◇SH2110◇債権法改正後の民法の未来54 約款・不当条項規制(2) 山本健司(2018/09/28)

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債権法改正後の民法の未来 54
約款・不当条項規制(2)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

1 経過一覧

 法制審議会における「約款」と「不当条項規制」に関する議論の経過は、下記一覧表のとおりである。

会議 開催日等 資料
第11回 H22.6.29 部会資料11、部会資料13
第22回 H23.1.25 部会資料22
第23回 H23.2.8 部会資料22
中間論点整理 H23.4.12決定 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理
第50回 H24.6.26 部会資料42
第51回 H24.7.3 部会資料42
第67回 H25.1.22 部会資料56
中間試案 H25.2.26 民法(債権関係)の改正に関する中間試案
第85回 H26.3.4 部会資料75B
第87回 H26.4.22 部会資料77B
第89回 H26.5.27 部会資料78B
第93回 H26.7.8 部会資料81B
第96回 H26.8.26 部会資料83-1、2
第98回 H27.1.20 部会資料86-1、2
第99回 H27.2.10 部会資料88-1、2
要綱案 H27.2.10決定 民法(債権関係)の改正に関する要綱案

 

2 議論の概要

(1) 第1ステージ

ア 約款

 第1ステージで、「約款」問題は、主として第11回会議(H22.6.29)において、部会資料11の下記のような論点設定のもとに議論がなされた。[1]

 

【 部会資料11 】

 第5 約款(定義及び要件)
  1 総論
  2 約款の定義
    (関連論点)
     (1) 個別の交渉を経て採用された条項について
     (2) 契約の中心部分に関する契約条項について
  3 約款を契約内容とするための要件(約款の組入れ要件)
    (関連論点)
      不意打ち条項について

 第11回会議の「約款」に関する議論では、「約款規定の要否」「定義」について、約款取引の安定性を確保するという観点から約款を契約内容とするための要件(組入要件)等の民事ルールを民法に設けることは必要である等といった意見が述べられた。一方、事業者間契約で用いられている契約書のひな形や労働契約における就業規則に新たな約款規定が及ぶことには反対である等といった意見が述べられた。

 また、「約款の組入要件」について、約款の拘束力も合意に基づくものであるから当事者の組入合意が必要であり、知り得ないものに同意は与えられないから契約時までに約款が相手に開示されていることが必要である等といった意見が述べられた。一方、約款の拘束力を慣習や業法に求められる場合もあるのではないか、約款の開示には大きなコストを要する、相手方には約款を見ない者も多く、約款の開示は実質的な相手方の利益保護には役立たない等といった意見も述べられた。

 さらに、「不意打ち条項」について、契約内容の当不当を問わない不意打ち条項規制は不当条項規制とは別の法理である、相手方が合理的に予測することのできない内容の約款条項(不意打ち条項)は原則的な組入要件を満たす場合でも法的拘束力を否定すべきである等として、立法化に賛成する意見が述べられた。一方、新しい契約手法や新しい契約条項の導入が新しい産業のリスクを軽減し、その育成に寄与するという考え方からは、内容的に問題がなければ法的拘束力を許容すべきである等といった反対意見も述べられた。

 加えて、委員から「約款の変更」に関する規定が必要であるという意見が述べられた。具体的には、約款変更の合理性や社会的相当性があることなど一定の要件を満たす場合には、約款使用者による一方的な変更をした後の約款にも相手方に対する拘束力を認めるべきであるという意見が述べられた。

イ 不当条項規制

 第1ステージで、「不当条項規制」問題は、主として第11回会議(H22.6.29)において、部会資料13の下記のような論点設定のもとに議論がなされた。[2]

【 部会資料13 】

 第1 不当条項規制
  1 総論(省略)
  2 不当条項規制の対象
    (1) 約款が使用された契約
    (2) 個別に交渉された条項に対する規制
    (3) 契約の中心部分に関する条項
  3 不当条項に関する一般規定の内容
    (1) 不当性の判断基準等
    (2) ある条項が不当条項とされた場合の効果
  4 不当条項に該当する条項のリスト
    (1) 不当条項リストの要否
    (2) リストの具体例(ブラックリスト)
    (3) リストの具体例(グレーリスト)

 第11回会議の「不当条項規制」に関する議論では、第1に「不当条項規制の対象」について議論された。

 まず、不当条項規制の対象について、不当条項規制を全ての契約に適用するのが望ましいという意見が述べられる一方、不当条項規制といった内容規制が正当化されるのは約款取引や消費者契約のように契約内容の形成に一方当事者が実質的に関与できない場合に限定されるという意見や、事業活動への悪影響を危惧する立場から約款条項への不当条項規制に慎重な意見も述べられた。

 また、「個別交渉条項」の取り扱いについて、実質的な交渉があれば不当条項規制の対象から除外しても良いのではないか、「当事者間で特に合意された条項」ならば除外しても良いのではないかという意見が述べられる一方で、交渉の事実だけでは契約内容の合理性は担保できない、交渉の事実は不当性判断の考慮要素とすれば足りる等といった意見も述べられた。

 さらに、「中心条項」の取り扱いについて、価格など契約の中心部分については当否の判断基準が存在しない、市場原理に委ねるべき部分である等といった意見が述べられる一方で、中心条項と付随条項の区別は困難である、携帯電話の料金規定のように価格にかかわる条項でも隠蔽効果など約款取引の弊害が存在する場合は存在する、中心部分であるか否かは不当性判断の考慮要素とすれば足りる等といった意見も述べられた。

 第2に「不当条項に関する一般規定の内容」について、①比較対象すべき標準的な内容を何に求めるか(任意規定に限るか)、②個別の相手方との関係で判断するのか、当該条項の使用が予定されている多数の相手方について画一的に判断するのか、③不当性判断の考慮要素は何か、④不当性の判断基準は何か、⑤不当条項とされた場合の効果といった論点設定のもと、議論がなされた。

 そして、①の点については、任意規定に限定すべきではなく、判例法理や法の一般原則と対比すべきである等といった意見が述べられた。②の点については、多数の相手方を基準とすべきという意見も、個別の相手方を基準とすべきという意見も述べられた。③の点については、内容的な不当性が中心的に考慮されるべきであるが、条項の明確性や平易性も考慮すべきである等といった意見が述べられた。④の点については、信義則を支持する意見が述べられる一方で、信義則を用いるのなら別規定を設ける意義が乏しいといった意見も述べられた。⑤の点については、無効と考えることを前提に、契約条項の一部が不当と考えられる場合には当該部分のみを無効と考えるべきという意見と、不当条項の助長を回避するという観点から全部無効と考えるべきという意見が述べられた。

 第3に「不当条項リストの要否・内容」について、不当条項規制の内容の明確化や予見可能性の確保に資するといった積極意見も述べられる一方、一見すると不当な条項でも契約全体としてはバランスが取れている場合もある、新しいサービスや商品の提供の支障になるおそれがあるといった消極意見も述べられた。

 


[1] 第11回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900029.html

[2] 第11回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900029.html

 

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