為に興じる環境を損なうおそれがあることから、公益目的のために特別に設置を認めるがゆえに健全性の確保の要請が強いカジノ施設への入場から排除する必要性は高い。
    また、カジノ事業において行われるカジノ行為は、事業者と顧客が対等な立場で勝負をするものであるところ、カジノ事業者の従事者については暴力団員を排除していることから、事業の健全な運営を確保するためには、事業者の従事者と対等な立場でカジノ行為に参加する顧客からも暴力団員を排除する必要がある。
    本取りまとめには記載されていないが、暴力団の資金がマネー・ローンダリングに利用するためにカジノ施設内に流入することを防止する点でも暴力団員の入場を排除する必要性がある。
  2. イ 入場禁止による暴力団員の不利益の程度の低さ
    暴力団員の入場を禁止することにより、暴力団員は、カジノ行為を行うことができなくなるが、カジノ行為を行うことは社会生活上必要不可欠なものではない。また、刑法により禁じられるカジノ事業が公益のために認められることに伴って反射的に可能になるにすぎず、現行法上できない賭博行為を、引き続きできないということにとどまるものであって、不利益の程度は小さい。加えて、暴力団員は、自己の意思で暴力団を脱退することも可能である。
  3. ウ 現行の暴力団員排除措置(約款)の限界
    従来、暴力団員の施設利用(ゴルフ場の利用等)からの排除は、約款によって行われてきたところであるが、このような措置を講じても、あくまで民・民の関係で規律することにとどまり、暴力団員であることを秘して入場しようとする者を事業者が直ちに判別できないこともあって、暴力団員が施設を利用しようとする例は後を絶たない。
    高額の金銭を得られたり、マネー・ローンダリングに利用し得るというカジノ事業の性質を踏まえると、暴力団員がカジノ施設への入場を試みる蓋然性がゴルフ場等他の施設に比べて高くなると考えられる以上、違反に対する公的な制裁がなく民・民の関係での規律にとどまる約款による排除のみでは、徹底した排除が期待できない。
  4. エ 制度設計の方向性
  5.  ①暴力団員を入場させないカジノ事業者の義務
    法令により、暴力団員をカジノ施設に入場させない義務をカジノ事業者に課すべきである。
    「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)や各都道府県の暴力団排除条例により、IR事業者は、反社会的勢力に対してカジノ施設に入場をさせてプレーをさせること自体が認められないので、かかる義務を法定化すること自体は許容されると考えられる。
    もっとも、IR事業者が暴力団員情報を完全に保有することは事実上不可能であるので、事前に顧客が暴力団員に該当する情報を保有していなかった場合に、結果責任を問うのは酷である。
    そこで、IR事業者が自社のデータベースにおいて、事前に暴力団員の情報を登録しているにもかかわらず、故意または重過失でこれを見逃した場合にのみ、これに違反し、行政処分等の対象となることとすべきである。
  6.  ②暴力団員の入場禁止義務
    法令により、暴力団員本人に入場してはならない義務を課すべきである。
    「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や各都道府県の暴力団排除条例により、IR事業者は、反社会的勢力に対してカジノ施設に入場をさせてプレーをさせること自体が認められない。
    その観点で、暴力団員自体に対しても入場禁止義務を課し、これに違反する場合は刑事罰の対象とするのが妥当。
    暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であるので、このような義務を課しても法の下の平等(憲法14条)に違反することはないと考えられる(最高裁平成27年3月27日市営住宅契約解除判決)。
    また、「暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者」についても、貸金業法等の登録拒否要件とされていることに鑑みれば入場禁止義務の対象とすべきであろう。このような要件であれば、構成要件の明確性(罪刑法定主義)にも反しないと考えられる。
    「暴力団関係者」といった周辺者については、構成要件の明確性の観点から入場禁止義務を課すのは困難であろう。
  7.  ③入場者による暴力団員等でないことの表明措置
    カジノ施設への全ての入場者に暴力団員や反社会的勢力の者等でない旨を表明する措置等を導入すべきである。
    カジノ施設利用約款の中においては、反社会的勢力排除条項が規定されることが予定されている。
    しかしながら、暴力団員がゴルフ場でプレーした際に、利用約款に反社会的勢力排除条項を規定しているだけでは、詐欺罪が成立しないとした最高裁判決がある(最判平成26年3月28日)ことに鑑みると、反社会的勢力ではないことの誓約書を入場者から徴求することが求められる。
    「全ての」としているのは、日本人や国内居住の外国人だけでなく、外国人観光客も対象とする趣旨である。外国人観光客も暴力団からの資金を用いてカジノ施設内に入場する可能性がある(いわゆる共生者として反社会的勢力に該当する。)。したがって、外国人観光客に対しても反社会的勢力は入場できないことを認識させる必要があり、日本人と同様に誓約書を徴求する必要がある。その観点で、多言語での誓約書を用意する必要があるだろう。
    反社会的勢力でないことを誓約させることで、ゴルフ施設の入場禁止と同様に、事後的に刑法上の詐欺罪(同法246条)で告発することにより、反社会的勢力の入場を予防することが可能となる。暴力団員については、上記②の「暴力団員の入場禁止義務」による刑事罰も課されるが、刑法上の観念的競合(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合)(刑法54条1項前段)に該当する。
    カジノ施設の入口付近には、多言語で反社会的勢力入場禁止の掲示をすべきであろう。

誓約書

                        平成●年●月●日  

                            ●● ●●  

 (1) 私は、現在、次の各号の者(以下「暴力団等」と総称します。)に該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約いたします。

  1. ① 暴力団
  2. ② 暴力団員
  3. ③ 暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
  4. ④ 暴力団準構成員
  5. ⑤ 暴力団関係企業
  6. ⑥ 総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等
  7. ⑦ その他前各号に準ずる者

 (2) 私は、現在、次の各号に該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約いたします。

  1. ① 暴力団等が経営を支配していること
  2. ② 暴力団等が経営に実質的に関与していること
  3. ③ 自己、自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団等を利用していること
  4. ④ 暴力団等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていること
  5. ⑤ 暴力団等との社会的に非難されるべき関係を有すること

 (3) 私は、自らまたは第三者を利用して次の各号の行為を行わないことを確約いたします。

  1. ① 暴力的な要求行為
  2. ② 法的な責任を超えた不当な要求行為
  3. ③ 取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
  4. ④ 風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて貴社の信用を毀損し、または貴社の業務を妨害する行為
  5. ⑤ その他前各号に準ずる行為
  1. ウ 反社会的勢力の情報について
    上記イ①~③のように、事業者に暴力団員を入場させない義務、暴力団員の入場禁止義務、入場者による暴力団員等でないことの表明措置を課すことにより、暴力団員等がカジノ施設内への入場を抑止する効果が期待できる。
    しかしながら、暴力団員等の入場を完全に防ぐことはできない。
    そこで、反社会的勢力の情報把握については、「自助・共助・公助」の考え方が重要である。
    IR事業者(カジノ事業者)としては、反社会的勢力のデータベースを構築して暴力団員等の入場を排除する必要がある(自助)。
    VIP顧客がフロントマネーやクレジットラインを設定する際には必ず、事前に反社データベースとの照合が必要である。金融機関の口座を介して取引をする顧客(上記5(6)イ)については、当該金融機関の反社会的勢力のデータベースも利用できる。
    一般顧客についても、可能な限り、入場時に反社データベースとの照合が即時にできるようなシステムを導入されることが望ましい。仮にこれが、実務上不可能である場合(照合に時間がかかってしまう場合)でも、事後的に全顧客について照合をすべきである。事後に判明した場合は、暴力団員については実施法上の入場禁止義務と刑法の詐欺罪による告発をし、暴力団員以外の関係者については詐欺罪で告発をすることが考えられる。
    また、2~3設立されるIR事業者間で反社情報を共有することが望まれる(共助)。反社会的勢力に関する情報の共有は個人情報保護法23条1項2号の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当するものとして許容されるところである。同法のガイドラインである「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」においても、「事業者間において、不正対策等のために、暴力団等の反社会的勢力情報、意図的に業務妨害を行う者の情報のうち、過去に業務妨害罪で逮捕された事実等の情報について共有する場合」が認められている。
    さらに、自社の反社データベースでは限界があるため、警察からの暴力団員情報が必要となるが、IR事業者間で「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」上の「不当要求情報管理機関」に該当する団体を設立し、警察の支援を受け易くするのが望まれる(公助)。競馬事業団体においては競馬保安協会を「不当要求情報管理機関」としている。
    この点、証券会社においては、日本証券会社のシステムを介して、警察庁が暴力団員の情報をデータベースに照会を求める「反社情報照会システム」が導入されている。
    証券会社担当者が証券口座開設申込者の「氏名」「生年月日」を専用端末から日本証券業協会へ送ると、同協会は①新聞記事等から収集した独自データベース、②暴力団追放運動推進センターのデータベース、③警察庁データベースという3つの情報源にアクセスして照合し、暴力団関係者に該当する可能性があるか否かを回答する。顧客窓口から1件ごとに照会をかける方法のほか、本部でまとめて照会する方法、日本証券業協会が照会業務を代行する方法も可能とされている。
    また、銀行業界においても、カードローンや住宅ローン等について、預金保険機構を介して、警察庁の暴力団情報照会システムへの接続が認められることになる。
    IR事業者においても、証券業界や銀行業界と同様に、設立した「不当要求情報管理機関」を介して、警察データベースと直結をすることも考えられる。
    しかしながら、証券業界・銀行業界のいずれにおいても、警察情報を即時に得られるわけではなく、一定の時間がかかってしまう。銀行業界ではカードローンの即時発行がはやりであるが、警察データベースへの直結によりこれが廃止される予定である。
    以上に鑑みれば、警察データベースとの直結について過度の期待はしない方がよいと考えられる。

 

(2) 犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認等の義務付け及びその上乗せ

  1. ア 推進法・附帯決議
    推進法10条1項2号では、「カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物の適正な利用に関する事項」として、政府がマネー・ローンダリングに関する措置を設けることを規定している。
    附帯決議第12項では、「カジノにおけるマネー・ローンダリングの防止を徹底する観点から、第7項の事業主体の廉潔性を確保するための措置、第8項及び第9項のカジノへの厳格な入場規制を導入するための措置、第11項の世界最高水準の厳格なカジノ営業規制を構築するための措置に加え、マネー・ローンダリング対策に関する国際基準であるFATF勧告に適切に対応するため、諸外国の規制の現状等を踏まえつつ、カジノの顧客の取引時確認、確認記録の作成・保存、疑わしい取引の届出等について、罰則を含む必要かつ厳格な措置を講ずること。また、カジノにおけるマネー・ローンダリングの防止を徹底する観点から、厳格な税の執行を確保すること。」と規定されている。
  2. イ 規制の考え方
    現在、我が国では、FATF[2]12勧告に規定されたマネー・ローンダリング対策(顧客の本人確認(取引時確認)、取引記録の作成・保存、疑わしい取引の届出等)については、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下「犯罪収益移転防止法」という。)において対応し、FATF 勧告により対策を講じることとされた事業者に対して、これらの措置を義務付けている。
    カジノ事業についても、マネー・ローンダリング対策のため、犯罪収益移転防止法に基づき、同様の規制を行うほか、同法を超える措置を検討する必要がある。
  3. ウ 取引時確認、取引記録の作成・保存等
    カジノ事業に係るマネー・ローンダリングを防止するため、犯罪収益移転防止法の枠組みの下で、現金とチップの交換のほか、賭け金の預かりや貸付け等の金融業務における取引等一定の取引について、FATF 勧告を踏まえて一定の閾値以上の取引の取引時確認や取引記録の作成・保存等を義務付けるべきである。
    取引時確認が必要となる取引としては以下のものが想定される。

    1. ◇ 現金をチップと交換する場面(FATFの推奨は3000米ドル)
    2. ◇ チップを現金と交換する場面(FATFの推奨は3000米ドル)
    3. ◇ フロント・マネー(預託金勘定)を設定する場面
    4. ◇ クレジット・ライン(与信枠)を設定する場面
  4.   なお、犯罪収益移転防止法では、取引時確認済みの顧客については、確認済みの確認のみ(同法4条3項)を行うことが許容されているが、1回毎、取引時確認をさせるべきである。
    取引時確認における本人特定事項(氏名、住居、生年月日)の確認のための本人確認書類は顔写真付のものに限定される。日本のカジノ施設では、入場時に日本人・永住者については個人番号カード、外国人観光客等についてはパスポートが提示が求められるので本人確認書類もこれらが想定される。
  5. エ 疑わしい取引の届出
    犯罪収益移転防止法の枠組みの下、カジノ事業における現金とチップの交換等の一定の取引について、疑わしい取引に関してカジノ管理委員会への届出を義務付けるべきである。
  6. オ 一定額以上の現金取引の届出
    カジノ事業は、現金取引を原則とし、1年を通じて多額の現金とチップの交換等が頻繁に行われること等から、マネー・ローンダリングのリスクが高いという特性に鑑み、諸外国の規制を参考にして、犯罪収益移転防止法の枠組みに上乗せして、一定額以上の全ての現金取引についてカジノ管理委員会への届出(CTR:Cash Transaction Report)を義務付けるべきである。

報告の種類

米国/ネバダ州

金融犯罪取締ネットワーク
(FinCEN)

シンガポール

CRAS/商務省
(シンガポール警察)

日本

カジノ管理委員会/警察庁
(JAFIC)

高額取引報告と
最低限度額

  1. ■ 通貨取引報告(CTR)
  2. ■ US$10,000以上
  1. ■ 現金取引報告
  2. ■ S$10,000(US$7,269)
  1. ■ 犯収法においては取引時確認と確認記録の作成・保存義務
  2. ■ 高額取引報告義務なし

疑わしい取引の
報告と最低限度額

  1. ■ カジノによる疑わしい活動の報告(SAR)
  2. ■ US$5,000以上
  1. ■ 疑わしい取引の報告(STR)
  2. ■ 最低限度額なし
  1. ■ 疑わしい取引の届出
  2. ■ 最低限度額なし

 

(3) チップ等の規制・監視

  1. ア 規制の考え方
    カジノ施設において、チップやバウチャー(以下「チップ等」という。)は現金同等物であり、等価の現金と交換されるものであるため、チップ等の譲渡により、実質的には現金の移転が行われることとなる。このため、犯罪収益の移転を適切に防止するためには、チップ等の譲渡についても一定の規制を行う必要がある。
    また、カジノ施設外でのチップ等の譲渡にはカジノ事業者の監視が及び難く、これによるマネー・ローンダリングを阻止し難いことに鑑みれば、そもそもチップ等の持ち出し行為自体を規制する必要がある。
  2. イ カジノ施設内での顧客間のチップ等の譲渡の規制
    カジノ施設内での顧客間のチップ等の譲渡については、犯罪収益の譲渡を容易にする行為であるほか、依存症予防のための与信規制等を潜脱する行為であることから、原則として禁止とする日本独自の規制を導入すべきである。
  3. ウ カジノ施設外へのチップ等の持ち出しの規制
    カジノ施設外へのチップ等の持ち出しについては、犯罪収益の移転を容易にする行為であるほか、チップ等の偽造を容易にする行為でもあることから、禁止すべきである。
  4. エ 規制の執行のための措置
    上記のチップ等の譲渡規制及び持ち出し規制の実効性を確保するため、
    1.  • カジノ施設利用約款において、チップ等の譲渡やカジノ施設外への持ち出しを禁じる旨を規定すること
    2.  • 入退場ゲートやカジノ施設内に、チップ等の譲渡やカジノ施設外への持ち出しを禁じる旨を表示させること
    3.  • 監視カメラや従業員による巡回警備等を通じて、チップ等の譲渡やカジノ施設外への持ち出しが行われないよう監視を行うこと
  5.   等の措置を講じることを義務付けるべきである。
    また、上記規制を技術的に担保するため、入退場ゲートで反応するICタグを内蔵するなどの機能上の規制を設けることを検討すべきである。

 

(4) 事業者が実施するマネー・ローンダリング対策

  1. ア 規制の考え方
    FATF 勧告や諸外国においても、カジノ事業者に対して、マネー・ローンダリング対策上、万全の内部管理体制を構築することを求めている。カジノ事業者は、マネー・ローンダリング対策上、いわば「最終ゲートキーパー」とも位置付けられるものであり、自主的な取組を含め、事業者自身による「水も漏らさぬ取組」が求められる。
  2. イ 万全の内部管理体制の整備の具体的内容
    万全の内部管理体制としては、具体的には以下の措置を講ずることが求められる。
    1. ① 取引時確認をした事項に係る情報(取引相手の本人特定事項等)の随時更新のための措置
    2. ② 従業者の教育訓練の実施
    3. ③ マネー・ローンダリング対策の統括管理者の設置等の対策実施体制の整備
    4. ④ マネー・ローンダリング対策を監査する者の設置等の監査体制の整備
    5. ⑤ マネー・ローンダリング対策に係る自己評価・内部監査の実施
    6. ⑥ 上記の事項に関する具体的要領等を定める業務マニュアルとしての「内部管理規程」を作成させ、カジノ管理委員会が免許申請時等において審査
  3. ウ 犯罪収益移転防止法による義務からの上乗せ
    犯罪収益移転防止法では、内部管理体制の整備は努力義務にとどまっている(同法11条)が、カジノ事業におけるマネー・ローンダリング対策の重要性に鑑み、カジノ事業者に内部管理体制の整備を例外なく義務付けるべきである。
  4. エ FATF勧告で求められる措置や諸外国における規制の例からの上乗せ
    カジノ事業者の取組が適切かつ十分なものかをカジノ管理委員会が確実に把握し、監督できるよう、自己評価及び監査の結果(上記イ⑤)について、その都度カジノ管理委員会に報告させるべきである。
  5. オ リスクベース・アプローチ
  6.  ①リスクベース・アプローチの意義
    本取りまとめには記載されていないが、カジノ事業者のマネー・ローンダリング対策に関する内部管理体制の整備は、リスクベース・アプローチにより行われる必要がある。
    リスクベース・アプローチ」とは、事業者がマネー・ローンダリングのリスクに応じて顧客管理措置を講ずることである。事業者がその限られた資源をマネー・ローンダリングの危険性の高い取引に効果的に投入する観点から望ましい。
    FATFが2012年2月に改訂した「40の勧告」では、各国が自国におけるマネー・ローンダリングのリスクを特定・評価することを要請している。国が実施するリスク評価は、事業者が取り扱う各種取引や商品・サービスがマネー・ローンダリング等に悪用されるリスクを国として特定・評価するものである。(国によるリスク評価
    事業者においても、リスクベース・アプローチの考えに基づき、限られた人的・経済的資源をより効率的に活用するため、国によるリスク評価の結果を踏まえ、自らリスク評価を行い、法令に定められた義務に加えて、取引形態や顧客、商品・サービス等のリスクに応じて、自主的な措置を講じることは、マネー・ローンダリング等の防止にとって有益である。(事業者によるリスク評価
  7.  ②リスクベース・アプローチによる内部管理体制の整備
    リスクベース・アプローチによるカジノ事業者の内部管理体制の整備は、以下のように行われることが求められる。

リスク評価

国のリスク評価を参考に、顧客の属性、取引の性質、顧客の取引の態様などにより、自社のカジノにおけるリスク評価・リスク低減措置を検討。

AMLコンプライアンスプログラムの策定

リスク評価の結果、顧客管理措置、IR事業者の組織体制、従業員の教育、IT技術、疑わしい取引の届出、監査などに関するプログラム・内部規程を策定。

有能な従業員の採用AMLオフィサーの選定

AMLに関する資格(ACAMS)等を有する有能な職員の採用。

AMLに関する統括管理する責任者の選定。

従業員の教育・訓練

従業員(役員を含む)に対する顧客管理措置の方法やリスク評価の結果に基づくカジノにおける疑わしい取引等に関する教育訓練。

取引モニタリング

リスク評価の結果の結果を活用して定期的に顧客・取引のモニタリングを行う。必要に応じて疑わしい取引の届出をする。

監査

自社のカジノにおける内部管理体制について定期的に内部監査部門または外部監査により検証を行う。検証結果に基づき適宜見直しを行う。(PDCA)

  1.  ③カジノ施設におけるマネー・ローンダリングの手口とリスク評価
    カジノ施設におけるマネー・ローンダリングの手口(疑わしい取引)には以下のようなものがある。
  1. ○ 少額使用・未使用
    この手法は、カジノにおいてチップ等の金銭的価値のあるものを使用してなされるものである。麻薬で得た収益などの犯罪収益をカジノのゲームチップに交換し、ほとんどまたは全くカジノでプレーをしないで、カジノの賞金として現金化または小切手化する手法等である。
  2. ○ ストラクチャリング(敷居値以下の取引による取引時確認の忌避)
    この手法は、多額の金額をカジノにおいて小口の取引に分けて行い、報告義務が課される敷居値以下の取引をする方法である。代理人を用いる場合等もある。エージェントを利用して、チップを現金に交換し、取引時確認を避けることもある。
  3. ○ リファイニング
    マネー・ローンダラーや犯罪組織が、カジノ取引を利用して、犯罪で得た低い額面金額の紙幣を、高い額面金額の紙幣に交換する手法。
  4. ○ 両サイドでの賭け
    複数の者が、テーブルゲーム(赤白など)で、両サイドに同じ金額を賭けるといった手法。
  5. ○ 勝ちゲームの買取り
    スロットマシンやジャックポットの近くで勝ったプレイヤーからチケットを現金で購入する。
  6. ○ 従業員との共謀
    ルーレット等でディーラーと共謀して、結果を操作する。

出所:FATF ”Vulnerabilities of Casinos and Gaming Sector – March 2009”を基に作成

  1.   上記のマネー・ローンダリングの手口について、カジノ事業者は、リスク評価の結果、リスクの高い取引については、リスク低減措置を講じてマネー・ローンダリングのリスクを低減する必要がある。以下はリスク評価の例である。

リスクの高い取引

リスク低減措置

顧客の属性
 ‐ 反社会的勢力
 ‐ VIP顧客
 ‐ PEPs(高位の高官)
 ‐ ハイリスク国の顧客

  1.  • 従業員に対する教育
  2.  • 厳格な取引時確認(VIP顧客・PEPs・ハイリスク国の顧客の場合)
  3.  • 入場の拒否(反社会的勢力の場合)
  4.  • フロントマネー・クレジットライン設置時のPEPsであるか否かの確認
  5.  • 継続的モニタリング

顧客の取引パターン
 ‐ 少額使用・未使用
 ‐ ストラクチャリング
 ‐ リファイニング
 ‐ 両サイドでの賭け
 ‐ 勝ちゲームの買い取り
 ‐ 従業員との共謀

  1.  • 疑わしい取引の可能性のある取引のリスト化
  2.  • 従業員に対する取引手口の教育
  3.  • 取引時確認の実施(疑わしい取引・ストラクチャリングの防止)
  4.  • キャッシュレス・カードシステムの導入(勝ちゲームの買い取りの防止)
  5.  • 厳格な従業員の背面調査(従業員との共謀の防止)
  6.  • 疑わしい取引の届出の積極的な提出
  7.  • 継続的モニタリング(少額使用・未使用の取引、ストラクチャリング)
  1.  ④従業員に対する教育
    高額取引報告・疑わしい取引の報告およびカジノのAMLプログラムに対する継続的な教育はカジノにおける内部管理体制の中でも重要な要素の一つである。
    教育研修用のテキストは定期的にアップデートする必要がある。法令・規制の改正やカジノのプラクティスに変更がある場合には、適宜、当該情報を従業員に提供しなければならない。
    リスク評価の結果、リスクが高いと考えられる取引や疑わしい可能性がある取引・手口について教育する必要がある。
    また、以下の従業員に対しては最低1年に1回は教育をする必要がある。
    1.  • カジノゲーム(テーブルゲーム、ポーカー、ビンゴ)担当従業員
    2.  • カジノマーケティング従業員
    3.  • ケージの従業員
    4.  • 監視担当従業員
    5.  • AMLコンプライアンス従業員
    6.  • 監査担当従業員
    7.  • 上級ゲーミング経営者、取締役、監査委員、コンプライアンス委員
  2.  ⑤カジノにおける取引モニタリング
    コンプライアンスオフィサーは当該カジノにおけるリスク評価によって決められた敷居値を超える取引を事業者内部のデータにより定期的に調査することが求められる。
    コンプライアンスオフィサーは、以下のような事情がある場合には、さらに、外部データベース(PEPs該当性、犯罪の可能性や疑わしビジネス手法に関するレポート、カジノに関する犯罪歴)により、疑わしい取引の届出をする必要性について調査する必要がある。
    1.  • 多額の入金をしたものの、合理的な理由なく(ほとんど又は全くゲームをせず)全く出金をしていない顧客
    2.  • ほとんど入金をしないものの、合理的な理由なく多額の出金をする顧客
    3.  • クレジットカードにより多額の前払があるにもかかわらず、ほとんどプレーをしない顧客
    4.  • 高額取引報告の敷居値のわずかに低い金額の取引(または合算した取引)をする顧客
    5.  • 当該顧客との関係が不明な第三者宛の小切手受取りまたは送金をする顧客
    6.  • 高額取引報告を避けるのが明らかな目的で複数の取引を一定期間を超えて行っている顧客
    7.  • 複数の顧客のために行われる1回の送金による支払い(資金支払元と複数の顧客との関係がカジノには不明な場合)

 

(5) キャッシュレスシステムの導入

 本取りまとめには記載されていないが、カジノ事業者は、カジノ管理システムを前提としたキャッシュレスシステムの導入も検討すべきである。

 現金取引は、現金の移動の流れの把握がほとんどできない。2015年4月より、MGM Resorts InternationalとWynn Resortsは、マネー・ローンダリング対策のため、ポーカーテーブルにおいて現金をチップに交換せずに利用することを禁止した。

 チケット(TITO)やキャッシュレスは、カジノ管理システムが導入されていることを前提としている。さらに、キャッシュレスはプレイヤーカードを利用することを前提とする。

 キャッシュレスはプレイヤーカードを用いて、スロットマシーンにおいて、プレイヤー毎の限度額管理も可能であり、依存防止策にも資する。

 

紙幣

チケット

キャッシュレス

キャッシュインの把握

キャッシュアウトの把握

×

プレイヤーの特定

×


(プレイヤーカード使用時のみ)

マネロン対策



[1] 「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等の公表について(平成29年5月15日現在)」
  (http://www.soumu.go.jp/main_content/000490029.pdf

[2] Financial Action Task Force:国際金融作業部会。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策のための国際基準を策定する多国間の枠組みとして、1989年のアルシュ・サミット経済宣言によって設立。

 

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